【疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが?】 語部 マサユキ/胡麻乃 りお 角川スニーカー文庫

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幼馴染。この言葉を聞けば、甘酸っぱい青春の1ページを想像するだろう。
俺にも幼馴染はいる。話すどころか目も合わせられない関係だけどな!
でも『夢を操る方法』という怪しげな本を拾って――異世界で幼馴染と暮らす夢を見るように!?
しかも「いいよ……私が貴方のお嫁さんになってあげる」と結婚までする関係!
抱きしめたら「……大好きだよ」と嬉しそうに応えてくれる、そんないちゃラブ新婚生活を堪能できた!
とはいえ、しょせんは夢の出来事と考えていたが、登校途中に出くわした幼馴染は――なぜか顔を真っ赤にして走り去り!?
疎遠になった幼馴染との、ちょっぴり不思議な学園ラブコメ!

おおっ、なんか予想していたのはもっとシンプルな構図のラブコメだったのですが、思いの外入り組んだ構造のストーリーになってるぞ、これ。
疎遠だった幼馴染と、異世界で結婚するという同じ夢を見てしまった事をきっかけにして段々と離れていた距離が縮まっていく話、だと思ってたんですよね。さて、問題はその夢がただの空想の果ての夢なのか、それとも実際に夢の中で一緒に別の人間として過ごしているある意味実際に起こっている事なのか、そのどちらかなんだろうかなんて風に想像していたのですが。
実際にその夢ときたら連続ものであり、しかも夢の中では結構な年月を過ごしていて二人ともちゃんとした大人にまで成長しているわけですよ。しかも、夢の中での冒険はシリアスかつ過酷なものであり異世界に突然放り出された二人が必死に生き延びようと足掻いた結果寄り添い合いお互いを頼りに求め合い、そうしてやがてお互いをかけがえのない愛する人として堅く結ばれるようになった、その結果として結婚へと至っているわけである。
夢の中でひょいひょい結婚しちゃって新婚生活キャッキャウフフなお手軽な妄想空想の話どころじゃないじゃないですかー。ガチ結婚じゃないですかー!?
この段階で、あれ? この夢ってもしかして本当にあった事じゃないの? という疑惑が湧き上がってくるわけです。しかも、どうも夢の中で最終決戦に勝つことが出来たら元の世界に戻る事が出来る上に時間も巻き戻ってしまう、みたいな話も匂わされているのですよ。
確定じゃないですかー!
と、思ったわけですけれどそこからも一筋縄ではいかないんですよね。二人の喪われた記憶が取り戻されてもう一度愛を取り戻すのに、過去を夢として二人で追想しながら現実世界でも徐々に距離が詰まっていく、というある意味落ち着いたラブコメなのか、とこの時点くらいでは思ったわけですよ。
ところが。
うん、まずもって夢次が手に入れた『夢を操る方法』という本。これを誰が用意したのか。そしてこの本、ただ見る夢を操るだけという単純な内容じゃなくて色々な夢を様々な形で操作するための多岐に渡った内容になってるんですよね。
そして、本のタイトルに偽りなく、幼馴染二人が異世界に転移して冒険する話、だけではなく本当に望む夢をみたりすることが出来て、異世界の冒険譚が唯一無二の夢ではなくて、たくさん好きなように見ることの出来る夢の中の一つ、という立ち位置へとするすると移動してしまうわけです。
おまけに、ギリギリまでばれないと思った夢次と天音が同じ夢を見ているという事実が、わりと早々に天音の方にもバレてしまうんですね。
ここから、徐々に詰まれていくと思われた二人の距離感が、一気に昔の仲の良かった頃の気のおけないものに戻ってしまうのです。この時点で想像していたラブコメの形と方向がググッと変わってきて、二人が共犯関係というか距離感ゼロの幼馴染に戻ってこの夢にまつわる「冒険」を繰り広げていくのであります。
ってかね、新婚生活の夢見ていたということはガッツリ夜も若さに任せてヤりまくっていたわけですよ。その夢の記憶を共有してる、自分も見てて相手も見てた、というのを分かってて天音さんてばもう豹変というくらいの勢いで、どういう態度取っていいかわからないという恐る恐るな距離感だったのが、ベタベタひっつくのが当たり前な感じに変わってしまったわけで。いやあの夜の記憶がありながらその距離感って、もう全部許しちゃってるというのと同じだと思うんだけどなあ。
元の仲の良さに戻れた嬉しさに浮かれている、という部分もあるのでしょうけれど、テンションあがりすぎて若干距離感見失っている節もあるだけに、もう一度改めて二人の間に恋が成立するまでにはもう少し紆余曲折がありそうなのです。尤も、夢次の方がむしろ腰を据えて天音との関係をちゃんとして正々堂々想いを通じあわせたい、と考えているのでその点安心感があるのですが。
一方で、あの異世界の記憶がただの夢の中の出来事ではないこと。さらにこの世界でも得体の知れない存在から襲われる危険があるということ。そして、二人の喪った記憶の中にまだ大切な何かがあり、夢を操る本を用意した誰かは夢次と天音のために何がしかの準備を整えていて、何かがまだ起ころうとしている、というまだまだ何か大事が起こりそうな気配があるんですよね。
あと、ちょっと気にかかっているのがクラスメイトで天音の親友としていつも傍らにくっついている二人の女生徒。今の所、完全にただの仲良しな女子高生にしか見えないんですけど……。二人の名前が一人ひとりならともかくとして、二人揃ってると明らかにチョイスとしておかしい。幼馴染二人の共通の姉貴分なスズ姉もまあなんかあからさまに怪しいのですけど、ちょいと話の展開が想像以上に一筋縄では行かなさそうで、なかなかワクワクさせてくれるものになりそうなんですよね。
一方で、幼馴染がよりを戻すお話としても秀逸で、変わってしまったと思っていたものが変わっていなかったという感触。これ夢次と天音二人の間だけで完結していなくて、二人が一緒にいる姿を見て近所の人や昔から誼にしていた商店街の人たちなんかが、口々に声をかけてきてくれるんですね。また二人で仲良く一緒に連れ立っているんだね、って嬉しそうに。そうやって掛けられる声に周りを見回してみると、自分たちの成長に伴って多くが変わってしまっていたと思っていたものが、実は変わらないままずっと見守ってくれていたものも多いのだ、と気づかせてくれるきっかけになってて、疎遠になっていた間取り零してしまっていたものを取り戻せた、空白になっていた部分を埋めることが出来た、という気にさせてくれたのです。ああいうさりげない描写、大切だと思うんですよねえ。

ラスト、天音の中に消えていたものが戻ってきたような描写もあり、先の展開がなかなか読みづらい構成にもなっていて、続きが非常に楽しみな新シリーズの開幕となりました。これは期待しちゃいますよ?

語部 マサユキ作品感想