【嘘つき戦姫、迷宮をゆく 5】 佐藤 真登/ 霜月えいと  ヒーロー文庫

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クランバトルで『栄光の道』に勝利したリルドールたちはコロネルを取り戻し、クラン『無限の灯』として慌ただしく活動を続けていた。そんな折、リルドールは決闘で負けて追放されて以来、一度も戻っていなかった実家から呼び出しを受ける。そこで父親から、五十階層主討伐の褒賞として、叙勲の話が来ていると聞かされた。リルドールは家族との確執に揺れながらも、ようやく手にし始めた栄光に、明るい未来を思い描いていく。叙勲式当日。華やかなドレスを身にまとったリルドールたちはそこで、すっかり破壊され、血に塗れた会場を目にする。呆然とする彼女たちの前に現れた男は、コロネルの育ての親のような存在、クルクルだった―。

……凄かった。
もう、クルクルおじさんことクルック・ルーパーが凄すぎた。とんでもなかった。なんちゅう圧倒的な存在感。その言葉、その行動、その強烈な意志すべてが火花を飛ばして猛り狂っているかのようで、その一言一言に横っ面をひっぱたかれたようだった。
敵役として、悪役として、文句なしに魅力的で衝撃的で圧巻で、その生き様在り方の凄まじさにもうなんというか、引き込まれて引きずり込まれて飲み込まれて、言葉もないくらいに絶句させられて、ただただ魅了されてしまう。
この巻は、世界の謎の一端が明かされる巻である以上に、クルック・ルーパーという世紀の大悪人、歴史に燦然と輝く史上最悪の虐殺者の、独壇場でありました。
この人の戦う理由、人を憎み世界を呪うその動機は完全に狂ってはいるのですが、でも一切ブレることなく一貫していて、筋が通っていて、説得力があって、納得させられてしまうんですよね。
その在り方を許してはいけないけれど、これ以上なく共感してしまうのはダメなんだろうか。クルック・ルーパー自身は自分を大悪人と自称して胸を張り、彼の目的からすればその称号は汚名ではなくむしろ奨励すらするべきものなんだけれど、その根源はあまりにも純朴で……純粋で、だからこそ尊敬すらしてしまう。その在り方に尊さを見てしまう。
この人は、ただ友達が大切だっただけなのだから。
そして、この人は汚泥のように人という存在を憎みながら、その心の輝きに関しては常にリスペクトし続けているんですよね。根本的に、人を小馬鹿にしたような言動を取り続けながら、常に誰に対しても真摯で誠実で在り続けているのである。カニエルたち50階層主たちに関しても、甘言を弄して唆して彼らの秩序を崩壊させてしまっているにも関わらず、本気で彼らのことをクルック・ルーパーは尊敬してるんですよね。そして、この世に生まれる強者たちを、本物の英雄たちに敬意を隠さない。
それは、そんな本物たちを切り捨てることで自分の悪名を更に轟かせ、自分の悪名が轟けば轟くほど自分が決して勝てなかった親友の名があがるからこそ、なんだろうけれど、そんな理由抜きでこの人は本気で英雄たちを敬愛してるのが伝わってくるのです。彼が人を憎むのは、人を信じているからこそ、なんじゃないかと思ってしまう。狂気の淵に沈みながら、一方でこの人はあまりに理性的だ。世界が滅ぶことを納得しながら、自分を乗り越えていくモノたちにずっと期待している。
いや、その期待が産まれたのは、彼がコロを拾ったときからなのかもしれないけど。あの子を拾って育てて愛情を抱いた時にはもう、彼には不必要を切り捨てた余分が生じてしまっていたのだろう。
しかし、その余分を取り込んでクルック・ルーパーはさらに強くなったに違いない。コロネルたちの前に立ちふさがったクルック・ルーパーの威勢は、コロたちと関わったからこそより熱くなった。より強大になった。より鮮烈になった。
クルック・ルーパーは、誰よりも凄かった。それだけは、間違いない事実だ。

しかし、お互いに成人した時に名付けあったというイアソンとクルクルおじさんだけど、親友にしてライバルであった相手に、クルクルパーなんて名前つけるあたり、イアソンって相当に食わせもんだったんじゃないだろうか、これw


