空ノ鐘の響く惑星で 4 (4)

【空ノ鐘の響く惑星で 4】  渡瀬草一郎/岩崎美奈子  電撃文庫

 うーん、ちょっとこれ新書くらいの厚みで読んでみたかったなーとふと思った。
 想像していたより戦場における戦況推移がかなり見事だったんで、それだけにあっさり内乱が片付いてしまったのが勿体無いような気分になってしまった。

 戦争描写や戦況の展開は決して奇抜なものはなく、むしろオーソドックスすぎるくらいオーソドックスなんだけど、思わず唸ってしまうほど描き方と使い方が上手い。
 一番何が上手いって、戦場で何がどうなってるのかは非常に分かりやすく描かれていること。簡素でありながら粗雑でなく、オーソドックスでありながら陳腐でない。ド派手ではないものの、見せ場見せ場を心得ていて演出に隙が無く、描きようによっては平凡にしかならない展開を、妙に複雑化して難解に見せる事無く、ドキドキさせてくれるスピーディーなものへと仕立て上げている。
 これって何気に地味な筆力が必要で難しいはず。前から渡瀬氏の筆力は高いところで安定していると思っていたけど、こういう面でも遺憾なく発揮できるとは渡瀬ファンとしては嬉しいばかり。
 
 天才軍師などと帯では持ち上げられてるクラウス卿だけど、その用兵は教範そのものと言っていい。その面からも、彼は普通天才から想像される奇想天外な策をもって敵を翻弄するタイプの軍師ではなく、地味に堅実に着実に戦場を整え戦況を確定し戦闘を操作するタイプの軍師だと思われる。
 面白いのが、今回の敗戦が彼の価値を全く下げていないということ。レジークの述懐でも語られているように、フェリオ側の鮮やかすぎるくらいの勝利は完全にリセリナの存在によるもの。無論、リセリナというファクターを見事に活用して見せたフィリオの軍略にはいささかの瑕も見当たらないし、逆にリセリナという絶対予想不可能なファクターの介在さえなければ、クラウスはまず間違いなくフェリオたちを下していただろうから、彼の堅実な軍師としての価値は殆ど落ちない。結果、内乱という味方相打つという形でありながら、双陣営ともに高い人物評価を得るという形に収まっている。多少あっさりし過ぎな面はあるけれど、20巻以上続けるつもりならともかく、電撃文庫でならこの程度の容量が妥当なところだろうし、内乱の片付け方としては実に見事。露骨に両方凄かったねー、ではなくさり気なくやってるところが特に。
 しかし驚いたのが来訪者たちと関わった猟師の少年が、そのままフェイドアウトどころか一気に話の主要人物までのし上がってきた事。これは全然想像していなかった。肝心の来訪者たちもかなりそれぞれに個性と思惑がある様子だし、むしろ人品的には好ましい人物も多い、これは現れたときの事件が事件だっただけに、本当に人材を蔑ろにしないなー。主要となる登場人物を着実に増やしていることからも、渡瀬氏がこの作品をかなりじっくり腰を据えて書くつもりなのだろうと予想する次第。いや、楽しみだ。
 ウルクが離れちゃったのは残念だけど、その分リセリナがちゃんとフェリオに接近してるので、今後の本格的な三角関係の鞘当が期待できそうで、これまた楽しみ。
 問題点は、やっぱり厚みがもっと欲しいってことでしょう。もっとじっくりと。
 ただ、編集部側の方針的に無理だとしたら如何ともしがたいのか。