【異世界でタコ焼き屋はじめたけど、わりと簡単につぶれた】 七色春日/キンタ  HJ文庫

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河川敷で生活する男の名は暁平助。転移した異世界でたこ焼き屋を開業し、一山当てた時の人だ。しかし、ある事件により事業は頓挫。瞬く間にホームレスに。
そんな平助が一日の糧を賭け、バーガー屋のゴミ捨て場でカラスや野良犬と激闘を繰り広げていると、凛とした女性の声がかかる。
「お久しぶりねご主人様。しばらく見ない間に愉快になったじゃない」
実業家時代に拾った奴隷メイド・サーファイアとの再会が、最底辺から始まる人生逆転劇の幕開けとなるのだった……!
わりと簡単に潰れた、というから調子に乗って放漫経営やってしまって経営失敗しておじゃんになったのかと思ったら、いやこれ権力者の横暴じゃないですか。
お忍びで評判のたこ焼き屋に食べに来たお姫様がタコが嫌いだったために激怒。こんなものを食わせた店主は処刑だー、と騒ぎ立てたために平助は命からがら逃亡、という顛末。いやいや、平助の方に全然非はないじゃないこれ。経営的にも順調に儲けていたわけですし、見た所他に没落の予兆があったわけでもないので、ひたすら理不尽だよなあ。
しかし、ホームレスやりながら拾ってきた建材やホームレス仲間の助けで作った屋台で、河川敷でほそぼそとたこ焼き売りを続けていた、ってタフというかアグレッシブというか、あれだけの目に遭いながら心折れずに諦められなかったところに、平助のたこ焼き作りへの情熱、あるいは執念が単なる金儲けのための道具でなかったことが伺える。何もかも失ったあとのただの拠り所だったのかもしれないけれど。それもまた、理不尽に排除されてしまうのだけれど。いやまあ、河川敷で勝手に食品売ってるって、衛生的な問題もあるし無許可営業は商法的にもマズイし全般的にアウトっぽかったのですが。
拠り所だった仮設屋台も破壊され、助けてくれていたホームレス仲間たちも散り散りになって、本当に何もかも失ってしまった彼が、それでも食いつなげられたのは皮肉にもこの国のこの時代が飽食の時代だったからなのか。もったいない、なんて単語産まれてないんだろうなあ。食べ残しは平然と打ち捨てられ、売れ残りはそのままゴミ捨て場に積み上げられていく。
これ、決して実際に食品を取り扱っている人たちがこれらの廃棄物に関してなんにも思っていないわけじゃないのは確かなんですよね。サーファイアも奴隷メイド時代はこうした廃棄品に関して嫌悪感を感じていたにも関わらず、経営者側になったら否応なく廃棄物を出さないと経営をやっていけない、という状態に自分の中から沸き起こる嫌悪感を押し殺して、出さなければならないものを出しているところからも伺える。
一度社会がそうなってしまうと、個々の経営者がどう考えようとなかなか流れには逆らえないんですよね。生き馬の目を抜く世界が、そうした余裕を奪っていく。だからこそ、行政側からのアプローチが必要になってくるわけですけれど、この異世界って物資が豊かになっていく一方でそういう社会福祉の意識はまだまだ未発達の現代に至らぬ近代未満の王政国家っぽいんですよねえ。
とはいえ、奴隷出身のサーファイアが何だかんだとファーストフードチェーンの経営者になれているくらいだから、身分の流動性はあるようなのだけれど。それでも、権力者との癒着がまだまだ必要不可欠、というのは辛い現実である。一度の破滅から復活を遂げることになる平助もまた、再び貴族同士の権力争いの駒に仕立て上げられ、その志を試されることになるわけで。
一度破滅するまでの平助は、成功者らしくちと他者に対して傲慢になっていたようなんだけれど、具体的な話はあんまり回想でも出てこなかったし、それほど心いれかえてより良い経営者になった、というのは前と比べられないからあんまり感じられなかったのだけれど、それでも改めてなぜたこ焼きという具材に拘るのか、自分の背中を見て実業家になったサーファイアに恥ずかしくない商売が今の自分に出来るのか、と自問自答しながら自分のたこ焼きへの想いを真っ正直にぶつけていくスタンスは……成功したのでギリギリセーフ? いやこれ、失敗してたら感傷に負けました、という感じでいい話にはなれなかったんでしょうけどね(苦笑
サーファイアもあれだけえげつない経営しておきながら、ちと平助が盤外戦術使ったら失望を垣間見せるのズルい気がするよ。
まあサーファイアの方は追い詰められると速攻で犯罪に走ろうとするそのゲスさが魅力になってるんですけどね。なんという酷いヒロインw でも、平助へのあの一途さというか憧れを抱いている姿は普通に可愛いですよ、うん。
しかしサーファイアの方はともかく、あの姫様の方はフォローの余地が全然ないと思うぞ。あのラストだけではちょっと許せる範疇ではないし。そのうち革命とかで落ちぶれそうなくらい、民衆の人気もないしなー。