剥き出しにされたクルクルおじさんの心情の激烈さに震えた今回だけれど、彼に限らずその内側を剥き出しにされ無造作に曝け出されてのたうち回った、といえばリルドールも凄まじいものがありました。
いつものたうち回っているリルですけれど、クルック・ルーパーの出現という狂乱の中で、彼女は全く別のものにその全存在意義を踏み躙られてしまうのです。
ライラ・トーハ。現代最新の大英雄にして、リルドール没落のきっかけになった人物。彼女につっかかりながら一顧だにせず一蹴されあしらわれ、プライドというプライドを粉々にされた挙げ句にそれでも残されたプライドの断片にしがみついて、ライラと同じ冒険者として身を立てて、彼女を見返してやると醜く無様に意気込んだのが、リルドールのはじまりでした。
その歪んだ執念はコロネルとの出会いによって解消されていくのですが、それでもライラという存在はリルにとって根源であり原動力であり、彼女によって否定されたものを覆し、彼女に認めてもらうことこそが、コロネルに相応しい存在になるという理由と並び立つ、リルドールの根源だったわけです。
そうして頑張ってきたことを、仲間たちと証明してきたことを、死ぬ気で身を立て確立してきたものを、そしてリルにとっての密やかな憧れを、すべて全否定され徹底的に踏み躙られたのが、あのライラとの再会であり、かの英雄の本質があらわになってしまったシーンでした。
そのライラもまた、信じてよすがにしてきたものを、かろうじてしがいみついていたものを徹底的に全否定され、その在り方を木っ端微塵に打ち砕かれてしまうのですが。

これ、今回そうやって自分が信じて拠り所にしていたものを木っ端微塵に砕かれて、全否定されて、その後がコロネルとリルドールとライラでは、正反対になってしまうんですよね。
それこそが、クルック・ルーパーをしてコロネルとリルには期待を込めて、ライラにははっきりと期待はずれと見なした理由であり結果であったのかもしれません。
とはいえ、これはライラにとっては酷な話でもあるんですよね。ライラにとって、リルにとってのコロ、コロにとってのリルはもういなかったのですから。だからこそ、クルック・ルーパーも自分の同類と見なしたのでしょうから。もし、同じようなシチュエーションになって、ヒィーコやムドラがセレナと同じような態度を見せたとき、リルやコロは果たしてライラと違う反応が出来ただろうか、と考えてもしまうんですよね。
それでも、あのライラの自分に対する無関心さを目の当たりにした時のリルドールのショックの描き方は、この作者が描く心を剥き出しにしてそれが罅割れる描写の生々しさ、本当に凄いと思うのです。この痛みの描写があるからこそ、それを乗り越えていく姿の熱量と瑞々しさが、心が一つ強くなる重さが、ダイレクトに伝わってきて、胸を打ち震わせてくれるのです。
メインのキャラたちの、強烈なシーンのみではなく、例えばリルが愚直に下手くそなレイピアの練習を続けるシーン。あそこで、リルドールが不器用に練習する姿にニナファンがリルの本質を知ってこれまでの英雄としてのリルに抱いていた尊敬が、全く異なるでももっと深い尊敬に変わるシーンなんか、密やかでありながら味わい深く、またリルという存在が他に追随を許さない輝かしい英雄であるコロやライラとはまた全く別の、普通の人々の心に火を灯してくれる存在なのだというのが伝わってくる、細やかで静かだけれど良いシーンだと思うのです。
非日常の中での激しい動きと、日常の中での静かな浸透、静と動どちらもがしっかりと書き込まれ、描きこまれているんですよねえ。

ちなみに、エイスの魂の叫びに関してはおおむねスルーの方向で、見たママを受け入れましょう。なんか完全にみんなから、アブノーマルな趣味と認識されてしまっていて哀れではありますが、まあエイスですし、うん。でも、これウテナがハマってしまって結構ヤバいことになるんだよなあw

カラー口絵見ると、何気に一番美人さんな仕上がりのドレス姿になってたヒィーコ。この娘も元の素材がいいからか、化けると凄いよなあ。そんな彼女ですけれど、ウェブ版には居なかった仲間であるムドラとのコンビで、ウェブ版よりもさらにパワーアップしてるんですよね。まさか、変身ヒーローバージョンを上回るところまで行くとは思っていなかった。
しかし、リルたちのパーティー、リルの縦ロール多脚走行モードなんかも加味すると、今度のヒィーコとムドラのコンビと合わせて普通の四人パーティーにしては占有面積というか、サイズがでかすぎませんかね!?

第七七階層の門番となっていたクルック・ルーパーが明かしてくれた歴史の真実、そして世界が現在置かれている状況は、まさにこの世界のタイムリミットが間際に迫っているという絶望的なものであり、今百層を占拠している謎の化け猫の存在、そしてその猫の犬に収まった裏切り者というあまりにも大きな壁の連続が、リルたちの前に示される。
しかし、逆に言えばはっきりと目標となり突き進むべき方向が明らかになった、というべき状況であり、何よりリルドールにとって果たすべき、付けるべきケリというものがその百層に生じたのですから、あとは突っ込むのみ。本当の意味で世界を救う戦いが、リルが掲げる「無限の灯」を先頭に今始まるのである。クライマックス、ここからさらに盛り上がるぞ!!

佐藤真登作品感想