【ウィッチクラフトアカデミア 〜ティノと箒と魔女たちの学院〜】 逢空万太/bun150 LINE文庫エッジ

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「ぼくは、ウィッチクラフトが好きです」

ブルームという箒状の道具に跨って飛行する競技、通称"ウイッチクラフト"は、世界的に有名な競技である。競技者は"魔女"と呼ばれ、そのほぼすべてが女性。しかし主人公、ティノ・アレッタは男子にも関わらず、子供の頃に見た魔女に憧れ、魔女を養成する女生徒ばかりの学院、"アウティスタ飛箒学院"に入学を果たす。そこでティノと親しくなる少女たちもいれば、上手く飛ぶことが出来ないティノに、出て行って欲しいと願う少女たちもいて……。

「ティノくん、君が強く望めば、きっとブルームは応えてくれるはずだよ」

退学をかけた定期選抜試験。同じ部屋で暮らすことになった少女ウルスラや、クラスメイトたちの応援を背中に受けながら、ティノは《氷の女王(リリティア)》とも呼ばれる天才少女、グリゼルダとのレースに臨む!

人気作家、逢空万太が描く、宙(そら)を駆ける少年少女たちの物語、ここに開幕!!

女性が殆どの魔女の中で希少な男なのに箒を飛ばせる少年ティノ。希少ではあっても皆無ではなく、過去にも男のウイッチクラフト競技者が居た、という実績があるのはティノに不必要な特異性を持たせないという意味でも良い背景なのかも。彼の特殊さというのは、男だからというのとはまた違うものでしたからね。
しかし、現在は男の競技者は不在。そしてウイッチクラフトを学ぶ学校は全員女子。そんな中に男一人だけ、というのは当然ウハウハなはずなのですけれど、なにしろティノくん、まだちびっ子なんですよね、なにで周りはみんなお姉さん。というわけで、これはショタっ子がお姉さまたちにキャッキャとっ可愛がられる話なのですー、とはまあそう簡単にもいかないわけで。
まだまだ男社会な世界の中で、唯一女性だけのテリトリーだったウイッチクラフトに男がズケズケと入ってきたら、そりゃあ面白くないですわなあ。なので、ティノくんが可愛がられて人気者、とはいかないのですけれど、それでも構ってくれる娘たちはいるわけで、その中でも特別なのが同室となるウルスラであり、ティノくんにちょっかいをかけてくるマルタの二人なのであります。
学院に初めて訪れる前に偶然出会うことになったウルスラ。寮では同室となり、お姉さんを気取りながら全面的にティノくんを応援してくれる味方となってくれる女性なのですが……この娘がまた実質メインヒロインという立ち位置にも関わらず、メインヒロインとは思えない得体の知れない側面を話が進むにつれて見せてくるのである。
これは氷の女王(リリティア)という異名を持ち他の追随を許さないトップの成績を残しながら周りと一切交流しようとせず孤高を保っている少女グリゼルダが、その頑なな姿勢とは裏腹に接しているうちにかなりわかりやすいオモテウラのない性格をしているのがわかってくるのと対比されるように、ウルスラの方がニコニコと笑っている顔の裏側で何を考えているのかわからない底知れない不気味さを滲ませてくるあたり、ヒロイン衆の立ち位置というか位置関係もなかなか油断ならない構成になってたのがまた面白い。ウルスラは一応ティノくんの味方であるというのは最初から一貫して変わっていないとは思うのですけれど、それを加味しても謎めいたキャラクターになっていて非常に興味深い。
そんなウルスラとは裏腹に、登場当初は徹底してマウント取りに来て、ティノくんを下僕扱いするマルタちゃん様の方はというと、その言動にポンコツっぷり、短慮や忙しなさをもろに露呈しながらも、全力でティノくんを気遣い、庇ってくれて、フルスロットルで味方になってくれてるイイ子だったんですよね。ご主人様を気取って偉そうにしようとしてるのはこちらも一貫して変わらないんですけどね、そんなはた迷惑な態度を加味してなお、ティノくんを想っての行動がわかり易すぎてもうたまらんくらい可愛らしいのである。考えなしのようで、実際はかなり頭脳派で聡明でもあり、ウルスラの事を一番に危険視しだしたのも彼女なんですよね。ともあれ、ティノくんにとって絶対的な味方となって、甘やかさずに実際はめっちゃ世話焼いてくれそうなのがこのマルタちゃんなのである。

ティノくんは大変素直で純真な子なので、ウルスラの得体の知れない部分とかは気づきもしないし、マルタちゃんのマウントポディションにもはいはいと笑顔で付き合って、と実に年上のお姉さま方に可愛がられやすい性格をしているのだけれど、まだ幼いからなのか元々メンタルリソースが足りないのか、一つのことが気になるとほかが途端に疎かになってしまう傾向があるんですよね。
グリゼルダの信念と自分のウィッチクラフト愛が相容れぬものとして食い違ってしまっている事を知ってしまった時、自分を心配してくれているお姉さま方への対応が上の空になるわ、肝心の授業も集中力を欠いて疎かになってしまうわ、同時に複数のことに気が回らないにしてもあれは結構酷い有様だったんですよね。ちょっと気になることがあるだけで、外に影響が出てしまうというのは選手となるには結構致命的な欠点なんじゃないだろうか。その代わり、集中する一点が肝心のウィッチクラフトに向かった時の爆発力が半端なくなる、ということなのかも知れないけど。

メインとなる箒での飛行競技。このラストでのレースでの盛り上がりは、大変に熱いものでスポーツものに相応しい熱量を持つものでした。いやあ、テンションあがるあがる。競争ものに相応しいスピード感もありましたし、作品としていちばん大事な肝の部分であるウィッチクラフトがこれだけ盛り上がるものなら、今後の展開にも不安はないのではないでしょうか。
しかし、ティノくんの抱えていた不具合、本来なら先生が気がついて修正してくれて然るべきなんじゃないのだろうか。そう言えば練習なんかを監督はしても一人ひとり個別に指導とかもしている様子ないし、先生とはいっても単なる管理者なんだろうか。結構、退学の基準厳しいし生徒の自己責任になってるんでしょうかね。プロを輩出するための学校と考えるならありえる話なのかもしれませんが、結構厳しいなあ。

逢空万太作品感想