【ロード・エルメロイII世の事件簿 10「case.冠位決議(下)」】 三田 誠/坂本 みねぢ TYPE-MOON BOOKS

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衝撃の真実と向き合う覚悟を決めて、エルメロイII世は仲間たちとともに霊墓アルビオンへと乗り込む。ロンドン地下に広がる大迷宮は、
神秘を操る魔術師ですら想像を絶する、もうひとつの世界であった。
同時に、ライネスもまた、II世の代わりに冠位決議(グランド・ロール)へ出席することとなる。
複雑に絡み合う、迷宮探索と陰謀劇。
そして、迷宮の最奥にて儀式を進めるハートレスの謎とは。

幾多の神秘に彩られた『ロード・エルメロイII世の事件簿』、その結末を今ここに。
ああ……私はきっと、ウェイバー・ベルベットのその言葉をこそ聞きたかったのだ。
第四次聖杯戦争の際、Fate/zeroで描かれたウェイバーとイスカンダルの別れのシーンで二人の関係の集大成として少年が征服王に投げかけたのは臣下の誓いであった。でもね、私はどうしてもそれに納得がいってなかったんですよね。あそこで、ウェイバーに臣下にしてほしいと願われて果たしてイスカンダルは嬉しく思ったのだろうか、と。そこに至るまでに少年と征服王が二人で過ごした時間は、果たしてそこに帰結するものだったのだろうか、と。
あの自分に食って掛かる未熟な少年を可愛がりながら、腹の底から笑っていたあの巨漢の王が彼との間に感じていた心地よさは、主従の関係に収束してしまうようなものだったのだろうかと。
私は、あの王がウェイバー・ベルベットとの対等な関係をこそ楽しんでいたのではないかと、思っている。
でも、ウェイバーはどう思っていたのだろう。あの時、彼にとってイスカンダルに付き従いたいと願った事こそ魂から欲した願いだったのかもしれない。彼が得た強烈な体験は、目の当たりにした本物の英雄は、彼の魂を揺さぶりに揺さぶり、その後の少年の人生を一変させるに至る。少年は青年となり、身の程を超えた役割をその身に背負い、しかし膝を屈することなく走り続けることになる。
どうやって、あの背中に追いつくべきかわからないまま、右往左往しながらも、霧中をゆくが如き不安を抱えながらも。
そうやって大人になって、それでも物分りよく諦めたりせず足掻きながら、彼はずっとイスカンダルを追い求め、彼のことを考え続けた。
そんなロード・エルメロイII世となったウェイバー・ベルベットは、考えなかったのだろうか。あの時、あの王にかけるべき言葉が果たしてあれだけで良かったのだろうか、と。
あの聖杯戦争で過ごした時間が自分たちの間に育んだものがあったのではないか、と。誰よりも王の事を考え、王の心中を思い描く時間があった彼だからこそ、そう思い巡らす可能性はあったんじゃないだろうか。
思えば、フェイカーの登場に伴いイスカンダルを語ることも増えた。直接征服王を知る本物の臣下を前に、王への悪態をつくこともあった。そこにあったのは忠誠でも尊崇でも憧憬だけでもない、一緒にゲーム機を前に大騒ぎしていた大男への親愛だったじゃないか。
10年掛かって、あの時ウェイバーが言えなかった言葉が言えた。それを聞けた。それで満足である。


ハートレスの正体についてはライナスが会議にて言及した所までは想像できていて、それはほぼ確信に近いものがあっただけに、真っ向から否定されてしまった時には正直マジで驚いてしまった。
その正体についてはまさかまさかの一言で、だからこそ彼が負っていた絶望の深さを思い知る。どちらか一方だけでも立ち上がれない裏切りだ、それを2度も二重に渡って味わわされた時の喪失感はいったい如何許のものだったか。
彼にとって青春そのものであり人生そのものであった、過去であり現在であり未来ですらあったものからの裏切り。まさに全否定であり、絶対的な孤独であったからこそ、彼が最期に求めたのはずっと自分に寄り添い続けてくれたフェイカーだったのだろう。
惜しむらくは、ハートレスにとってフェイカーでなければならなかった理由、フェイカーにとってハートレスでなければならなかった理由がなかったところか。でも、そんな理由がなくても二人は出会い、通じ会えた。それで十分なのかもしれない。
……フリューの師匠であるあの老人もまた、すべてに裏切られたという意味では同じなのかもしれないけれど、彼の場合大切にしていたものには裏切られはしなかったんですよね。弟子たちは皆殺しにされたとはいえ、彼を慕い続けたわけだし。そしてフリューに至っては汚名を背負っても師を救い守ってくれた。そして、ロード・エルメロイII世によって彼の怨念は報われた。対比というのも違うかも知れないけれど、余計にハートレスの孤独が浮き彫りになったような気がするのです。
いや、本当に対比すべきはやはりウェイバーの方なのでしょうね。ハートレスの正体からしても、妹がいるなんて話も出てきちゃったわけですし。あらゆる意味で対称的、になる。

……ウェイバーは、幸せものなんだろうな。弟子が居て、生徒たちが居て、義妹が居て、友もいる。困難を前に、彼に手を差し伸べてくれる人がこんなにも居た。
イスカンダルの背中を追い続けたウェイバー・ベルベットの人生は、だが孤独などではなくその歩みにはこうしてこんなにも多くの人たちが寄り添ってくれている。図らずもそれは、彼が追う征服王とその同志達の姿と重なる、というと言いすぎだろうか。先頭を突っ走る征服王と違って、この男の場合は息を切らせながら後ろをヨタヨタついていくのを、皆がワイワイと騒ぎながら周りで急き立てていたり背中を押したりしているのが関の山なんだろうけれど。
でも、孤独ではない。それだけは確かだ。

これはFateシリーズの中でも屈指の「魔術師」の在り方を描き出した物語だろう。でも人でなしと言われる魔術師という在り方に、こんなにも「人間」そのものを見出したのがこのシリーズでした。

一旦、このシリーズはここで幕引きとなりますけれど……いや、絶対これ装いを新たにしてもう一度再会するよなあ、するよね、してよね!!
グレイのアーサー王との同調に関してもまだ解決していないどころか、侵食が酷くなっているわけだし。ってかこれ、フェイト・ステイナイトのルート次第ではアーサー王本人が来ちゃうんですけど、その場合グレイ大変どころじゃないじゃないかw
ともあれ、次あるとすれば聖杯解体にまつわるエピソード。聖杯解体戦争になるのだろうか。でも、あれって第五次聖杯戦争のさらに十年後らしいので、グレイもライネスもみんな妙齢の女性になっちゃってるんですよね。それはそれで見てみたくもありますが。

シリーズ感想