【帝都異世界レジスタンス】 遠藤 浅蜊/海苔 せんべい 宝島社

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時は大正。
開国以来西欧から流れ込んできた文化や亜人たちが日本に馴染んできた頃、東京各地に謎の半球形建造物「はむすぴあ」が出現する。
政府の研究機関や軍部の調査により、転移装置であることは判明したが、詳細は一切不明なまま。
ところが、華族・君小路家の娘にしてハーフエルフの少女エアルミアが利用すると、なぜか異世界へと繋がってしまい……。
果たして、エアルミアは「はむすぴあ」の秘密を狙う勢力から逃れ、真相に辿り着くことができるのか!?

エアルミアさん、お母さんがエルフのハーフエルフで華族のお嬢様なのだけれど、どうにもエルフの事誤解してるようなんですよね。いや、エルフという種族がどういう人達なのか詳しく語られてはいないのだけれど、母親のエルフは温厚な人だし途中で知り合う小説家のスオリンドルはやや変人だけれど明治大正の文人らしい変人具合で基本文型なんですよね。
でも、エアルミアが思い描いているエルフというのは、どうも森の王者ターザンとか首刈り戦闘種族アマゾネスとかそっちの類なんじゃないだろうか。なんか常在戦場とか言ってやたらと武術や腕力鍛えていて、いったい何と戦うつもりなんだというお嬢様の手習いの範疇を圧倒的に超えてしまってるんですよね。もうこれ、鎌倉武士の系列なんじゃないだろうか。なんか、やたら短気で喧嘩っぱやいし。何よりも、負けず嫌いが度を越してしまっていて、最初の転移事故で迷い込んだ密林にて最後にドラゴンと遭遇してしまうのですが、ドラゴンの出現にビビって何も出来なかったのがどうしても悔しかったらしく、再戦するためにもう一度転移しようと目論んでいたり、といやいやそれドラゴンは負けず嫌いを発揮するような対象じゃないでしょうに。
そういう、なんとも胸の内に爆発寸前のマグマを飼っているような危険生物な主人公がこのハーフエルフなのですけれど、さすがに気性は激烈に激しいとはいえ見境なしに噛み付くような狂犬ではなく、偶然肩を並べて一緒にサバイバルすることになったクラスメイトの香澄とひなとは戦友として大いに友誼を深めることになる。ドラゴンとの再戦も、自分の勝手なので巻き込むわけにはいかない、とこの件に関しては無理やり一緒に引きずり込む、なんて真似はしませんし。
……本作の作者の遠藤さんは【魔法少女育成計画】シリーズを手掛けている方なのですが、あのシリーズに登場するような似たようなキャラだと、無理やり強引に巻き込んで道連れにしそうだなー、とか思ったり。そういう観点からすると、本作のキャラってわりと突拍子のないところもあるけれど、基本的に相手の気持ちや事情を慮って配慮できたり、友人の心の内をちゃんと察して粋に動いたり、と結構ちゃんと思い通じてるんですよね。
……【魔法少女育成計画】シリーズだとこのあたり、見事なくらいにすれ違い食い違い独善独断自己完結に勝手な解釈、と意思の疎通もままならないが故に余計に酷い展開になってしまうケースが散見されるだけに、ちゃんと友達同士仲間同士気持ちを通じ合わせ、連携もうまいこといって、となっているのは妙に感慨深かったり。エアルミアもひなも香澄も【魔法少女育成計画】の方だと見事に頓死しそうだもんなあ。意志が強くてやるべきを見出している子が生き残るとは限らない作品なだけに。
ひななんて、臆病で小心者で引っ込み思案という小動物的な娘さんにも関わらず、その心意気たるやめっちゃ気合入っていて凄腕の弓術家というのもあって、あれだけ内気にも関わらず自分がみんなを守るのだという固い決意を最初から固めているあたり、非常に気持の強いカッコいい娘なんですよね。この娘が真っ当に奮い立ち要所要所でその気持の強さを見せてくれるのは非常に頼もしかった。ムードメーカーに徹してパニックや気持ちが落ち込みそうな場面で意識的に盛り上げようとしていた香澄も、すごく友だち甲斐のある娘だったんですよね。成金のお調子者でありながら、根底に冷静な眼を常に保っていて盛り上げ役や抑え役、先導役と様々な形で皆の支えになりつつ、一番エアルミアの炎のような性質を理解してくれていて、率先して付き合ってくれるの、ほんといい友達に出会えたなあ、と。エアルミアはその気質から回りに人が寄ってこず孤立しがちで、それをなんとも思っていないタイプなのですけれど、ひなと香澄とのトリオはほんといいチームでした。
と、三人だけではないんですよね。ここに漢オークなザーガットにニンジャ記者の百合子が加わり、なかなか意味不明な人種混合チームになっていくのですが……。
転移先での冒険譚、というよりもその転移装置である「はむすぴあ」を巡る陰謀劇に転移事故をきっかけに首を突っ込むはめになり、という展開で、そういえば肝心のこの「はむすぴあ」とは何なのか、という点については踏み込まないまま終わってしまった。ザーガットが転移先で体感した、自分のもう一つの人生、についても不明なままでしたし。
この世界で普通にエルフとかオークとかが存在する理由にも繋がってくるのだろうけれど、そのあたり仮説を導き出せるほどの情報もまだ出てきていないので、続編次第なのかしら。
……そういえば、最初に転移してしまった密林で出てきたグリフォンとドラゴン、両方ともエアルミアたちが遭遇した時点では彼女たちは存在も知らないはじめてみる謎の生物、という認識だったんだけど、エピローグ付近ではドラゴンとか四国の山奥に棲息している、とか普通に書かれていて、ん? となったんだけれど、これどういう事なんだろう。単にエアルミアたちが無知で知らなかっただけ? それとも、もっと異なる理由がある? かつてザーガットが向こうの世界で見たという赤く光った「はむすぴあ」。さらっとこちらの世界ででもはむすぴあが赤く光った、という記述もあっただけに、気になるといえば気になる。

遠藤 浅蜊作品感想