【ロードス島戦記 誓約の宝冠 1】 水野 良/左 角川スニーカー文庫

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"呪われた島"ロードス。戦乱に包まれたこの地も英雄達の活躍でようやく平和が訪れようとしていた。不戦を誓い合う王達であったが、時の大賢者より"誓約の宝冠"が差し出される。
「この王冠を戴いた物は他国を侵略出来なくなるであろう……」
――かくして、真の平和へと至ったロードスであったがその100年後、フレイムの王位継承者に禁忌を犯すものが現れる!
マーモ公王の末裔ライルは、この不戦の誓いに仇なす帝国に対抗すべく"永遠の乙女"の力を借りようとするのだが!?
戦乱の世を駆ける王子と伝説のハイエルフ。時を超え新たな「ロードスの騎士」を巡る冒険の旅が今、はじまる!
私がこの【ロードス島戦記】と出会ったのは30年前。まだ小学校の頃でした。当時はまだライトノベルという言葉すらなかったと思いますが、正真正銘はじめて出会ったこのジュブナイルファンタジーは自分の読書嗜好を完全に方向づけてしまったように思います。あれから30年。また新たなロードス島戦記を読むことが出来るとは思いませんでした。
完全な続編新シリーズ。ソードワールドの年表で記されていた、邪神戦争から100年後に再びロードス島で起こったとされる戦乱がこの物語の舞台となるわけです。
【クリスタニア】シリーズでは、邪神戦争でマーモを脱出したアシュラムがクリスタニア大陸に流れ着いて漂流王と呼ばれ、彼とともに脱出したマーモの民は暗黒の民として彼の地に国を打ち立てるのですが、この百年後の戦乱でもどこかの国が滅んで、その亡国の王女が率いて脱出した避難民たちが「新しき民」としてダナーン王国を建国することになるのですが、そのロードス島での戦乱の詳細については殆ど語られてこなかったんですよね。
それが今、こうして新たなシリーズとして開幕したわけだ。それだけでもワクワクしてしまうのですが、あのディードリットが健在でこのシリーズでも登場するとなるとそりゃ落ち着いていられないですよ。
ディードに限らず……あれ? 【ロードス島戦記】【新ロードス島戦記】のヒロインって百年経っているにも関わらず、何気にみんな健在のような。特に小ニース、この人てば……。今更ながら、スパークってよくこの人御せたよなあ。
一方でハーフエルフのリーフは種族的にも百年後なら生きているとは予想できましたけれど、思ってたよりもマーモ公国の中では重要なポディションについてるんですね。いや、変に大人な女性に変身していなくて、相変わらずなのは嬉しかったですけれど。しかし、スパークが存命の頃はずっとあの「国王の友人」という称号のままだったのに、現在は「境界の森の奥方」と呼ばれてるのはちと意味深ですね。スパークとの仲、実際に友人止まりだったのか否か。
そんなスパークとニースの子孫たちは、今代はみんな個性豊かな面々になってしまっていて、まあ。
現状、マーモ公王は崩御していて、今は第二王子が公王代理となっているのですけれど、4王子3姫と7人も居るマーモの子供たちはみんななんというか曲者揃いで。公王を継ぐ第二王子のアルシャーが一番まともで堅実なんじゃないだろうか。ただ、兄妹姉妹全員が凄く仲いいんですよね。王族でここまで意趣なく仲良し兄妹なのは珍しいくらいで、戦乱を前に図らずも……いや、図ってなのですが第三王子のザイードと第三王女のビーナが敢えてフレイム王国につくことでもしマーモという国が滅びても、妖魔たちを含めた暗黒の民たちを守ってきた法の秩序を保つために、陣営を異にすることになるのですが、お互いちゃんと相談した上での出奔であり敵味方別れても信頼と親愛に揺るぎがないというのは、見ていても嬉しいんですよね、なんか。
それに、フレイム側についたザイードたちも敵方になってしまった、というよりももう一方の主人公という風に描かれているので、敵役という風でもなく今後どうなっていくかわからない様相になっている。一応王族という身分はあるものの、立場上一兵卒からの立ち回りになってしまったザイード王子。そこから武功を重ねてフレイム軍の中で出世していくという戦記物の主人公ばりの活躍をしだすんですよね。本来ザイード王子って、マーモ一番の切れ者という名に相応しく、宰相とか軍師という立場で戦略をこねくり回し先々を予想して手をうって策を巡らし、というのが似合うキャラな上に王子様でもあるのに、現場からの叩き上げで勇者の資質あり、なんていう話まで持ち上がっているわけで、なんとも面白い描かれ方をしているのです。
