【ミリオン・クラウン 5】 竜ノ湖 太郎/焦茶  角川スニーカー文庫

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九州における死闘を終え、王冠種の一体・大山祇命の討伐を達成した極東都市国家連合の面々。戦後の処理を終え、東雲一真は「那姫とのデートの約束」に悶々としながら休暇を取ることになったのだが――休むどころか立て続けに予定(イベント)が入り!?
帰国した赤服筆頭・倭田龍次郎――"最強の流体操作型"とも言われる元最強戦力との手合わせから始まり、中華大陸連邦・EU連合の突然の来日と時代を揺るがす『新型兵器』の公開、そして最後に待ち受けるのは緊張の本番(デート)で――! 数々の物語が交錯し、波乱の休暇が幕を開ける!
竜ノ湖太郎が放つ人類再演の物語、激震の第5巻!

デートって、もっと軽い感じの二人でちょっと遊びに行こうぜ、という程度の話かと思ってたのに。
那姫も一真も思いっきりガチじゃねえか! 本気も本気のデートじゃないですか!
いやまあ一真も若い男の子。憎からず思ってる女の子からデートしようぜ、と言われちゃあそりゃあ真顔になっちまうか。生真面目な気質だけれど木石ではないものねえ、カズくんも。決して女慣れしているわけじゃないし、そりゃデートとなれば勢い込むかー。なんか気合い入りすぎててどうよ、という感じすらあるのだけれど、そんな意外と余裕なさげな所もここでは愛嬌というものでしょう。
意外だったのは那姫の方で、いや彼女の方こそもっと気軽な感じでデートって言い出したと思ってたんですよね。ところが、どうにもこうにも彼女の方もなんか凄く気合い入れててびっくりですよびっくり。彼女の本心に関しては未だに肝心な所は見えにくいんですけど、一真に対して凄く信頼を向けているのはわかるんですけれど、異性としての好意は抱いてるんだろうか。そのあたりまだちょっとわからないんですよね。そりゃデート誘うくらいだし、今まで全然とっていなかった長期休暇を全部このデートに使っちゃおうというくらいには本気だし、デートプランの立て方もガチで気合い入れてたし、一真のこと軽く考えているわけでは決してないでしょうけれど、その好きが恋だのなんだのか、と断言できるかというと那姫って公私の私の部分が壊滅している娘なだけにちゃんと考えているのか居ないのか。
今回語られた那姫の出自の件や彼女がそれを徹底的に伏せている事も、プライベートを開放しない事と繋がっているのでしょうけれど、彼女が自分から自分の出自に関して秘密を口にできるようになるかが、判断の物差しにはなったのでしょうけれど。
穏当な意味でその物差しが使われることは、ラストの展開からなくなっちゃったもんなあ。

ともあれ、シリーズ始まってからようやく落ち着いた環境でのはじめての日常回。今までは日常パートあっても戦闘と戦闘の間、みたいな緊張感が抜けきらない緊迫感が常に横たわっていたきらいがありましたからね。
本当にこうしてリラックスして今の状況を振り返り、周りの人たちのことも顧みる事のできる余裕がある時間、というのはやっぱりはじめてだったんですよね。五巻にいたってようやく、というのが色々と過酷がすぎますけど。
でもそういう日常回がないと、個々のキャラクターってなかなか新しい側面とか今まで見えなかった部分とか出てこないんですよね。あれ、こいつってこういう子だったのか、というのが見えてこないとなかなか非日常の火急の最中の言動だけではキャラの掘り下げって進まなかったりするし、落ち着いた環境でないと登場人物同士のお互いの認識というのも刷新しがたいものがある。もちろん、読者からしてもこういう場面のほうがキャラの認知って進むんですよね。
しかし、倭田龍次郎って人そう言えば今までずっと不在だったのか。いや、なんども話題にはあがっていたので、ずっとバタバタしてたのもあるんだろうけれど、存在感があるのかないのかよくわからん存在だったんですよね。現れてみると、飄々とした食わせ者のおっさんだったわけですけど、そういえばこういう前線で頼りになる困ったおっさんタイプの人周りには居なかったなあ。こういうベテランが一人いるだけでも余裕のあるなしが変わってくる、というのが今更ながらに実感できる。
そんでもって、こういう人が居てくれるからこそ、主人公の一真の足りない部分が見えてくることもあるんですよね。ってか、教えベタだったのかカズくん。年齢考えたら自分の技だの心構えだのを他人に教えたり伝えたりするのって、まだまだ自分の事に興味の比重が傾いている時期だし経験として教えたり育てたりというのはする方じゃなくてされる方なわけですから、あんまり教える事に関して意識が向いていない、というのも仕方ない気もするんですけどね。
ただカズくんの場合はそもそも指示したり指導したり、というのが得意そうじゃない、というのもあるんだけれど。隊長になっても、結局じぶんが突っ込むばかりだしやろうと思ってもうまく出来てない感じですしねえ。こればっかりはもっと歳を経て練れてこないと無理なんじゃないかなあ。

さて、当初は最大の警戒対象だった中華連邦ですけど、王総統はもう絶大に信頼の置ける人物であることがわかりましたし、あのお茶目というかフリーダムなところもむしろ人柄としても信用に値すると思わせてくれるところなんですよね。あの油断ならない静雨大使も性格悪いし連邦の利益優先でガンガン謀略しかけてくるけれど、人間としては信用のおける人物だというのがわかってきた感もあり、あの国は頼もしい味方と思ってもいい……もちろんこっちも相応しい力を示し続けなければならない、という前提はあるにしろ、人類共同戦線としては十分に成り立つ間柄、というのは確信できたわけですが……。
ついに、人間サイドの中でもはっきりとした敵役も姿を現してきたわけで。ウロボロスかー、これは思っていた以上にたちが悪い相手かも。どうやらまたぞろ情報操作にも長けているみたいだし、とびっきり邪悪そうだし。
ああ、実に日常回の締めに相応しい奈落への突き落とし方じゃあないですか。

シリーズ感想