【異世界拷問姫 8】 綾里 けいし/鵜飼 沙樹  MF文庫J

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『断罪を止めたくば、代償を、犠牲を、生贄を。我々は結晶化した“狂王”とその花嫁。及び、“拷問姫”エリザベート・レ・ファニュの身柄をお前達の命の代わりに求めよう』
各地での殺戮を煽動するアリスとルイスの要求に対し、三種族は救世の英雄を生贄とする決断を下す。
「…貴様ら夫婦を相手取る羽目になろうとはな。流石に予想せぬわ」
再び世界の敵となったエリザベートの前にはジャンヌとイザベラが立ちはだかり、
「さぁ―父性愛の勝負といこうじゃないか!」
愛娘の道を切り開くためヴラドはルイスを迎え撃つ。綾里けいし×鵜飼沙樹で贈る至高のダークファンタジー第八弾。彼らは戦う。各々の何かを守り抜くために。

ジャンヌとイザベラだけが癒やしです。この二人だけはそのまま幸せになってくれ、と願わずにはいられない。とうとうこの二人とも殺伐とした展開になるのかと危惧したのですけれど、彼女たちだけは平常運転で本当に良かった。この世界に対する失望と絶望が湧き上がり、カイトとヒナが身を犠牲にして守った意味があったのか、と幾度も自問してしまうなかで、ジャンヌとイザベラのカップルやリュート夫妻の存在がどれだけ救いに思えたか。この世界もそこに住まう人たちも決して見捨てたものじゃない、と思わせてくれる人たちなのですから。あのエリザベートを避難する民衆を一喝した老婆のように、咎人であったエリザベートを気遣ってくれた文官の人のように。この世界には、まだこんなにも尊いものが散らばっている。狂王カイトの姿に憧れた臆病者の王も、今や人族をまとめる王として以上に、世界の価値を信じさせてくれる良い男に成長してるのに。
それでも、悪夢は積み重なっていく。折り重ねられる復讐の連鎖、悪意の塔、無辜という名の罪人の群れたる民たち。
そんな中で独り戦うエリザベートの孤独はいや増すばかり。いや、その孤独を、寂しさを彼女はすべて受け入れている。ゆらぎはしてもブレはしない。
でも、その想いにもう名前をつけても良かったんですよ。ようやく、ようやく、エリザベート・レ・ファニュの本心がエリザベート自身に届いたのでした。その形のない想いを、言葉にして形作ることができた。

親友を、弟を、兄を、己の恩人を。
優しく、愚かで、仕方のない人を、
愛すべき人を、愛するように、
エリザベート・レ・ファニュはセナ・カイトを愛している。

無意識にこぼれ落ちた言葉を彼女は自分で反芻し、そして静かにはっきりともう一度繰り返した。
愛している。その言葉のなんて深い響きだったか。その言葉を告げる彼女が、どれほど美しいモノだったか。
何かを求めるわけではない、報いを欲しているわけではない。その感情は、湧き上がる想いはただただ捧げ与えるためのものだった。エリザベートのそれに、色恋の熱量は見当たらない。滾るものではない、焼き焦がすものではない、それはお互いを温め合うもの。その存在を慰め合うもの、癒やし合うもの。掛け替えのない、意味を持つもの。
愛すべき人を、愛するように。
思えば、エリザベートとカイトとヒナの三人の関係は、常に与え合うものでした。愛している、その三人同士の間で揺蕩う想いは、気安くも献身そのものでした。それは、エリザベート独りが取り残された今に、何も変わってない。触れられそうなほど近くにありながら、決して届かないはるか遠くへと行ってしまったカイトとヒナを、エリザベートは変わらずずっと愛している。
その健気でさみしげな彼女の姿が、どうしようもなく愛おしく美しく、悲しい、哀しい。
それは仕方のないことだったのだろうけど、やはりエリザベート独りを置いていってしまったカイトとヒナに文句が言いたくなる。二人とも、随分と後ろ髪引かれているみたいだけれど、エリザベートはもっとずっと寂しかったのだから。
迎えに行って、くれるのだろうか。もう一度、あの三人の輪の中にカイトとヒナはエリザベートを迎え入れてくれるのだろうか。

思えば、ヴラドもまた何も見返りを求めていなかったですよね。あれほどの極悪人で鬼畜外道の残骸であっても、彼の父親としての愛は、娘に何も求めなかった。ただ、愛していた。それが、彼がなしてきた残虐非道の数々に対して、冒涜であったとしても、娘への愛は無償であった。
ルイスが、ついぞ最期まで娘となったアリスを本当に心から愛していながら、彼女に愛に対する報いを、見返りを求めてしまった事と比べてしまえば、尚更に。尚更に胸に凝りを残すのである。
ああ、なんて度し難い愚かさなのだろう。それを自覚しながら自身を止められなかったルイスが、哀れでならない。


次が最後、本当の最期。万感の想いを抱いて、結末を待つ。

シリーズ感想