【戦うパン屋と機械じかけの看板娘 10】 SOW/ザザ HJ文庫

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皆に祝福され、結婚式を挙げたルートとスヴェン。しかし、人と機械では生きる時間が違いすぎた。だから、スヴェンは人間になることを決意し、人化の方法を知るマイッツァーを探すのだが、彼は保安部の手によって誘拐された後だった。マイッツァーの救出に動いたルートたちは、否応にも聖女が画策する次なる大戦の火種に飛び込むことになり――今はもう英雄でもなく兵器でもない、普通のパン屋店主と看板娘が贈る街角パン屋繁盛記、感動のフィナーレ!!

エピローグまでしっかりやってのやるべきをやり尽くしての終演でした。これからも続いていく登場人物たちの人生を見送る形の終わりではなく、その行く末を見届けてのエンディングは満足感に浸れると同時にひどく寂しさも感じるんですよね。読み終えたあと、しばし感慨を噛みしめる。そうしないといけないくらいには、この作品のキャラクターたちには愛着を感じていました。
思えば登場当初から機械人形らしからぬ感情豊かさ、我の強さがロボ子の定型からは随分と外れていて、それがスヴェンというヒロインの魅力だったのを覚えています。そんなスヴェンですけれど、当初は機械的、というよりもマスター至上主義な所があってそれ以外に関しては酷く冷徹な所もあったんですよね。でも、パン屋の看板娘として多くの人と関わるうちに、ルートを経由するのではなくスヴェンが一人の個人として大切に思う人、関係が生まれてきてますます人間らしくなっていったんですよね。
そんなスヴェンですが、幾ら心を持とうと身体は機械。人間であるルートとの時間の流れの差は、結婚という関係の刷新を行ったからこそ尚更に彼女自身に現実を突きつけることになりました。
だから、マイッツァーを助けに渦中へと赴いたのは世界の危機を救うためではなく、ルートにとっては義父に会うため。スヴェンにとっては円滑な結婚生活のため、というあくまで個人的な理由によるもの、という建前で。
いやでも、実際建前でもないんですよね。
この物語、個々のキャラクターに焦点を合わせてみるとそれぞれ概ねみんな幸せを掴むに至っています。でも視点をマクロに広げて世界的な観点から見ると、ルートをはじめとするみんなの行動は聖女という悪意を退け、大きな意味での人類の行く末の破滅を防ぐことは出来ましたし、直接的な大被害をなくすことは出来ましたけれど、世界の危機そのものを回避することは叶わなかったんですよね。
これがもし、世界を救うための旅や戦いの物語だったとしたらこの結末はバッドエンドとすら言っていいかもしれない。でも、パン屋の新婚夫婦の物語としてみたら、苦労も多く背負うことになったかもしれないけれど、多くの別れを経たかもしれないけれど、でも大切な人たちの間では殆ど不幸を得ることがなかった、とても幸せなハッピーエンドだったと断言できるでしょう。
だから、これは間違いなくただのパン屋の店主と看板娘のお話だったのです。
まったく、ただのパン屋が幸せになるために潜らなきゃならない鉄火場のレベルじゃなかったんですけどね、一連のあれやこれやは。
結果的にですけれど、多分多くの友人たちとは二度と会えない形になってしまったと思いますし。ミリィが一番苦労したんじゃないかな、いきなりだっただろうし。
レベッカはあれ、人間になれたんでしょうか。レベッカとリーリエに関してはスヴェンが人間になる方法を用いることで、つまりスヴェン次第でなれてもおかしくないんですよね。二人とも、ズヴェンと同じく大切な人と一緒にいたいと願うでしょうし。挿絵ではレベッカ、少女然としたままでしたけど。
でもって、一番ままならなかったのはこれソフィア姐さんなんだろうなあ。多分、本人たちはこれで満足なのかもしれないし、報われていないとは露ほども思わないのだけれど、ただでさえルートの件で恋破れてしまったソフィアさんが、次の恋も傍らに置いておけなかったというのは胸に来るものがあります。でもあれ、ちゃんと恋人にはなったんですよね、ダイアンと。
あの結末はむしろダイアンの方が寂しがっていそうですけれど。それに、もっと後年になって戦後も遠くになりにけり、というくらいに戦争が過去のことになったら、また会える機会も一緒に過ごすことも叶わなくはない、と思えば……。
そのダイアン博士。この人もまた随分と定型から外れたキャラクターでした。いや登場当初って絶対に黒幕ですし、ラスボスかエクストラボスだろうというキャラだったじゃないですか。それがいつ裏切るか、いつ本性を現すか、と戦々恐々としていたら怪しげな素振りは欠かさないままズルズルとソフィアから離れないまま終盤まで来てしまい、終わってみれば全編通して味方側の黒幕として常に痒い所に手が届く働きをさり気なくやってくれてた上に、肝心なときにはいつも重要なポイントを解放して先に進めるようにしていてくれて、挙げ句に絶体絶命のピンチを覆す大どんでん返しまでそつなくやってくれていて、とシリーズ通して間違いなくMVPはこの人だったよなあ。
人格的には破綻していても、人間的には情深く愛を知る人であり、その出自からして人を愛することの素晴らしさを誰よりも感じる形で育てられた人だった、という事で随分と見方も変わった黒幕さんでしたし。軽薄な胡散臭さはついぞ変わりませんでしたけど。ソフィア姐さんとは本当に良いコンビでした。
最後のルートとスヴェンが写った写真のイラストは珠玉で、エンディングを飾るに相応しいこの物語の結末の形を描き尽くした素晴らしいものでした。
二人の新しいパン屋での生活に関しては、チラッと電子書籍版の描き下ろし短編で描かれているのですが、異国の地での生活は本当に苦労したようで、でもそこでの新しい営みがスヴェンの独白から伺い知れて、彼女が幸せですと語る言葉が胸に沁み入るものでした。スヴェン、ルートのこと「あなた」と呼んで慈しんでいるんですよね。長年連れ添った夫婦という雰囲気が伝わってきて、良かったなあ。
終わるのがほんとに寂しい、良い作品でした。次回作も同じくらい長く楽しませてもらえるものになってほしいものです。

シリーズ感想