【お隣さんな教え子と甘い○○】 望月 唯一/maruma(まるま)  講談社ラノベ文庫

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出世には興味なし。仕事に求めるのは安定した給料と休暇のみ―。それが高校の調理科でパティシエの講師を務めている俺の方針だ。だが、新入生として入学してきた、理事長の孫娘である四宮蒼梨花が、特別授業を求めて俺に迫ってくる。仕事が増えるのはごめんだと断った俺だが、なんと蒼梨花は俺の隣の部屋に引っ越してきた!必要以上の仕事も無駄な努力も、俺のスタイルじゃないのに…。蒼梨花の熱意に負けて、俺は最終的に特別授業を引き受けることに。だが、俺の妹弟子にして、天才だがトラブルメーカーの少女・赤崎エイプリルたちを巻き込んだ日常は波瀾万丈で…!?お菓子も仕事も青春も、甘くて時にはほろ苦い―年の差師弟の学園ラブコメ!

調理師学校じゃなくて、通常の高校に調理科なんて学科がついている学校とかそんなのあるのかー、とびっくりしたんだけれど、調べたらそれなりに存在してるんですね、そういう学校。
思いの外、学生の進路って多種多様に広がっているもんなんだなあ、とちと感心したり。
そんな調理科で講師をやっている新見はかつては現役バリバリのパティシエとして活躍していて、四宮蒼梨花がパシティエを目指すきっかけになった人物でもある。とはいえ、蒼梨花が知っている新見はパティシエという仕事に誇りと情熱をもって働いていて、進路で悩み母親と喧嘩して家出していた蒼梨花に夢と熱意と憧れを抱かせてくれた恩人だったのだけれど、今の彼は情熱の火が消えて現場からドロップアウトしたやる気ゼロの講師でしかなかったわけだ。
蒼梨花が知っている彼とのギャップは、そのまま彼の過去と今の現在地の差異でもあり、彼女が滾らせている情熱はそのまま新見が宿していた熱量でもある。
かつて、少女に引火した情熱の火が回り回って、今それを失ってしまっていた新見の前に現れて、その熱と炎の勢いをもう一度もとの持ち主のところに戻ってきて、灯火を再点火しようとする、これはそんなお話だ。
幸いだったのが、新見の中の火は完全に鎮火してしまったわけではなく、熾火としてずっとジリジリと灯り続けていたことだろう。ゼロからもう一度火をつけようというのは大変だけれど、火が残っているのなら適切な燃料を加えればすぐに燃え上がる。やる気がないとうそぶきながらその腕を鈍らせるどころか密かに鍛え続けていた新見にとって、かつての自分を容易に思い出させてくれる夢に邁進する蒼梨花の姿は、適切以上の燃料になっただろう。結局、彼が現場を離れたのは大好きな菓子作りを嫌いになってしまわないための予防行動であって、心底嫌になったのならこんな風に講師としてもお菓子作りに携わり続けるものだろうか、ってなもんだ。
なので、新見先生、あんまり無駄な足掻きはしないで積極的な蒼梨花の行動に逆らわずに手を差し伸べてくれるんですよね。個人授業もちゃんとしっかり厳しく行ってくれてるし。
ただ、あの放課後個人授業ってそんなんホンマにあるんかいな、というぐらいなんかアレな制度ですよね。特定の生徒を贔屓して、というのも反発くらいそうだし評価も難しかろうし、何より講師と生徒とはいえ一対一でそんな、ねえ。いやまあ、学校で居残って程度なら全然問題ないのかもしれないけど。新見と蒼梨花の場合は部屋も隣で生活に重なっているという時点でほぼアウトである。保護者の許可というか推薦というか後押しがあるため、ギリギリセーフなのかもしれませんけれど、アウトセーフの判断基準は保護者な理事長次第、という首根っこの掴み方w

とはいえ、なかなか王道というか正道を行く挫折からの復活譚。弟子や生徒から逆に教えられる事になる教師モノとして、内面描写も堅実ながら丁寧な良作でありました。
エイプリルはなー、あの子はどこまで兄弟子に対して本気だったのかしら。蒼梨花の出現がなかったら兄弟子を立ち直らせるのは自分だったなり、という自負は垣間見えたような気もしたけれど。

望月 唯一作品感想