【スカルアトラス 楽園を継ぐ者 1】 羽場 楽人/hou  電撃文庫

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万能元素エーテルの飽和により巨大化したモンスター。世界は蹂躙され、人類の文明は滅亡した。―それから幾星霜。地上五百メートルの円柱上に築いた楽園ベルバで人類の子孫は生き延びていた。ベルバ円柱の地下に眠り続け、氷結の眠り姫と崇められる巨大骸骨の化石兵器スカルアトラス―。彼女に恋い焦がれる考古学者クレイは、その意志を持った化石兵器の覚醒に立ち会う。アジュールと名乗る少女に擬態したスカルアトラスとともに、クレイは閉塞した世界を変革していく。時を同じく、絶滅したはずの最強種ドラゴンの復活が囁かれ…。青年は巨大化石兵器を駆り、神話の獣を討つ!歴史紡ぐ幻想浪漫譚、開幕。
【わたしの魔術コンサルタント】の羽場さんの新シリーズは文明崩壊後に悠久の時間を経て再び地上に人類国家が誕生した時代における古代兵器を巡るストーリー。
円柱都市ベルバという舞台となる場所の歴史や、世界が置かれた状況。ベルバに限定せずに他国を含めた人類の現状とここに至るまでの推移が詳細に描かれていて、それがダイレクトにスカルアトラスと呼ばれる存在へと繋がっている。こういうしっかりとした世界観、歴史、舞台設定の作り込まれた作品はほんと好きです。バックグラウンドがしっかりしていると、登場人物たちが飛び回る姿がよりくっきりと浮き上がるものですから。
しかし、てっきり発掘された古代兵器に登場して戦うロボットものの一種かと思っていたのですが、いや概ね間違ってはいないのですがそういう機械機械したロボットではなく搭乗という感じでもなく、これって一種のウルトラマン形式の巨大変身ヒーローものの類にあたってしまうのか。
その当事者、スカルアトラス本人のアジュールはというと、当初は私兵器ですのでー、とばかりに人間らしくない無機質で無表情な様相を心がけているのですが……どうにも当初の姿って取り澄ましてた感じなんですよね。クレイとの交流で人間的な情動が産まれて人らしくなっていった、というのとはちょっと違う感じなんですよね。段々と、繕っていた非人間性の仮面の下からポロポロと素の感情がこぼれだしはじめた、というか……いや、当初からそういう意味ではあんまり繕えてなかった気もしますけど。すぐにクレイの化石バカらしい空気読まない発言に「凍て殺しますよ!?」とか怒りだしてたし。
まあ本人意識して繕っていたわけじゃなく、兵器なんだからクールにするもんだ、と思い込んでそう装っていた、という感じですけど。初っ端からドラゴンとサラマンダー勘違いして慌てて飛び出してきたりとか、ポンコツ要素まったく隠せてなかった気もするのですけど。
というわけで、クレイと付き合っているうちにそのハチャメチャさ、無鉄砲っぷりにあれやこれやと取り澄ましているわけにはいかずに、早々に人と変わらぬ情動を取り戻して、クレイを叱り飛ばす日々になってしまうわけです。従妹にあたるベルバの時期女王な姫様も、クレイの古馴染みのシークもクレイと顔をあわせるととかくお小言を言わずには居られず、それにアジュールも早々に加わざるを得なかったところに、クレイの化石バカっぷりが伺い知れるというものです。彼の化石愛には、ちょっと変質者入った部分もあるもんなあ。これで完全にアジュールのことも化石と同一視してしまってたらさすがにドン引きなのですが、化石としてのスカルアトラスを大事にするのと同時にちゃんとアジュールを女の子として丁寧に取り扱っているあたりは最低限のデリカシーは維持していたものと思われます。というか、わりと見直しましたけれどね。少なくとも無神経さとは程遠い接し方でしたし。
しかし、一方で異性に対するきっぱりとした線引きはハクアたちがちょっと可愛そうになるくらい。そこはむしろいい加減でも良かったんじゃ、と思ってしまうのはあかんでしょうか。でもシークに関してはちゃんと全部お話してたら、それだけで彼女に夢中になってたんじゃないか、という疑惑が。シーク、何気に最初期に致命的判断ミスしてたのよね、これ。でも、普通考えてあんな変態的な化石バカになるとは思わんだろうしなあ。
彼女の正体については、薄々途中からなんか怪しいな、とは思っていたものの、巫女さんと繋げてはまったく考えていなかったので、ラストの展開は結構本気で驚かされました。いやでも、そうならあそこで拗らせなきゃよかったのに。ヤンデレの業なのか。彼女の来歴を考えると、どうしてもアジュールを受け付けなかった、というのもわかるんだけれど、本質的にシークが優しい人だったというのはアジュールの意識内での会話からもわかるだけに、無茶さえしなければと思ってしまう。戻ってくる余地がなくはない、という程度に蜘蛛の糸は垂らしているみたいだけど。
しかし、変態的という意味では何気にアジュールも同類の素質はあるんですよねえ。クレイが幼いころから氷の向こうのスカルアトラスに夢中になっていたように、スカルアトラスなアジュールの方も髪の毛一本にいたるまで完全再現できるくらいにはクレイを夢中でガン見してたわけですしね。いや、実際見すぎじゃね? というくらいの完全再現なわけですし、どれだけ細部に至るまで見てたのか。
ベルダ国内での大事件はなんとか決着したものの、あれこれと詳細に説明されていた国外の状況が伏線となって、今度は世界を巡るお話に。まだスカルアトラスの姉妹たちが5人か5体か存在しているわけですし、さらに舞台のスケールも広がって話も盛り上がっていきそう。楽しみなシリーズになりそうです。

羽場 楽人作品感想