【探偵はもう、死んでいる。】 二語十/うみぼうず MF文庫J

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君、私の助手になってよ」
四年前、地上一万メートルの空の上で聞いた台詞から、俺と彼女の物語は始まり――終わった。

俺・君塚君彦は完全無欠に巻き込まれ体質で、謎の黒服に謎のアタッシュケースを持たされたあげく、ハイジャックされた飛行機の中で、天使のように美しい探偵・シエスタの助手となった。
それから――
「いい? 助手が蜂の巣にされている間に、私が敵の首を取る」
「おい名探偵、俺の死が前提のプランを立てるな」
俺たちは、世界中を旅しながら秘密組織と戦う、目も眩むような冒険劇を繰り広げ――

やがて死に別れた。

一人生き残った俺は高校生になり、再び日常というぬるま湯に浸っている。
なに、それでいいのかって?
いいさ、誰に迷惑をかけているわけでもない。
だってそうだろ?
探偵はもう、死んでいる。

これ、タイトルに凄く惹かれたんですよね。
「探偵は、もう死んでいる」ではなく「探偵はもう、死んでいる」。このニュアンスの違いですよ。
そこに句読点を打つことで、探偵の死をすでに過去のものとして処理してしまえているのではなく、今もまだ探偵の死に心引きずられ、振り返ったまま懐旧にむせんでいる。そんな感情が伝わってくるタイトルなのだ。
君くんの心は、遠くに去ってしまったかの探偵についていってしまって帰ってこない。迷子の子犬のように本体から転げ落ちて、くっついていてしまった君くんの心を前にシエスタはずいぶん困り果てたのではないだろうか。
いや、彼女は探偵だ。なにしろ名探偵だ。そんな事は死ぬ前から全部まるっとお見通しだったに違いない。そんな風に彼を仕立て上げてしまったのも彼女自身だ。マッチポンプも良い所だろう。
だから彼女は帰ってきたのだ。死してなお、迷子の君くんの心を元の宿主の元に連れて帰るために無理を押して帰ってきたのである。
助手にしかなれないように仕立て上げたあの少年に、新たな名探偵と出会わせるために。
だから、これはそういう話なのだ。出会いと、再会と、ちゃんとした別れの物語なのである。
そういう眩いばかりの素材によって彩られた物語、のはずなんですよね……。
うーん。
折角の素材に対する調理と味付けが、個人的には薄味だし出汁が抜けてるしとっ散らかっててどうにも食べた気がしない、というのが正直な所でありました。
冒頭からの名探偵とその助手の冒険に、人造人間を有する謎の組織との攻防とか、懐かしくも西尾維新さんを想起させてくれるようなメフィスト系の新伝奇ミステリーっぽさを感じさせてくれてワクワクしてたのですけれど、そこから広がっていかないというか踏み込んでいかないというか。
最初の心臓の話からして、えっそこで話決着しちゃうの? 登場人物たち、それであっさり納得しちゃうの? とえらく簡単に話が纏まってしまって、次のエピソードにという展開にふわふわと地に足がつかないままベルトコンベアーで次章に流されていくような感覚だったんですよね。
キャラ同士の軽快な丁々発止の掛け合いはそれ事態は普通におもしろいと思ったのですけれど、うーん、彼らの言葉の力強さや行動に込められたものに、物語そのものを推し進めるような、或いは登場人物の心を動かしたり熱を帯びさせるだけの「中身」をどうしても実感として感じ取れなかったものですから、そこで戸惑い、物語そのものから距離感を感じたまま、流れていくそれを見送るしかなかったのです。他の読者の評判は良いようなので、どうにも「合わない」作品だったのかなあ、といささか残念に思う所でありました。