【お迎えに上がりました。3 国土交通省国土政策局幽冥推進課】 竹林 七草 集英社文庫

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健全な国土のため、地縛霊を説得して立ち退かせるのが専門の幽冥推進課で、臨時職員として働く夕霞。過疎の村に一人残る老人が抱える未練や、就活に失敗した女子学生にとり憑いた恐ろしい死神など、難題が続く業務に体当たりで取り組む夕霞だが、相棒の火車先輩が妖怪としての力を失い、消滅の危機が迫って!?この国に暮らす人々が遺した想いを描く、笑えて泣ける心霊お仕事コメディ第3弾!

限界集落問題かー。最近「ぽつんと一軒家」というコーナーのあるテレビ番組を見ることがあるのだけれど、見るたびに気になるのがインフラ関係どうしてるのかな、て所なんですよね。電気上下水道ガスなど、維持には相応のコストとリスクが掛かってしまう。高齢化過疎化によって住人が消滅寸前になってしまった集落などは、そこに都市部への生活物資の購入や病院への通院という移動負担が重なってくる。引きこもっていられるのって、都市部だから老化していないからという要因もあるんですよね。
必然的に、集落全体で日常生活を維持できなくなれば、住人の安全、生存を保持するために退去を促さなければならなくなる。住民も自治体も、誰が悪いというわけではない高齢化社会、人口減退していく国家の最突端の現象なんですよね。
でも自分が退去することで、誰も居なくなる家に、人が存在しなくなる村に、家族を置き去りにしてしまうとなれば、そりゃあ受け入れられないよなあ。たとえ、それが見えない地縛霊だったとしても。この老人の哀しいところは自分のそれが我儘で多くの人の手間暇と財政に負担をかけるものだとちゃんと理解してしまっていたところ。それでも家族を見捨てられないなら、生存権を諦めるよりなかった所なのだろう。
それを見守っているのが、心もなにもない残影としての幽霊ならまだしも、この作品の地縛霊たちは整然と同じ知性と情緒を備えた人たちなんですよね。いくらその最期を看取るのだと約束していたとはいえ、大切な夫がそんな哀しい末路を辿るのを目の前で見せられることになる奥さんの地縛霊はツラいなんてものじゃなかったでしょう。夕霞の来訪はまさに瀬戸際だったわけだ。
彼女の説得は、地縛霊である奥さん側の視点に寄ったもので、だからこそ老人には刺さったのでしょう。夕霞の示した残してきた妥協策は、時代ゆえに滅びなくてはならなかった集落を、進んだ時代ゆえにそこに居ないまま繋ぐことが出来る、というものでしたけれど、彼女自身自戒しているようにその場しのぎのものであるのは確かなんですよね。でも、完全な解決法がない以上は、これが出来得るベターなんだろうなあ。コスト掛かりそうだけど。
奥さん動かせられれば最良なんでしょうけどね。

さても、話は先の巻から懸念されていた火車先輩の妖怪としての寿命問題。に、さらに死神案件という人死の出ている非常に危険な事件が重なって、と今までで一番緊迫した展開に。
いや真っ先に職場からお達しがある前に死神案件に遭遇してしまうの、夕霞には行き会う縁があるとしか思えないよなあ。今回は、自分と同じ就職で塗炭の苦しみを負い続けている同世代のリクルート女子が被害者であり加害者であったために、今までよりもさらに色々と夕霞が共感してしまうことに。他人事を自分のことのように入れ込むのは、それだけ相手の心に言葉が届き響いてくれる、という事でもあるけれど、こうしてみると辻神さんが叱るように危険極まりないんですよね。
この娘にはお目付け役が必要ですよ。そりゃ、あそこまで親身になって身を粉にして生きてる人だろうと死んでる人だろうと全身全霊でぶつかっていくの、心打たれるのは間違いないんですけどね。あの死神のようにそれがどうしても通じない相手もいるわけで。確かに有能だけど、それ以上に危なっかしいですよ。その意味でも火車先輩は絶対に必要、うん。
火車が時代の変化によって過去の文化が失われて妖怪としての存在意義が消滅してしまったがゆえに、存在を維持できなくなっているという話。彼がこの国土交通省国土政策局幽冥推進課でやっている仕事がその代替行為、というか新しい時代に合わせた新しい火車としての在り方なんだと思っていたのだけれど、先輩自身にはそういう自覚まったくなかったのか。というか、それを自分の存在維持につなげて考えることがなかった、というべきか。
でもそうだよね、ここでの業務を認識している人間は今や夕霞だけなのだから、それを新しい伝承、文化として捉えるには影響範囲が限定されすぎているか。妖怪としての力を取り戻すには、世間に周知されないとやっぱり維持力は増えないのね。それでも、夕霞がそう認識しているだけでアンカーにはなり得るのだとわかったのは心強い。この娘が、そういう鎖を手放すはずないものね。
にしても、課長、給料はちゃんとあげてください。ハングリー精神を発揮してもらうため、とか完全にブラックな考え方ですからね。評価は正しく公平に!
まあ、予算の関係上予定になかった嘱託が増えたからあげられなくなった、というのは理由としてわからなくもないのですけど……いや、火車先輩にそういう意味でのお給料って払われてるの、これ?
最後の課の行く末にまつわる不穏な情報を見ると、そもそも正社員登用ができなくなったという可能性もあるのだけど。

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