【七つの魔剣が支配する V 】 宇野 朴人/ミユキ ルリア 電撃文庫

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勉強と鍛錬を重ねて己を高めつつ、時には後輩たちを相手に頼れる先達としての一面も見せ始めるナナオたち。困難を増す魔法生物学の課題でグリフォンと格闘し、新たに加わった天文学の授業では、『異界』と『異端』についての過酷な現実を教わる。そんな中、迷宮に連れていかれたピートを追ってエンリコの研究所に辿り着いたオリバーとナナオ。彼らはそこで恐るべき魔道の深淵と、長きに亘る魔法使いと『異端』の対立の一築を垣間見る。一方で、次の仇討ちの相手をエンリコに定め、オリバーは同志たちと共に戦いの段取りを詰めていく。刻々と迫る決戦の時。彼のふたつ目の復讐の行方は―。

なぜこんな事になってしまったのだろう。それは誰よりもオリバー自身が抱いている思いなのだろう。なぜ、なぜ、なぜ。
彼の中で再演される母の記憶の中で、後に彼女を責殺する事になる裏切り者たちは決して鼻持ちならない相手などではなかった。もちろん、一巻で討ったダリウスのような人間もいるのだろう。でもエンリコやエスメラルダはそうじゃなかった。そこには友情があり、愛情があった。確かな絆があった。
はたして、それを容易に覆してしまうのが魔法使いの業なのだろうか。いや、そうであってもそれだけではあるまい。魔法使いとしての業は逃れられないものかもしれないが、人としての愛もまた逃れられない業である。今なお、鮮烈だったクロエの残光は彼女の復讐を企む者たちのみでなく、復讐の対象である裏切り者たちの中にも、生前の彼女を知る大人の世代の中にも色濃く焼き付いて、魂を奪い続けているのがエスメラルダやセオドールの姿からも垣間見える。
それほど強烈な光を、なぜあんな形で殺さなくてはいけなかったのか。否、そんな彼女だったからこそそうやって殺さなければならなかったのだろうか。その理由はどうやら個人個人によって異なるらしい。その理解に辿り着くにはあまりに遠い距離がある。
その断絶が、オリバーを苦しめ続ける。
彼らの栄光と末路が、今オリバーと掛け替えのない友誼を繋ぐ剣花団の行く末にどうしても重なってしまうのだ。あれほどの友情を交わしている相手と殺し合うことになるのだろうか、と疑問は絶えないが現に、オリバーはすでに彼らを裏切っている。彼らと歩む道にすでに背を向けている。
今はまだ対立にも敵対にも至っていないけれど、オリバーたちの歩む道がキンバリーそのものとの対決に至る以上、いずれ本当に道は分かたれる。後戻りするには、もうオリバーは進みすぎてしまった。標的を二人殺しただけじゃない、同志たちが命を捨てて切り拓いた道である以上、そこを進まぬ選択肢はなく、同志たちはオリバーをそんな道を歩ませてしまった罪からもう逃れられない。
オリバーの従兄弟であるシャーウッド兄妹は家族愛を持ちつつももうちょっと組織寄りの考え方をしているのかと思っていたんだけれど、今回の姿を見るともう本当にオリバー個人のために身も心も捧げ尽くしているのがよくわかった。愛して慈しんで、だからこそオリバーに、オリバーという優しく復讐なんて似合わない少年に君主の役割を与えてしまった事に狂死しかねないほど血涙を流していることもよくわかった。
彼らはオリバーのためならなんでもするだろう。同志たちは目的を達するためには本当に命すら惜しまない。そんな彼らのためにも、オリバーは突き進むだろう。もうそうするしかないのだ。
そのオリバーたちの後戻りできない在り方は、どうなのだろう……七人の裏切り者たちがクロエをあんな風に殺すしかなかった在り方と、どこか重なってきてしまうのではないか、とそんな想像が脳裏をよぎる。
復讐の連鎖などよりももっと始末に負えない、救いのない連環じゃないのか、これは。
だからこそ、オリバーの魂の奥底に大切に残されていた素朴な願いに、心奪われる。それは叶わぬ願いだ。こうなってしまった以上、手遅れ過ぎてもうどうにもならない未練にすぎない。
でも、本当に。そうであったら、どんなに良かっただろう。そうであったら、本当に少しだけでも誰もがそうであったなら、こんな誰も救われないありさまになんかならなかったんじゃないのか。
未練である。でも、まだそこに至っていない剣花団にとっては、希望であってほしい。か細くも叶い得る望みであってほしい。切に、切にそう願う。でなければ、あまりにも辛い。
それに、ナナオの着目のされ方が不穏どころじゃないんですよね。ナナオをこの学院につれてきたセオドールの意図がどこにあるのか。どうやら、エスメラルダの頭痛の理由を彼が知っている以上、あの夜の真相もまたセオドールは知っているはずなんですよね。それでいて、エスメラルダの側にいる。そして、そんな彼がクロエを幻視するようにナナオの在り方に執着している。そして、誰よりもクロエに執着していただろうエスメラルダの、ナナオに見せた顔。
純粋な感情こそが狂気に密接につながっていく。その在り方が狂っている魔法使いならば、尚更に。
エンリコの最後の忠告。教師として生徒を思う真摯な言葉が心に沁みる。そう、もう出会っているはずなのだ。オリバーとしての、掛け替えのない出会いを。
それが、果たして救いへと繋がるのか。そうであってほしい。それもまた、願いだ。祈りですらあるかもしれない。

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