【生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい 01】 のの原兎太/ox  エンターブレイン

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エンダルジア王国は『魔の森』のスタンピードによって滅亡した。錬金術師の少女・マリエラは『仮死の魔法陣』の力で難を逃れたものの、ちょっとした“うっかり”で眠り続けてしまい、目覚めたのは200年後。―そこは錬金術師が死に絶え、ポーションが高級品と化した別世界だった。都市で唯一の錬金術師になってしまった少女・マリエラの願い。それは、のんびり楽しく、街で静かに暮らすこと。ほのぼのスローライフ・ファンタジー、ここに開幕!
錬金術師が死に絶え、とあらすじに書いてあるのでポーションの製作技術そのものが絶えてしまった世界なのかと勘違いしたのだけれど、エンダルジア王国があった地域では錬金術師が絶えてしまったけれど、他の地域では健在なんですよね。ただ、ポーションには土地縛りがあってその地と契約みたいなものをしてその地域の魔力を使って製作しなきゃいけない上に、その地域から出るとポーションも力を失ってしまう、という特性がある世界観……って、めっちゃ使いにくいなポーション!! グローバリゼーションに覿面に適さない地域特性! いや、流通が馬車レベルに限られてしまっている時代でも、生産された地域でしか効果を発揮しない、効果を維持するためには極めて高価な魔法具を必要とする、というのは使いづらくて仕方ない。鮮魚が港付近でしか流通しないのと似たようなもんか。もちろん、食材の一つに過ぎない魚と、特殊な回復アイテムであるポーションとでは重要度が全然違ってくるだろうし、マリエラが目覚めた迷宮都市は魔物と対峙する最前線とも言える場所でポーションの需要も非常に高いわけだから、そんな中でポーションを生産できる唯一の存在になってしまったマリエラの重要性というのは、政治的な意味においても極めて高いものになってしまうのか。
幸いなのは、マリエラ自身がその危険性に早々に自分で気づいていたことか。200年前の世界でも一人で細々と自分でツテを作ってやりくりしていたからこその慎重さ、なんだけど一方で根っこの部分でぽややんなんですよね、この子。経験に応じて注意深くはなっているし聡明ではあるんだけれど、鈍くさかったり押しに弱かったり、いわゆる切れ者とは程遠いんですよね。200年前もなんかぼったくられてたみたいだし。
最初に出会ったディック隊長たちの輸送隊が良い人たちだったから良かったものの、ディック隊長のことお人好しで大丈夫か、なんて心配してる場合じゃないぞマリエラさんよ。
そういう意味でも一人でやってくには心配な子だったのだけれど、迷宮都市に到着した早々に廃棄されかかっていた死にかけ奴隷のジークムントを買い求めることで、相棒を手に入れることに。
ただ、その動機というのが寂しさからなんですよね。200年後の世界で見知った人は全員死に絶え、住んでいた街も滅び、スタンピードの恐怖は眠っていた彼女にとってつい昨日のこと。恐怖と孤独感に突き動かされ、絶対的な味方、自分のそばに居てくれる誰か、というのを求めた結果が、偶々目の前で死にそうになっていたジークムントだったわけである。
これって、つまるところ「誰でもよかった」という意味でもあるんですよね。ぽややんな所のあるマリエラは、そのあたり今のところはあんまり深く考えていないようだし、寄す処とも言えるジークのことを大事にして、死にかけの体を回復させて、奴隷扱いではなく自分の助手か相棒のように接するのだけれど、ジークの方はそう簡単に割り切れないんですよね。
奴隷にされていた間、酷い扱いを受けていたジークは本当に心身ともにボロボロになっていて、それを救ってくれたマリエラには崇拝に近い気持ちを抱くのだけれど、同時に自分でなくても誰でもよかった、という事実は誰よりも実感しているし、途中で自分が彼女に抱いているのは崇拝などではなく、自分がもう二度と奴隷時代の酷い境遇に堕ちないための拠り所に過ぎないと気づいて、自分の醜悪さに苦しむことになるのである。
ジークが奴隷落ちしたのは誰かに騙されたとかではなく、結構自業自得なところがあるんですよね。元々腕利きの冒険者であったものの傲慢でろくでもない人間だった、というのはちょっと驚きの過去ではあったのですけれど、地獄を経験してそこから救われても醜さが消えてなくて、そんな自分を自覚して本当の意味でマリエラを、自分を救ってくれたこの人を守れるようになりたい、と自分に命題を課して生き方を改め努力を積み重ねていくジークは、最初からいい人だったというのとは違う味わいがあって、二人の関係がどうなっていくのかは非常に興味深いところであります。
縁が出来た黒鉄輸送隊の面々に助けられ、他にも良い縁を繋いでもらったお蔭で、なんとか順調に迷宮都市に生活基盤を築いていくマリエラとジーク。ただ、マリエラの持つ希少性はかなりのもので、彼女を取り巻く環境は決して安定しているとは言い難い。今後、色々と立場的にも危うい展開に巻き込まれそうだけれど、普通の女の子であるマリエラがどうやって乗り越えていくのか、楽しみでもあります。