ってか口絵のあの顔、絶対裏で悪巧みするのが趣味です、みたいな面構えなのに!! 確かに策士型ではあるんだけれど、何考えてるかわからない信用しづらいタイプではなく、誠実で信頼のおけるタイプなんだよなあ、あの顔でw
第一王子なんか相当の食わせ者っぽいけれど、みんななんだかんだといい子ばかりでスパーク王の遺訓が今も行き届いているのか、今もマーモ王族の教育係みたいなものも務めてるリーフの薫陶が効いているのか。いずれにしても、お互い覚悟は決めているとはいえ兄弟相うつという形にはなってほしくはないものであります。
また、本来の主人公というべきマーモの末弟であるライル。この子は末っ子らしくヤンチャなお子様という体なんだけれど、その分余計なものがくっついてなくて素直でまっすぐなんですよね。
だからこそ、パーンの伝説と【ロードスの騎士】という称号に対して憧れを抱きつつも単なる英雄願望や正義感に任せた勢いではなく、たとえ道化と嘲られようと自分がまずロードスの騎士を名乗ることでロードス島に住む人々が普遍的に抱ける正義を見出そうという姿勢は、正しくパーンの意志を理解し継承しようとしていると見えるのです。ディードが彼を認めたのもわかる、素朴な愚直さなんですよねえ。
まず自分がロードスの騎士を名乗ることで、幾人ものロードスの騎士が生まれればいい。ロードスの平和を願うもの誰しもがロードスの騎士になれる。彼の熱意は、戦乱の行方に不安をいだき、国の上層部の判断に不満を抱く人々に火をつけていく。
カノン王国の内乱で彼が示した活躍は、まさに大きなうねりとなり、ライルはそのうねりの旗手として名乗りをあげることになるのである。
カノン王国は、あの剣豪レオナー王の子孫なわけだけれど、代々あの剣技伝え続けていたのか。ローテル王って、もしかして今代の登場人物の中では剣の腕では最強だったんじゃなかろうか。王としても決して無能ではなく、聡明さを持ち合わせていた彼はそれ故に色々と見通しが立ちすぎてしまったのだろう。ザイードが早々にフレイムの勝利を予測したように。タイミングも悪かったんだろうなあ。ただ、あとを継いだユーク王もライルと同年代だし剣の腕も父親ほどではないものの相当なもののようですし、ライルとは良い盟友になりそう。
一方で、この戦乱を引き起こしたフレイムのディアス王はなんだろう、今の所シリーズのラスボスとしてはまだ役者不足に見えるんだよなあ。ロードス統一を目論んだのは彼自身の野心ではあるんだろうけれど、フレイム王国全体に蔓延っていた大国に成長した故の市井や貴族の増長が根底にあってその後押しがあったわけだし、傭兵王カシューの意志を明確に取り違えているし、その割に格好とかカシュー王のマネしてるのは何とも劣化カシューに見えてしまうわけで。今の所目立った瑕疵はなく、着実に戦果をあげているものの……実のところそこまで傑出した英傑であるというエピソードがあったわけではなく、この段階では評価しづらいんですよねえ。
むしろ、王弟のパヤートの方が真意も見えず何考えているかわからない分、器を感じさせる部分もあるんですよね。マーモの第三王女ビーナと恋仲で、現在ザイードを取り立ててくれているザイードサイドの上司でもあるので、その分評価が加算されているのもあるのだろうけど。
ライルが旗印となりつつある自由騎士団。フレイムに対抗せんと連合しはじめるマーモなどの諸国。順調に領土を切り崩していくフレイム王国ディアス王、その麾下としてディアスに従いつつもその周辺に独自の仲間たちを集めだしているザイード。まだ戦乱は始まったばかりながら、かなりの錯綜を見せていて、先行きどうなるかの予測が立たなくてそれが余計にワクワク感を増してくれるのです。特に、ディアス王側に入ったザイードにこれだけスポットをあてて主人公にしてもおかしくない働きを見せてくれると、単に野心を滾らせ戦火を広げた覇王を倒したら終わり、という単純な構図になりにくくなりましたしね。
ちょいと登場人物が多い分、個々のキャラの掘り下げがそこまでいかず、サクサクっと進んでしまうのでもう少しじっくり腰を据えて個々を見ていきたい、という感触もあるのですが、話が進んでいけば自然と深まっていく部分かもしれないので、兎にも角にも続きを欲するばかりです。
パーンはもう居ないロードス島戦記ですけれど、たとえ個人としてのパーンは消えても、伝説とその意志が今も色濃く残っていることを感じさせてくれる、間違いなくロードス島戦記なシリーズ開幕編でした。