【アキトはカードを引くようです】 川田 両悟/よう太 MF文庫J

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女神が人類に与えたカードの力で全てが決まる時代―労働者・高槻アキトは、いつの日か世界の覇権を争うカードマスターの一人として、世界中の強力なバトルカードを手に戦う途方もない野望を抱いていた。そして迎えた人生を賭けた運命の“重労働ガチャ”―大量のガチャチケットと共に人生の夢も希望も溶けていく極限の運試しの末、アキトは一枚のカードを引き当てる。「いやっほう、マスター!私こそは、金銭特化秘書にして、秘書カードの中の秘書カード!キャロルちゃんでーす☆」ここに、世界中の強者達を震撼させる、とあるカードジャンキーと強欲な秘書による最強のバトルアクションが幕を開ける!
原作は「やる夫はカードを引くようです」というAA(アスキーアート)を駆使して描かれた「やる夫スレ」の一作。これを小説という形に組み直したのが本作なのであります。
このアスキーアートというのが色んなアニメとか漫画とかゲームとかライトノベル作品のキャラクターを引っ張ってきて、使っているのですが勿論書籍化にあたっては元キャラをそのまま使えるわけがなく、まったく新規のキャラとして仕立て直さなくてはいけないのです。
そうなると、元のキャラであるがゆえに使えていたネタやキャラクターの特性も使えなくなったりおとなしくさせたりしなくちゃいけないんですよね。そして、元ネタを知っているが故に読者が共有できていたキャラへの共通認識が失われてしまう。登場した瞬間から、このキャラはこんなんだから、という前提がなくなっちゃうんですよね。
これらが、単に掲示板でのAAを使った形式の話を小説に仕立て直す、というだけでは済まない大幅な改変を必要としてしまう所なのである。殆ど、一から作り直し、と言っていいのではないだろうか。
先人たるゴブリンスレイヤーがどれだけ秀逸なのか、改めて実感させられてしまう。

私自身はこの原作である「やる夫はカードを引くようです」は読んでいないのだけれど、一からキャラを生み出してキャラ立ちさせないといけないという部分で、冒頭からかなり試行錯誤している感触はなんとなく伝わってくるんですよね。特に主人公であるアキトは元がやる夫ですからねえ。相棒であるキャロルが登場してくるまでは非常に手探り感が強い。
このガチャに支配された世界観の説明にも多くの手間を取らされて、やはり本番のカードバトルが始まるまではテンポがどうしても悪い感じが残る。まだまだ出会ったばかりのアキトと秘書カードのキャロルもお互いをよくわかっていなくて、相棒感も薄いですしね。
だからこそ、本番となるのはキャロルがツッコミキャラとして大いに機能し始めるナイト・ロメオが現れてから、になるのでしょう。
やたらと個性の強いナイト・ロメオのしっちゃかめっちゃかな言動にキャロルが我慢できずにツッコミを入れる、という形式の完成によって段々と元がAAスレだった時らしいノリとテンポが戻ってくるんですね。カードバトルシーンも本格化する事によってここらへんから、感触も掴んだのか作品全体的に地に足がついた軽快さが増してくるのである。
とはいえ今の所、まだ新たにチームを組んだメリッサとナツメもキャラがよく掴めないし、他の連中が使うカード類もイマイチ印象に残らなくて、どういうカードなのか伝わってこないのが辛いところ。原作を知ってたら、あのカードは元キャラがあれだから、という風にわかるんだろうか。
一応、読み終わってから原作のウィキなどを見て、元ネタ調べたりしているのだけれどやはりちゃんとスレ見ないと頭に入ってこないものですねえ。
元キャラに基づくネタなんかも、随分とスポイルせざるを得なかったのでしょうし、なかなか手探りの難しい構築となるでしょうけれど、段々と熟れていく感触は伝わってくるので次の巻ではもっと面白さが加速していけばよいのですが。