【デート・ア・ライブ 21.十香グッドエンド(上)】 橘公司/つなこ  富士見ファンタジア文庫

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DEMとの最終決戦。始原の精霊―崇宮澪との戦いから一年。そして夜刀神十香が消えてしまってから一年。元精霊の少女たちは過去と向き合いながら未来へと進み始めていた。五河士道もまた喪失感を抱えながら精霊が消滅した世界でのいつも通りの日常が始まると思っていた。存在しない精霊の少女と出会うまでは―。「―君、は…」「…名、か。…そんなものは、忘れた―」世界を否定するかのように世界を壊す少女を前に琴里は士道に言う。「あなたの出撃は認められないわ」さあ―私たちの最後の戦争を始めましょう。

グッドエンドとは!

ジャケットデザイン、グッドのgの字も見えないくらい「死ぬがよい」なんですけど! 作者も思わずサブタイ変える?と聞いてしまったくらいにはグッドエンドテイストなんですよねー。タイトルの文字に罅入ってるのは作者のコメントではじめて気が付きました。
ってか、あとがきでネタバレしてません、これ!? いや、目次で思いっきり書いていると言えば書いているのですけど。
最終巻ということで、精霊たち一人ひとりのエピローグが丁寧に描かれているんですよね。上下巻構成になったことで、より一人ひとりを掘り下げて描けているというのは実にありがたいことです。
今回は折紙から二亜、狂三、四糸乃、琴里と実は初めてなんじゃないか、という数字一から五の並びに。精霊たちの名前に数字が入っているのは自明のことですけれど、これまでこの数字が特に意識して扱われたことはなかったはずなんですよね。登場順とかも全然バラバラでしたし。でも、今回最後となるところで数字順、というのがまた考えさせられます。この順番だとラストはまさにあの子になるんですよねえ。
で、この個別エピローグが本当にしみじみとしていていいんですよ。これで終わり、エンドというのじゃなくて、過去に思いを馳せ未来へと進んでいく過程であり、しかし一区切りとして確かに自分の中の何かを終わらせ、何かを始めようという一歩を描いたエピローグになっているのです。
そこでいきなり、結婚式しようとする折紙はさすがとしか言いようがないけれど、ガチのではなくイベントごとで押さえているあたりにこの子の成長が伺えます。最初の頃の折紙なら問答無用で本物の結婚式に持ち込もうとしていたに違いないのにw
そして、大人として士道を見守り導こうという二亜。この人ダメ人間なんだけれど、精霊たちの中で唯一ちゃんとした大人でもあり、士道が甘えられる人でもある事を思い出させてくれます。
士道もまた、十香を喪って一年が経とうとしているこの時期に、自分の進むべき道を見定めていくのですけれど、それをこうしたヒロインが一区切り打つ話であるエピローグの中で彼女たちの姿を通して掴んでいくわけですけれど、その中でも二亜は意図的にはっきりと士道を促し彼の動き出すきっかけを、背中を押してるんですよね。こういうところ、ほんと頼りになるお姉さんでこの人が加わってくれた事は大きいんだな、と思うんですよねえ。

で、このまま何事もなく穏やかに日常が続いていくわけがない、というのを示唆しているのが狂三なわけで。狂三が企図していた、始原の精霊を倒してすべてをなかったことにするという計画は結局達成できないまま精霊のちからが消えてしまったわけですけれど、そうなるとこれまで狂三が殺した人間は蘇ることなく、そのままという事実が残ってしまうんですよね。いつか時間を巻き戻してなかったことにするという決意があったからこそ、躊躇なく人を手にかけてきた狂三にとってこの結末は罪だけが残ってしまったエンドになってしまう。果たしてこの壮絶な覚悟を抱き続けた少女がこのまま結末を受け入れるのか。一瞬垣間見せた狂三の顔がすべてを物語っているのではないだろうか。いずれにしても、このままでは済まないし済まさない、という可能性を彼女の意思と語られた推論によってこの時点で示唆していたわけだ。

一番今回の話で胸を打ったのは、やはり四糸乃の話でしょう。登場当初から名字もなくただの四糸乃として現れ、生まれながらの精霊のように描かれていた彼女。それが純粋な精霊は十香だけ、それ以外は元人間という事実が明らかになったことで四糸乃もまた元は人間だった事が証明されたのだけれど、その素性については全く明らかにされてこなかったんですよね。ラタトクスの調査力がそれを調べられないはずがないよなあ。
というわけで、この氷の精霊の本名が氷芽川四糸乃という少女だった事が判明。その喪われた過去を辿るために四糸乃が仲良しの七罪と士道と一緒に氷芽川四糸乃が生きていた街を訪れる。そこで明らかになる彼女の右手のパペット「よしのん」の正体。四糸乃という人間の少女が受けいていた目一杯の愛情を知ることになるのである。
本編終盤で一番人間的にも女性的にも成長したのが四糸乃だと自分は思っているのだけれど、この過去を取り戻す物語によって四糸乃という少女はヒロインとして見事に完成したようにすら思うのです。

そして、妹という立場でありながら兄に恋してしまった琴里の物語。彼女の人格転換のきっかけとしているアイテムの白黒リボン。ラタトクス司令として振る舞うための強さを自らに暗示するための黒いリボンに、自分を奮いたたせる以外にそんな恋する女の子としての健気な想いを捧げていたとか、この子はほんと年季は折紙以上に長年に渡って一途に想い続けてたんですよね。
そんな彼女の勇気ある告白と新たな決意。四糸乃もそうだったけど、中学生組の女性としての羽化が目覚ましいばかりです。

そんな中でありえないはずの新たな精霊の登場。ビーストと名付けられた謎の精霊の正体とは。今は力を喪ったみんなの精霊としての能力を、一人で使っているような節もあって一体なんなんだ、こいつ、とイイたいところなんだけれど、その正体は示唆されてるんですよね。いや、そっちか!?と驚きはあったのですが。
それに、折紙と二亜。この二人に一体何が起こったのか、起こってるのか。こっちはほんとにわかんねえ。どうなってるんだ、この二人!?

と、新たな生活を送っている元精霊の子たちに加えてもうひとり、エレン・ミラ・メイザースもまた一部の記憶と魔術師としての能力を喪ってラタトクスに保護されて、自活させられてるんですが……おいおい、エレンって短編とかで滅茶苦茶イジられてたように、エレンから魔術師の部分を取り除いてしまうと、ポンコツしか残らないんですけど。この世界最強の魔術師てば、世界最強の無能ポンコツに成り果ててしまうんですけど!
ウッドマンとカレン、この姉引き取った方がいいんじゃあ……。

シリーズ感想