てのひらのエネミー 3
 魔軍胎動
】 杉原智則/桐原いづみ  スニーカー文庫

気が弱くて虐められッ子な少年が思わぬことから魔王になってしまう。
勇者ではなく主人公が敵側、いわゆる魔王や世界世界を狙う秘密結社の首領になってしまうというパターンはそれなりの数、見受けられるんだけれども、実際は敵側と言っても人間よりも気のいいやつらだったり、根は素直で可愛いやつらだったりと、魔王首領になってしまって困った困ったとは言いつつも、本当の意味で正義と悪の狭間で苦しむような目にはあまり合っていない。
ところが、このてのひらのエネミーの主人公と来たら、他の同じ境遇の連中に比べても気の弱い少年のくせに、置かれてる立場は本当に際どいものとなっている。この世界では魔法使いという人種が徹底的に差別的に敵視され迫害されている。国によって迫害のレベルは違うものの、中には魔法使いを沢山殺せば殺すほど善行を積んだことになり死後天国に昇れる、なんてことが信じられているような国もある。もちろん、魔法使いも寄り集まって各地で抵抗運動、ゲリラ活動を繰り広げているが如何せん数が少ないのと、科学技術の発展により銃器や航空機など魔法に対抗できる強力な兵器が現れたことから、劣勢を強いられている、というか殆ど一方的に追い回されている状況だ。
そして、そんな追いつけられている魔法使いたちが希望を繋ぐ存在こそが、古代に膨大な魔力と強大な魔将たちを操って世界を征服し、遥か未来に復活を予言したという魔法使いたちの王『魔王』。
そんな魔王の力をほんの偶然から継承してしまったのだから、主人公はかなり際どい立場に立たされる。復活した魔将たちは、気のいい連中とは程遠い本当に血に飢えた連中ばかりだし、元は魔法使いでもなんでもない主人公は魔王を継承したといってもそれを上手く使いこなせず魔将たちの手綱を抑えるので精一杯の状況。しかも周囲では魔法使いとそれ以外の人たちが憎悪剥き出しでテロと殺戮の応酬を繰り返している。魔王の力を手に入れたと言っても、主人公はそれをどう使っていいか分からない。魔法使いたちへの同情はある、でも彼らを助けるために彼らを殺そうとする、元々は普通の人間たちを殺してまわる決意はできない。自分が新たな魔王だと宣言すれば、絶望に包まれつつある魔法使いたちは希望を取り戻すだろうが、そうなると自分は本当に魔王に祭り上げられ、自分の下に魔法使いたちが糾合して、本当の意味で魔法使いとそれ以外の普通の人間たちとの戦争になってしまう、なにより怖い、そんな責任を負いたくない。
それでも気が弱いなりにイイ子な主人公なので、こんな面倒な魔王の力なんか捨てて逃げ出したいと思いつつ、お目付け役の魔法使いがいるので逃げ出せないまま、目の前で起ころうとする惨劇をどうにかしようとヨタヨタと駆け回るわけだ。

これでいざというときは魔王の力で一気に事件解決、となればカルタシスもあるのだろうけど、先述したとおり、主人公は魔王の力を本当に上手く使いこなせない、オマケに状況は人種間抗争、あっさり解決するような問題でもない。あげく、この主人公、本当に気が弱くて意志も弱い。弱いなりに頑張ってるのだが、頑張ってもどうしようもないものもあるわけで……。
正直、ここまで打開方策が見当たらない状況下に主人公を放り込んでどうするんだろう、と心配ですらあります。先が分からないという意味では大変面白いわけですが。
二巻の終わりで、結局住んでいた街を出て先行きの見えない旅へと出た主人公、3巻で幼馴染のタカビー(というよりもう暴君と言っていいかも)お嬢様と再会するんですが(でもこれが典型的なツンデレ系で愛い)、交遊を深める間もなく、主人公が寄った魔法使いたちのアジトに軍が攻めてきて……
シリーズ当初はまだコミカルな場面もあったんですけど、もうハード一直線です。この結末であとどうするんだろう。
っていうか、ヒロイン、死なんだろうな?