【現実主義勇者の王国再建記 9】 どぜう丸/冬ゆき オーバーラップ文庫

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東方諸国連合で魔浪の対処にあたるソーマは、激戦地のチマ公国へ東進を決める。チマ公国は戦功を立てた国へ優秀な六人の兄弟姉妹を家臣として供出する約束で援軍を集めていたが、戦況は膠着状態であった。チマ公国への道中、ソーマは遊牧国家マルムキタンの王フウガと出会う。フウガの目的もチマ公国の救援と知ったソーマは行動を共にするが、戦功第一位を狙うフウガにとってソーマは六人の兄弟姉妹を争奪し合う敵でもある。驚異的な武力を誇示するフウガに、ソーマはどう立ち回るのか―!?革新的な異世界内政ファンタジー、第9巻!


これは運命の好敵手の出現か。東方諸国連合の中でも中堅国に過ぎないマルムキタンの若き王フウガ。元々小さな部族同士で集散しながら争っていたのを、北からの魔物の大量侵入を機に遊牧民を統一して国家となったのがマルムキタン。フウガはその統一王、というわけではなく統一したはいいもののどうやら謀殺されてしまった父王の後を継いだ若き俊英、なんですよね。よくあるパターンだとこういうケースだと主人公側が弱小国でのし上がっていく過程に、武力優れた英雄王がライバルとして立ちふさがる、みたいな展開なんだけれど、これはむしろ逆。この若き将来の覇王はまだ駆け出し始めたばかりなんですよねえ。
もし、ソーマの現実主義がもっと冷徹非情のものであれば。ただの可能性、平和を脅かすかもしれないという憶測、危機に対する予防措置を実行する事を厭わないものだったとしたら、何としてでもこの段階で手段を選ばずこの男を抹殺すべきだったのかもしれない。まあすでにこの段階ですら、どうやっても殺しきれないどころか逆に喉笛を噛みちぎってきそう、という感覚が湧いてきそうな手に負えなさが感じられるのだけれど。
もっとも、向こうの方も正攻法では太刀打ちできないんじゃないか、という感覚をソーマに抱いているようでその感性の鋭さを感じさせる。ただ武力や国力では測れない、戦争のルールそのものをちゃぶ台返ししてしまい、通常の武力を意味のなさないものにしてしまいそうな所がソーマにはある、というのを彼は感覚で把握しているようだ。尤も、そういう同じ盤上に乗らないようにしていても、食い破ってきそうな空恐ろしさがフウガにはあるわけで。これは、今後の物語の最重要人物になってきそうだ。
とはいえ、現段階では向こうはただの小国の王。お互いやるべきこと、なすべきことは山のように積み重なっていて、直接相まみえる事はなく、またお互い戦いたくない相手と認識しているわけだから、火花散らし合ったり変に警戒しあったり、という風な関係ではなく、むしろ率直に語り合える対等の関係、という風に収まっているのは面白い。自分の唯一の妹であるユリガをソーマに預ける、なんてこともしてるわけですしね。しっかり誼を通じさせてるんだよなあ。
ただ、このユリガがどうなるのか。今は兄フウガの信奉者だけれど、頑なな子ではないしソーマの義妹のトモエちゃんともあんなに仲良くなって、此方も預かることになったチマ公国のイチハくんと三人でよいトリオを形成しているのを見ると……将来どうなるのか。
そのトモエちゃんだけれど、今までは聞き分けの良い凄くいい子というイメージだったのですけれど、同じ年頃の仲の良い友達が出来るとこんな活発でヤンチャな子だったのか、という元気で結構ズケズケとした物言いをする面が見えてきて、新鮮でありました。そう言えば、周り大人の人ばっかりだもんなあ、今まで。凄くいい笑顔で楽しそうにしているのを見ると、ついついニコニコしてしまうのですが、イチハくんと今からあんなに仲良くなってお兄ちゃんなソーマとしてはその辺許せるのだろうかw
まあ今の所はリーシアとの間に生まれたばかりの双子の相手で一杯一杯だろうけど。リーシアはもう母の風格というか正妃として他の妃たちをまとめる姉貴分としての威風が出てきて、もう少女ではないよなあ。いやほんと、万が一ソーマが王様やってられない事態になっても、女王さながらの彼女が居たらあんまり心配しなくて済むだろうという貫禄が出てきましたわ。
ロロアやナゼンたちも、リーシアの事は旦那なソーマより慕ってるんじゃないか、という懐きっぷりだもんなあ。

さて、東方諸国連合を襲った魔浪もある程度一段落ついて、情勢が落ち着き出した所で他の国々の動勢も怪しくなってきました。ルナリア正教国はなにやら内部で分裂を起こしかけているみたいだし、九頭竜諸島は海軍がちょっかいかけてきているし、また北部では最奥に魔族の国か集落があるのでは、という可能性も見えてきて、傭兵国にも火種があり、とさてどこから動き出すか。
帝国とのコネクションというか、皇族の女性陣とどんどん仲良くなってきて、国同士でも密接な関係になってきているのは安心材料ですけど。