【終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#08】 枯野 瑛/ue 角川スニーカー文庫

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――さあ。目を開きなさい。いずれ訪れる終末と妖精兵たちの物語、最終章へ

パニバルたちが〈十一番目の獣(クロワイヤンス)〉を討ち、38番島は歓喜の騒乱にあった。
しかし水面下に隠されていた最後の危機を前に、護翼軍、貴翼帝国、そしてオデットが相対する。
そこで示された“滅びを避けられる手順”は、浮遊大陸群(レグル・エレ)を自分たちの手で破壊するというもので――

「“俺達”はどうやら揃って、そういう無私の聖人ってやつが心底気にいらない性分らしい」

あの二人の代わりにはなれないが。
幽遠から目覚めた青年は夢想する。
継がれた結末の、その先を。
ちょぉーーっとびっくりなんですけどー!?
え? 戻ってきたヴィレムの状態、あれなんなの? 地獄?
いや、元のヴィレムではないというのは分かっていたのですけれど、ヴィレムとフェオドールが入り混じった新しい人格か、もしくはフェオドールが会話していた「獣」としてのブラックアゲートの方の人格なのかと思ってたんですよね?
黒燭公との戦いで石化した時までの記憶しかない状態ってなに? 浮遊大陸での記憶がないってなに? クトリの事とか覚えてないって!?
目覚めて人類が滅び去ってもう大切な人が誰もいなくなっていたという想像を絶する孤独に突きとされた時の一番どん底の頃のヴィレムって、それもう地獄じゃないですかー。
石化から解けた当時、救出された時のヴィレムってグリックとナイグラートに随分と助けられて世話されて、世捨て人同然だったとはいえそれでも底の底からは彼らが必死にすくい上げてたんですよ。そこから妖精倉庫で働く仕事を紹介されて、黄金妖精たちという生きる目的を手に入れるわけですけれど。今のヴィレムは妖精倉庫に来る前どころかグリックたちと出会ってすらいない状態で、そりゃもう捨て鉢の無気力という酷い有様なのも仕方ないよこれ。唯一生きてたはずの大賢者スウォンですら、つい最近どうも生存絶望状態になってしまったというのをフェオドールの記憶から目の当たりにしているわけですから。
ナイグラート、やらかしちゃったよなあ。ヴィレムが一番弱ってたところに追い打ちかけちゃったのですから。そこは逆だろう、気持ちは痛いほどわかるけど。クトリを覚えていない、というのは全方向に辛すぎる。
思えば当時、ティアットたちはまだまだちびっ子でヴィレムの存在はお父さんというにもお兄さんというにも曖昧でしっかり根付いてはいなかったんですよね。やはり、彼の存在が大きく根ざしたのはクトリでありネフレンであり、アイセアだったんですよね。そして、ここにはもうクトリは居なくて、ネフレンは戻ってこれない所に追いやられてしまっていて、居るのはアイセアだけ。
正直、アイセアがあそこまでヴィレムとの再会にグチャグチャになっちゃうとは思わなかった。あのヴィレムに一番親しかった妖精三人の中でアイセアだけがちょっとだけわざと心の距離を置いていたのだけれど、それをあんなに後悔して未練に思っていたとはほんと思わなかったんですよね。元からかつて潰えた妖精の記憶を持ち、他の妖精たちとは違った大人びた部分を持っていたアイセア。自分を偽り色んな意味で大人のふりをしていた彼女は、成人となり本当に大人となり他の小さい妖精たちを守る側の立場になっていて、そのしっかりとした頼りがいのある頼もしさはポンコツ天然な部分の多分にあるナイグラートやラーントルクなどよりもよほど大人びていたんですけどね。
今、浮遊大陸は滅びの危機の只中にありその対処の中核近くにいる人間として彼女はとてつもない重圧のもとにいたのでしょう。さらに、自分の妹たちである妖精たちを守らなきゃならない、でもラキシュはさっさと逝ってしまい、今ネフレンもまた自分たちの手の届かないところで力尽きようとしている。色々と限界に近い部分はあったと思うんですよ。そこで、かつて自分は遠くから見ているだけで寄りかかる事をしなかった「お父さん」が戻ってきた。記憶もなく前よりももっと愛想もなく、それでも根本の所では変わっていないヴィレムが、今ネフレンもクトリもいないまま自分たちの前に居る。
これ絶対やばいって、とアイセア自身が自覚しちゃってるあたりがなんともはや。それでなるべく近づかないようにしていたくせに、自分で言ってたくせにちょっとだけ昔のアイセアに戻って、前に出来なかったちょっとだけの甘えを見せているあたりが、ほんとちょっとだけなのがアイセアらしくて、この娘らしくて愛おしいんですよね。もっとも、甘えを見せる今のアイセアは昔と違ってもう一端の女性なのですけど。うん、でもそれでも成人になってからのアイセアはずっと一人で頑張ってきた所があったので、こうしてちょっとでも寄りかかる姿が見れたのは良かった、本当に良かった。

でもアイセアをはじめとして、ヴィレムをよく知っている人たちの目があるからこそ、今の極めて後ろ向きなヴィレムの姿はなかなかつらいものがある。まあ、後ろ向きであろうとこの男、じっと蹲っていられず動いてしまうことについては定評があるのだけれど。なんでそこまで空虚で、絶望に心縛られているのに、黙って力尽きていられないんだろう。それでこそ、それでこそヴィレムなんだろうけど、それで何かが取り戻せているわけではないのが本当に辛い。

しかし、あの最後の獣(ヘリテイエ)が見せた過去の人たち。あの再現された過去は過ぎ去って喪われたもの。だから、自分の中から失われていないものは現れない、というのなら。
どうして「彼女」は現れなかったんだろう。大賢者として生き残っていたスウォンはともかくとして、「彼女」については他の仲間達と同列だったはずなのに。アルですら、現れたのに。
リィエルの方もなんか一人でとんでもないことを仕出かしているようで。なんなんだこの幼女は。まだろくに思考もまとまらないぼんやりとした幼子のくせに、根性極まってるだろう。この娘は、いったい何になるんだろう、どうなるんだろう。セニオリスが共鳴したのは、果たして戻ってきたヴィレムなのか、それともこの娘なのか。
そしてオデットですよ。あれ、事実なのか。フェオドールと同じ方法をとったということ? 結局それって、無私の聖人の所業じゃないですか。それとも、戻ってこれる余地があるんだろうか。あとでネフレンが眼帯しているのを見ると、まず間違いなく弟と同じやり方をしてしまったということなのか。でもどうやって?

ともあれともあれ、タイトルに有るあの「もう一度だけ、会えますか?」。ネフレンについてだけは間違いなく成就したんですよね、これ。ネフレンにとってのヴィレムがどういう存在なのか、嫌というほどわかるあのワンシーン。ネフレンって、ヴィレムに寄り添うという意味では何気にクトリに全然負けてなかったんだよなあ、というのをよく思い出してしまいました。
もう泣くことすら出来ないくらいに擦り切れた、とでもいうような表紙絵のネフレンがそのまま消えてしまわなくてよかった、本当に良かった。
ラストシーンはあれ、期限一杯の時期ということになるんだろうか、リィエルの年齢からして。ネフレンが戻ってこれた、というだけでちょっともういっぱいいっぱいなのですけれど、どうにも不穏な状況は続くもので。そこで「ごめんなさい」なんて言われるとねえ。

シリーズ感想