【ロード・エルメロイII世の事件簿 9「case.冠位決議(中)」】 三田 誠/坂本 みねぢ  TYPE-MOON BOOKS

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『……魔術師とは、裏切るものです』
最後の物語は、いよいよその深奥へ――。
ついに明らかにされた、ドクター・ハートレスの目的。
その内容に苦悩するエルメロイII世。一方、学術都市スラーがハートレスたちによって急襲される。しかし、迎撃に出たライネスたちが遭遇したものは、驚くべき人物と想像だにしない事実であった。
冠位決議を前に、連鎖して引き起こされる破局。
連続失踪事件に秘せられていた真実。時計塔の地下、霊墓アルビオンに仕掛けられた君主たちの陰謀もまた、傷ついたエルメロイII世に牙を剥く。

なるほどなあ、段々とわかってきたぞこの最終章の肝。
カラー口絵でのドクター・ハートレスの姿が思っていたのとかなり違っていたのが突破口となったというべきか。もちろん、そのイメージが合っているかどうかの答え合わせは下巻を待たないといけないのだけれど。
ハートレスという人物があまりにも未知すぎて何を考えているかわからない得体の知れない存在である、という人物像そのものが彼を取り巻く一連の出来事に迷彩をかけて謎を深めていたのだけれど。
彼が語ったこの一連の出来事を起こした理由。詳しい内容を語ったわけではないけれど、決して大仰な理由あってのことじゃない、という言葉をこれ、そのまま受け止めた方がいいのかもしれない。
明らかになってくるハートレスが行おうとしている事が、とんでもないスケールの話になっていっていることが余計に混迷を深める原因になっているけれど。
改めて思い出そう。この物語は、この作品は。
魔術師という「人間」たちの物語なのだということを。魔術師という人から根本的に外れてしまった異形の存在の、それでも残されている人間性を語り尽くす物語だということを。
そして、その魔術師という在り方に忠実で誠実で恋い焦がれていながらも、そんな魔術師という人種の中にどうしようもなく残滓している人間性というものの権化というものが、エルメロイ鏡い箸い人なのだということを。
もう一度振り返る必要があるのだろう、きっと。

彼がハートレスによって打ち込まれた楔は、彼が望んでも結局為し得なかった夢がもう一度叶うかも知れない、というエルメロイ鏡い慮什澆旅堝宛桐の根幹に沿うものだったわけだ。
ハートレスを邪魔するということは、自分があれほど乞い願って人生そのものを注ぎ続けた夢の実現を自ら否定し邪魔するということだ。エルメロイ鏡い立ちすくんでしまったのも無理はない。それはいわば、彼にとっての根源への到達とも言えただろう。
でも、そんな彼の背を押し躊躇いながらももう一度進もうと、ハートレスと相対する道を進もうと思わせたものこそが、彼の魔術師ならざる人間性に根ざす繋がりだったんですよね。
彼がウェイバー・ベルベットからロード・エルメロイII世になってから残してきた足跡。それによって得た信頼、親愛、信用は彼が優れた魔術師だったからでも、イスカンダル大王の臣下だったからでもない。グレイの献身も、アトラム・ガリアスタの好意も、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの信頼も、メルヴィンの友情も、ライネスの親愛も、弟子たちの敬愛も、エルメロイ鏡い凌佑箸靴討良分を肯定してくれたからこそのものだったのではないでしょうか。
オルガマリーも、場合によっては化野菱理ですらも、エルメロイ鏡い箸遼盻兒佞箸靴討任呂覆た佑箸靴討慮斥佞法大いに影響されその後の人生の歩み方に変化をもたらしている。
思えば、かのイスカンダルだってウェイバーのどこを愛したかといえば、そのどうしようもないくらい人間味のあるところだったんじゃないのか。賢くも愚かで野心も欲望も抱きながら純真で情に厚い。何より自由であったところを。
どうしてイスカンダルがウェイバーに生きろと言い遺していったのか。どうして、かの大王は配下の英傑たちに「もっとも強き者が帝国を継承せよ」と言い遺して後継者戦争を起こさせたのか。
彼が何を愛したのか、それを思えば何となくわかる気がする。彼が臣下に求めていたのはレディ・ヘファイスティオンが思い描きだからこそ今憤っているそれとは、大きく違っていたのではないだろうか。
イスカンダルが、彼に何を託したか。いや、どうして託したか。そして、他にも多くの人たちがエルメロイ鏡い鵬燭を見出し、自分の中からいくつかをわけて彼に託していく。なぜ、どうして。その理由こそが、エルメロイ鏡い遼盻兒佞箸靴討任呂覆げ礎佑任△蝓彼への肯定なのだ。
立てなくなってしまった彼を立ち上がらせたもの。それが、このシリーズでずっと語られ続けていたものなのだろう。エルメロイ鏡ぜ身が、いくつもの事件の中で肯定し続けたものが、回り回って彼のもとに還ってきた、と言えるのではないか。ずっとそれを見続けていたグレイの手を伝わって、それが彼を立ち上がらせる形を為した。
いいね、主人公の立脚点に立ち戻る。これこそが最終章ってなもんだ。
まさか、シリーズの出発点にも立ち戻るとは思わなかったけど。【剥離城アドラ】をこんな形でもってくるのは、ちょっとズルいぞ。でも素敵だ! さあクライマックスを前に盛り上がってきたぞー。

しかしあれですよね、ご褒美というべきかなんというか、橙子さんの全開戦闘が見られたというのは大盤振る舞いすぎやしないでしょうか。まあ、あれでも手持ちのカード全部吐き出したわけでは全然ない、というあたり蒼崎橙子という魔術師のヤバさが伺い知れるというものですけれど。
というか、この人これだけ人外魔境な魔術師たちがぞろぞろと登場している中ですら別格の風格なんですよね。決して戦闘型の魔術師ではないはずなのに、たとえ相手がサーヴァントであってすら負けてる姿が想像できないあの底知れ無さはほんととんでもない。現代の魔術師にも関わらず、神代の魔術に引けをとっていないってなんなんだろう。マジで。マジで。

最後にこの巻で一番キュンキュンした台詞を引用したい。
「いいえ、いいえ。そんなはずありません。拙がライネスを嫌うはずがありません」
グレイとライネスがお互いのこと大好きすぎる件について。尊い!
何気に数あるFateシリーズの中でも屈指の仲良し女子二人組なんじゃないだろうか、この二人。

シリーズ感想