【お前らどれだけ俺のこと好きだったんだよ!】  明月 千里/シソ GA文庫

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「俺を側に置きたい? ……何故だ!?」
初めての恋人に僅か一週間でフラれた芦宮隆人は、かつて交流のあった学園のカリスマ、才媛の後輩――
月ノ瀬白雪に秘密の部室へ誘われる。

(コイツまさか俺に気が――!? いや、単にからかうつもりか……!?)
立ち直り新たな恋愛に勤しむべく美少女からのアプローチに期待しつつ、失恋をイジられてなるものかと身がまえる隆人。
かたや――、隆人に恋人ができたショックで寝込むまで己の恋心に気づかなかった白雪は、生来のプライドの高さから素直になりきれず、隆人から告白させようと恋の駆け引きを仕掛けていたのだ!!

(失敗したぁあ。わたしのばかー! )
白雪はその知謀で隆人へと迫るが、才女ゆえに恋愛経験と知識に乏しく、気づかれない……!!
恋に慎重過ぎる少年と、恋に疎過ぎる才女たちの駆け引き――『告白待ちバトル』開幕!


気がついた時には手遅れ。相手に恋人が出来てはじめて恋を自覚する。そんなはじまりと同時に終わりを迎えた失恋に、精神的にズタボロになるヒロイン三人。
本来ならここからゆっくりとメンタルを立て直して、始まらなかった恋を噛み締めながら立ち直る、或いは立ち直れなくて病んでしまうとか引きこもってしまうとかキャラが変わってしまうとか、まあ失恋を引きずり倒して人生踏み外していたかもしれないけれど、ともあれ自分が失恋したという事実を刻み込む時間が彼女たちには与えられて然るべきだったのに。
このやろう、隆人くんてば、わずか一週間も経たずに振られてしまったお陰で彼女たちのメンタルは精神失調の状態から電気ショックを浴びせられたようなもので、完全に冷静さを欠いた興奮状態に陥ってしまったのではないだろうか。パニックになってる、と言っても良い。
なにしろ、月ノ瀬白雪と舞坂くららに関しては、同じ失敗を繰り返しているのだから。最初は自覚がなかったから仕方ないとはいえ、隆人に他の恋人が出来てしまうという大失敗を一度かましているにも関わらず、この娘ら二度目があるという可能性をまったく考えないまま、相手に告白させようなんて余裕ぶっこいた事を考えているのだから。
今の距離に胡座をかいて座していたから、鳶に油揚げ掻っ攫われたにも関わらず、またぞろ同じことをやらかしているわけですからねえ。しかも、今度は隆人を好きな自覚があるにも関わらず。自分から告白すれば、それで速攻片がつく話だったにも関わらず、獲物を前に舌なめずり。手を伸ばせば鷲掴みにできるところにいるのに、律儀に獲物が罠にかかるのを待ってるおマヌケっぷり。
これをして、彼女らを非恋愛脳と呼び習わしめるのか。恋に疎い、というよりも恋の才能がない、技能がない、能力がない、センスがない、恋愛無能、というべきなのかもしれない、これ。
一人だけ櫛水乃愛に関してだけは、この娘の場合恋愛無能というよりもコミュニケーション能力とコミュニケーションをまともに取ろうという意志自体が皆無に近いので、若干ケースが違うのかも知れないけれど。彼女の場合は、恋を知ることで他人という存在に興味を持ち、人間的な反応を獲得していく、という意味での非人間的存在の恋、みたいなベクトルの話になっていて、その過程も普通の人間がたどるであろう行程とはかけ離れたステップを踏んでいたり、と変な面白さのある展開になっているのだけれど。

それにしてもこの主人公、小学生時代に好きな子に告白したら酷い目にあわされた事から恋愛そのものにトラウマを抱いていた、という話なんだけれど、うんまあ高校生になってそういう自分を克服したかったところに、超美人な生徒会長から告白されて、となったら浮かれるのもわかるんだけど……。
知り合いの女性たち、このヒロイン三人全員にカノジョが出来たー、と自慢してまわっているあたり、この野郎、と思わないでもない。交際期間が一週間であった事から鑑みるに、付き合い始めて速攻で報告してまわった、としか考えられないしw
別にヒロインたちが自分のことを実は無自覚に好きだった、なんてこと彼が気づいているはずもないので、何の作為もなかったのだろうけど、なんの作為もなく自慢してまわったんだよね、これw
うんまあ嬉しかったんだろうけど。
そして、速攻で振られて新しいトラウマを植え付けられてしまったにも関わらず、なんか妙な態度で接してくるようになったヒロインたちに、こいつら実は俺のこと好きなんじゃないの? とかなんとなく察するのは良いとして、新たな恋愛のはじまる予兆に腰が引けるのではなく、実は満更でもなく嬉しくて告られたら付き合っちゃってもいいかな、とか考えてた隆人くん……いや君、別に全然恋愛にトラウマとかないだろ!
まあ若干及び腰になってて、積極的にグイグイと真意を問いただせず遠回しに、となってしまうあたりは振られた影響出ているけれど、それはまあ当たり前の範囲だろうしなあ。
でも、健全な男の子とはそういうものですよ。その意味では裏表のない真っ当な男の子で、性格だけみたら基本真面目だしちゃんとかっこいいところのある子なので、全然悪い印象はないんですけどね。むしろ、その俗っぽいところは愛嬌があって好ましくすらある。
でもやっぱり、こやつめー、とは思っちゃいますよねw

しかし、なんで隆人が生徒会長に振られてしまったのか、という件に関しては謎が残ったままなんですよね。彼自身はわからないけど、付き合ってみたら思ってたのと違ったのだろう、と解釈しているのだけれど、そういう単純な話なんだろうか。まだ断片的にしかそのキャラが垣間見えていない生徒会長だけど、えらいサッパリした雰囲気でどうもそういう軽いキャラには見えないんですよね。
……あの間違い電話の件を見ると、軽くはないけど特に深く何も考えていない人かもしれない、と思わないでもなかったのだけど。ただ無意味に付き合ったり別れたり、というのは違和感があるのも確かで……うんそう、そもそもなんで隆人と付き合おうと思ったんだろう。まだ生徒会長に関しては思わぬ形で絡んできそうで、油断はできない。

……肝心のヒロインたち、白雪たちは油断しまくってて草生えるしかないんですけどね!
ほんと、なんでこの期に及んで、隆人を好きになるほど目が肥えてる女は自分くらい、というぼんくらな自信に満ち溢れてるんだろう、この娘たちは。目の曇りかたがパないっすね!

とまあ、このヒロイン三人ともポンコツ具合といい実にキャラ立ってるんですよね。そのまま放っておけばどんどん勝手に「自爆」しながら動いてくれそうな存在感が漲っている。
のですけれど、非恋愛脳の才女であるがゆえに色々と策をこねくり回して、隆人と駆け引きにあけくれる、という作品の根幹ともいうべき設定が、どうにも逆に彼女たちのキャラの動きを型にはめて縛っているんじゃないか、という窮屈さが散見されてた感じもあるんですよね。
恋愛攻防戦、という枠に当てはめようとしてキャラの持つ自由度、ポテンシャルを損なってしまっている、みたいな。
今回は舞台が整うまでの準備段階、前提となる話でもあったので、本格スタートとなるここからはもっと彼女らにはのびのびと「自爆」してほしいなあ、と期待します。

明月千里作品感想