描きかけのラブレター

【描きかけのラブレター】  ヤマグチノボル/松本規之  富士見ミステリー

 もはやミステリーなんて欠片どころか微塵も存在しないんだけど、ああもういいなあこんちくしょう!!
 ヤマグチノボルはまだ『グリーングリーン』のノベルズとMF文庫Jの『ゼロの使い魔』しか読んだことがなくて、ゲームの方もプレイしてないんだけど、こういうの書ける人とは思わなかった。すっごく真っ当な恋愛小説。恋愛小説というと砂糖の入れすぎたコーヒーみたいに甘ったるいという印象がどうしてもあるんだけど、これはむしろ淡々とした語り口。ここらへん、新井輝と共通してる気がする。本当にこのレーベル、独自の色を出し始めたんじゃないか。本家ファンタジアはもちろん、電撃やスニーカーでもこういう一連の恋愛ものって見かけないし。だからもうミステリー文庫じゃなくてLOVE文庫でいいじゃん! 
 なんにしても、読んでる間ニヤニヤしっぱなし。それでいて二人の手を繋いでるくせにお互いそっぽ向いて不貞腐れてるみたいな関係がもどかしくて眉顰めっぱなし。お陰でニヤニヤしながら眉を顰めるという器用な真似をしてしまった。素直になれとか、そういうんじゃないんですよね。素直になっちゃったら円は円じゃないわけで、頑固じゃなくなったらユキオはユキオじゃなくなってしまう。お互いが自分らしさを譲らないまま、だからすれ違ったり互いの気持ちが良くわからなかったりしてしまうんだけど、それでも二人が二人のままで理解しあっていく姿がなんとも心地よかったです。
 ああ、女心と秋の空(笑)
 視点がユキオなんで、円に対するあの「なんだこの女、なに考えてるのかさっぱりわかんねー」って気持ちは良くわかるんだなあ。でも、他人事なのでユキオが頭抱えて悩む姿をニヤニヤと見れる。楽しい。加えて他人事なので、ユキオの頑固で察しの悪い部分がちゃんと見えているので、円の「なんであいつ、わかってくれないのよ、ばかやろう」って気持ちもこれまた良くわかるんで、ムッツリして枕でも壁に投げつけてそうな姿が想像できる。もはや面白いを通り越して愉快。
 でも、全然甘い雰囲気になるどころか、恋人らしい会話もなく殆ど不機嫌の応酬ばかりしているものだから、最後らへんの「あたし、寒い」の威力は凄まじかった。あれは凄まじかった。もうどうしようかと思った。まさに殺し文句。
 「グリーングリーン」の小説が全然面白いと思わなかったんで、しばらく買い控えてたんですけど、これほどのものを書けるんなら、ちょっと見損なっていたことになるか。「ツッパレ有栖川」など評価の高い作品には手を出してみようかしら。