本格推理委員会

【本格推理委員会】 日向まさみち   産業編集センター

 今ではもう流し読みどころか読み飛ばすことも多くなってしまったサンデーで連載中の『名探偵コナン』。この漫画の初期の話なんですが、とても印象的な回がありました。関西の探偵、平次との会話でのコナンの台詞。正確には覚えていないのですが、探偵は犯人を死なせてはいけない、そんな言葉だったと思います。以前、一度だけ推理によって犯行を暴いた犯人が自殺してしまったことがあり、それをコナンこと工藤新一が痛切に悔やんでいるという描写であり、自分は二度と繰り返さないのだと告げるシーンでした。探偵が事件を解決し、犯人が自殺してしまうことに、当時の私は何の疑問も抱いていませんでした。探偵ものとはそういうものだと思っていましたし、事実当時の私が触れたことのある探偵もの・ミステリーには私にそんな疑問を抱かせるような作品は皆無でしたから。
 それだけに、コナンのその回は印象的という以上に衝撃的であり、今なお私が金田一少年の事件簿よりもコナンの方に好感を持っている原点のような気がします。
 と、長々と語ってしまいましたが、もちろん関係ないことを書いてるわけではありません。
 本作は上記の探偵ものへの提起に真っ向から向き合い、そして一つの答えを提示した、そんな作品でした。

 第1回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。あとがきでこれはライトノベルなのだと著者が胸を張って語るように、出てくるキャラクターは非常に個性的な面々です。記号的とすら言ってもいいかもしれない。引きこもりで料理が超絶下手糞な小説家の妹のような母親、世界をまたにかける冒険家な父親、将来は世界的大道芸人を目指す妹。睡眠狂で歩くトラブルメイカーなナニワ少女の幼馴染。他にもこれでもかと特徴的なパーソナリティを投入されたキャラクターがワンサカと登場する。
 キャラクターものといっても過言は無いかもしれない。実際、前半はこいつらのハチャめちゃなやり取りや掛け合いにケタケタと笑いながら読んでいた。
 だがしかし、これは何はともあれ探偵小説なのだ。読んでもらえばわかる。これは何よりもまず探偵小説だった。そして講談社の青春エンタなんかより遥かに真っ当な青春エンタテインメント作品だった。
 猟奇事件も連続殺人もこの作品にはありません。普通に見るなら取るに足らない小さな事件。巷の傲慢な名探偵ならこう言うでしょう。こんな誰にでもすぐに分かる退屈な事件なんか私に回さないでください。もっと複雑怪奇で謎という謎が雲の素のようにこんがらがって解けない難解で厄介で血みどろで怨念の満ちた面白い事件を!!
 本当に些細な、小学生が幽霊を見たというだけの、大仰な真相なんて何処にも無い事件です。でも、それがミステリーとして劣っているのかというのなら、私は否と言いたい。ミステリーを特別愛しているわけじゃない普通に少々好んでいるだけの立場だからこそ声を大にして言いたい。否否否、間違いなくこれは良質のミステリーだった(最後まで正体に気づかなかった私が言えた話ではないかもしれませんが(汗)
 そして何より優しさに満ちた物語でした。甘えを許してくれない、でも胸のあったかくなる愛情の詰まったお話でした。
 読み終わったあとの清涼感に、今は深々と身を沈めて浸りたいと思います。ああもう、めちゃくちゃ良かったーーっ!! 大好きだーっ!! 私、もうこういう話大好き。げっちゃ面白かったーっ!!

 ところで響さんって何気に性別描写なかったと思うんですけど、あれ男じゃなくて少女ですよね?