【七つの魔剣が支配する IV】 宇野 朴人/ミユキ ルリア  電撃文庫

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再び春を迎えたキンバリー魔法学校。オリバーたちは二年生に進級し、新入生たちの世話に新たな科目、それぞれの修行と、目まぐるしい日々を送っていく。そんな中、ひとときの休息を魔法都市ガラテアで過ごすことにした6人。空飛ぶ絨毯に乗り、買い物や名物料理を楽しみ、魔法生物のお店を覗く。が、穏やかな時もつかの間。夕食の席でキンバリーの校風を嫌うフェザーストン魔術学舎の生徒たちと揉めてしまい―。一方、シェラの父であり、ナナオをキンバリーに招いた教師・セオドールにも接触を受ける。暗い夜道を歩きながら、彼は突然「この街には人斬りが出る」などと不穏なことを言い出し―。

これ、ほんとにベースとなっているのはハリーポッター的な魔法学園ものなんだけど、同時に比較にならないくらいダークでディープでアダルティな世界観というのを思い知らされる巻でした。2年生に進級して一応大きな事件もなく穏やかな日常の風景が広がる話であっただけに、なおさらキンバリーでの「平穏」が通常の感覚と全く異なる危険で殺伐としたものであることが浮き上がってくるんですよね。かつての自分たちと同じように様々な想いを抱きながら不安を胸に入学式を迎える新一年生たち、そんな彼らを優しく迎え入れる一方でほぼ時を同じくしてその裏ではこの一年間で死んだ生徒たちの合同葬儀、なんてものを行うこの対比ですよ。しかも、死者数がまた生々しい数でキンバリーの危険性というものをよりリアルに感じさせるのである。
オマケに、2年生に進級したことで授業内容もより危険なものに。一応死なないように配慮しているみたいだけど、ほんとに死なないだけ、なんですよね。場合によっては死ぬし、死ぬより酷いことになるような内容が散見されるわけで。これ、授業中居眠りとかお喋りとかしてる余裕絶対にないですからね。死ぬから。ガチで死ぬから。普通に下半身グシャ!って潰れてる人もいるんですけどー!?
授業なので、逃げられずに毎日続くわけで、精神的に死ぬ。これを受け続けられているだけで、キンバリーに染まっていると言えるでしょう。そりゃ、イカレるわ。頭おかしくなるわ。魔法使いが人外になるのも当然だわ。日常風景なんだぜ、これ?
ここまでイカレた日常が続くと、同じ生徒たちの間は徹底的に破綻するか、或いは結束が深まるか。少なくともオリバーたちは、剣花団の五人のみならず、ロッシ、リチャード、ステイシー、フェイ、ジョセフと言った一年時には揉めることもあった実力者たちともある種の信頼関係を結べるようになってるんですよね。彼ら彼女らとこうして認め会える関係になれた、というのは随分とこう……頼もしいんだけど、同時に死なれたときのダメージががが。
そして、今回一番度肝を抜かれたのが、キンバリーのというよりも魔法使いの性事情、というところでしょうか。なんだよ、三年になったら妊娠出産が解禁!って!? そう言えばお腹おっきくした上級生がけっこう歩いてるって!?
びっくりですよ!!
魔法使いとしては、何より血統を残し継がせることが推奨されるというのは理解できるけれど、学生のうちからここまで積極的に優秀な血を取り込もうという活動が行われているとは。
これ、性に緩いとか奔放とかではなく、徹底して魔法使いとしての在り方に則った厳格ですらある実情と言えるのでしょう。でも、性行為に対してタブーとされるどころか推奨されるような環境ですから、貞淑であることや恋人になってから結婚してからという考え方は珍しい方ですらある。
こうなってくると、剣花団のグループ内の人間関係も違って見えてくるわけで。
とはいっても、名家であるシエラも含めてそこまで魔法使いとしての価値観にはみんな囚われているわけではないのだけれど、それでもキンバリーでの常識は上記した性行為を推奨するようなものだけに、どうしたって影響を無視できないんですよねえ。
正直、パヒュームの影響残っていたオリバーへのシエラの医療行為とか、具体的な行為としては大したことしてないはずなのに、尋常じゃなくエッチすぎてヤバかったくらいですし、ってかヤバいヤバい。
それだけ、体の関係というものを意識させられてしまうと、異性として相手をどう思うか、という点についてもどうしたって強く意識の上に登ってきてしまう。その意味でも、今回は剣花団のメンバーの恋する気持ち、という所にもスポットが当たっていたのではないでしょうか。
その最たるものが、ナナオの恋と狂気の撹拌でありましょう。元々純粋で、オリバーになついていた彼女ですけれど、この2巻になって彼女の様子と来たらただ懐いているのとは隔絶した、一途なくらい慕い寄り添おうとする健気なくらいのワンコな姿なんですよねえ。いやもう、誰が見てもオリバーの事好きだろう、というような。オリバーはオリバーでナナオの事誰から見てもわかるくらいに大切にしてるし、彼女にちょっかい掛けられた時の脊髄反射的な過剰反応ももうアレなわけで、オリバーの嫁呼ばわりも当然な二人なんですよねえ。
しかし、一方で一巻の時に剣を交えあった時のように、ナナオの深層にはオリバーと死合い、彼を斬り殺したい、彼に斬り殺されたい、という魂に根ざした欲求が今もなお絶え間なく胎動している。それを自覚しているナナオは、果たして自分の気持ちが恋と言えるのか自信が持てずにいたわけだけれど、カティがナナオの問いかけに咄嗟に答えられなかった沈黙は、ある意味致命的な錯誤をナナオに与えてしまったんですよね。でも、これカティがあそこでナナオの恋を肯定していた所で行き着く先は「殺し愛」なわけで、どっちにしても行き止まりなんですよねえ。いずれにしても、デッドエンド。ハッピーデッドエンドになるかどうか、の違いでしかないのか。
ナナオの魔を、誰よりも深く理解してしまったカティ。彼女が、果たしてオリバーとナナオの顛末のキープレイヤーになるのか。カティ自身、自分の沈黙がナナオに与えてしまった誤解を理解しているわけだし、それをそのままにしておけるような性格でもないんだよなあ。
一方で、カティ自身もオリバーに惹かれている事実が混沌に拍車をかけている。まあ、なんか女性陣みんなオリバーに惹かれているっぽいのだけれど。シェラも、自分にもっとも親しい魔法使いとしての価値観を有する、波長が合うオリバーに惹かれているようだし。まあ、その波長が合う部分こそがやがて二人を、魔法使いであるからこそ敵対へと導きそうでもあるのだけれど。
そんでもって、ピートもまた両極往来者(リバーシ)、男性と女性の性別を行き来する特殊体質の影響もあるのか、なんかオリバーにべったりなところありますし。
ガイくんも滅茶苦茶イイ男なんだけどなあ。こればっかりは今のところ仕方ないのか。

そんなみんなに惹かれているオリバーだけれど、彼こそが魔法使いの闇をすでに体現している一人。仲間たちという光に目を細め、安らぎを得てこの上なく彼らに惹かれながら、背を向けざるを得ないもの。ついに、二人目のターゲットに狙いを定める。最も、次の標的を仕留めるのは、仲間を守るためという意義もあるので今のところは後押しする要素しかないのだけれど。

シリーズ感想