【浅草鬼嫁日記 八 あやかし夫婦は吸血鬼と踊る。】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫

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千年の忠誠と思慕を胸に秘め、吸血の鬼と「最強の鬼嫁」は競い合う!

茨木真紀は、かつてあやかしの国を治めた鬼姫“茨木童子”の生まれ変わり。前世の夫“酒呑童子”だった天酒馨らとともに暮らす浅草で、毎年恒例のお祭り行事を心待ちにしていた。
しかしその喧騒の裏で、吸血鬼による事件が見え隠れしはじめる。前世の眷属で吸血の鬼である凛音を心配する真紀だが、その凛音に真紀自身が攫われてしまった。
浅草に帰るため、在りし日の仲間と刃を交える真紀。それはやがて、茨木童子と凛音が出会った千年前の勝負の日々を、二人に思い起こさせて――。

凛音、この子一番眷属でもしっかりした子だったんじゃないか。
人間になった真紀と再会してからも、敵なのか味方なのかあやふやなポディションで西洋の吸血鬼のコミュニティに属したまま、意図の読めない行動を繰り返してきた凛音。基本的には真紀のことを気遣っているのは確かなんだけれど、攻撃的な姿勢は否めず、そのどっちつかずな態度がどうしても凛音という子の不安定さ、のように見えてたんですね。
最初の方の事件で、眷属だった深影が茨姫の喪失に参ってしまって道に迷っていた、という印象も大きいのでしょう。西洋吸血鬼のコミュニティに深く足を突っ込んでしまっていて、余計な柵を抱え込んでしまっているように見えていた事も多分に影響ありました。
茨姫という柱をうしなって、凛音もまた長く長く彷徨っていたのではないか。自分が何をしたいのかわからないまま、悪い吸血鬼なんかとも関わってしまって、押し流されるようにここまで生きてきてしまっていたのではないか、そんな心配をしていたんですよね。
とんでもないことでした。まったく不要の心配でした。
ある意味スイ以上に、凛音は芯のしっかりした子でした。彼がもっとも、酒呑童子と茨姫の理想を継承して、想いを引き継いで自分の意志で歩いていた子だったのです。
勿論、内心は不安や怒り、自分のどうしようもない無力さに懊悩しながらで自分では迷い流され定まらないまま生きてきたように感じていたのかもしれませんけれど、傍から見れば彼の生き様はずっとブレないまま貫かれてきているんですよね。
日本を離れてヨーロッパを旅して回っていたのも、彷徨っていたというよりも日本という国に囚われずに広く見聞を広めていたとも取れるし、そこで虐げられた弱き西洋のアヤカシたちを救い守り、シェルターと呼ばれる庇護の空間に匿って回っていたのは、それこそ茨姫たちの想いを引き継いでそれを守り続けた結果でしょうし、結局大江山で潰えてしまった理想を凛音は広く世界で実現していたとも取れるんですよね。
吸血鬼のコミュニティに参加していたのも、流されての結果ではなく明確な思惑あってのことでしたし、何よりこの子、真紀ちゃんへの忠誠については最初から一切ブレてなかったんだよなあ。吸血鬼のコミュニティに属したのも、最初から真紀ちゃんを守るためだったわけですし。
それに、一人で抱え込んで突っ走っていたわけではなく、ちゃんと各所に根回しもしていて凛音の勝手な暴走、という形ではなくちゃんと計画的な対吸血鬼戦を構築するその主導を担っていて、頼もしいのなんの。
そうだよね、こういう場合暴走するの真紀ちゃんの方だよね。その辺一番理解していて、真っ先に彼女の身柄抑えたのは確かに正解である。真紀ちゃんも自覚あるので、話を聞かずに勝手に逃げ出すこともせずに大人しく凛音に従ったのは、彼への信頼を伺わせる。うん、人狼の子たちと同じく自分も真紀ちゃんもっと暴れるかと思ってたよ。
凛音の真意がどこにあるのか。彼の本心の奥底でうごめいているものが何なのか。彼が真紀ちゃんをどう思っているのか、ようやくそれを吐露してくれた。或いは、それは胸に秘めたまま口に出してはいけない思いだったのかもしれないけれど、それを言わせて肯定するのが真紀ちゃんの器なんですよね。
ある意味、凛音は茨姫という存在に今なお囚われているのでしょう。囚われて、自分の狭い世界を作ってしまってそこに閉じこもるのではなく、それを基軸にして広く大きく大成してみせたのが凛音の凄さだったのかもしれませんけれど、しかし茨姫が人間として転生し再び彼の前に現れたことで、彼はもう一度愛した人を喪うだろう苦しみを得ることになってしまった。
ここを、真紀の人生を見送ることを茨姫に囚われた凛音の人生の集大成にするべきだと、真紀は感じ取ったのでしょう。彼が自分を愛することを認めてあげることで、自分が幸せになり人生を終えたときに、彼が喪失に潰れることなく今度こそ自由に羽ばたけるのだと信じたからこそ。信じられるだけの大成を、彼が見せてくれたからこそ、わりと残酷にも見える凛音の愛を認め、しかし受け入れない宣言をやってのけられたのでしょう。
凛音にとって、それが一番報われることだったんですよねえ。可哀想とか報われない愛とかじゃあないんだ。ああ言って貰えることこそ、凛音にとっての本懐だったんじゃないでしょうか。

とか、言ってる側から早速ああなっちゃうのって、真紀ちゃんひどいw いや、真紀ちゃんが悪いわけじゃないんだけど、自分の生涯を見守れといった端から はい終了、お疲れ様でしたー となってしまったのはひどくないですか!?w
いやほんと、真紀ちゃんやられた側だから文句言われる筋合いまったくないんだけど。馨以上にこの展開は凛音がいささか可哀想になってしまった。
なんだかんだ、真紀ちゃんがいった先で大人しくしてる姿が想像できないから、というのもあるのですが。いやこの娘、地獄だろうと煉獄だろうと絶対大暴れして向こうの人たち困らせるか半泣きにさせるに違いないんですからw
まあそれが楽しみでもあるのですけど。

友麻碧作品感想