空ノ鐘の響く惑星で〈3〉 →bk1 →blogmap

【空ノ鐘の響く惑星で 3】 著:渡瀬草一郎  電撃文庫

 そういえば、これまで異世界戦記モノって電撃じゃなかったですよね。この手のものは、中央公論が独占していたと思うのですが、富士見ファンタジアで「A君(17)の戦争」や「火魅子伝」が出た事で電撃も触手を伸ばしたという事なのだろうか。同時期に「ゆらゆらと揺れる海の彼方」も出版してるし。
 ……いや、本作を戦記モノと位置付けていいんだろうか。本作は田中芳樹の「アルスラーン戦記」みたいだ、と云われてるみたいだけど、実のところまだ軍勢同士がかち合う段階にまで至ってない。む、でも合戦シーンがなければ戦記モノじゃないかというとそれも疑問だ。書かれているものが戦争であれば、直接的な戦闘描写がなくてもそれは戦記と言って間違いはないのかも。となれば、既に死人まで出るような果敢な政治闘争と謀略戦、そして内戦への様々な布石が打たれていく描写が充分以上描かれている本作は、もう既に戦記モノと位置付けてもいいのかもしれない。うん、そういう事にしておこう。
 って、感想と違うし。
 前回、一般的な幼馴染像からは一線を画すような豪腕と辣腕で主人公にも周囲にも有無を言わせぬ形で主席ヒロイン(婚約者)の座に収まってしまったウルク様、実はその時は恋愛感情抜きだった事が発覚。いまさら自分の気持ちに気付いてオロオロしてどうする。いや、それはそれで愛いのですが、あれが完全に作意的だったらもう最強の幼馴染として伝説に残るキャラになれたはずだったのに。
 さて、物語の状況の方ですが、外務卿ラシアンや騎士団と別れて王都に残り人質にされた反第二王子派の面々を救出出来ないものかと動くフェリオたち。すわ次回からはいよいよ内戦勃発かと思わされた二巻の最後からみますと、話進まないのかなと思いきや、レジークの真意と彼の背後にある勢力の思惑、第三王子の立場、貴族勢力の戸惑いと重要な新キャラの登場、軍務卿の懊悩、来訪者たちと教会内部の動向など、勢いのまま進まずに一度読者側に状況をスッキリさせて提示してくれました。これは正直ありがたい。かなり多くの思惑が絡まりあっているだけに、もしそのまま話が進んでいた場合、置き去りにされてしまった部分がだいぶ出てきたんではないでしょうか。それが全勢力の方向性が示されたお陰で、今後一つの事柄に対しての各勢力の反応が唐突感なく理解できると思います。また、各勢力の動きがある程度想像できるからこそ、予期せぬ事態が起こった際に、こいつらなんで驚いてるの? と不思議に思う事無く読者も意表を突かれることに。
 先の展開を面白く感じさせるための幅を、この巻で非常に膨らませる事に成功してるんでないでしょうか。
 渡瀬さんといえば「陰陽の京」の続きも是非是非読みたいんですけど、今はこれが実に楽しみ。内面描写の丁寧さと清涼さは電撃の作家の中でも一際魅力的だけに、面白さに関してはまるで心配していません。保証します。だから皆さん買いましょう、このシリーズ。打ち切りにされると困りますから、ね?

 追記:……義理という時点でもうニナは貰ったようなものだと思います(w