暗き神の鎖〈前編〉―流血女神伝
【流血女神伝 暗き神の鎖(前編)】  著:須賀しのぶ  コバルト文庫

 ごめんなさい。もうほんと謝りますから勘弁してください。
 ルトヴィア側のどんどん転げ落ちていく様子に、読んでて土下座したくなりましたよ。たまらんなあ。

 以下、ネタバレありです。




前にも書いたけど、このメンツだったら普通は国政上手く行きますよ。皇帝のドミトリアスことドーンは高潔で行動力に溢れ頑固ではあるけれど頑迷ではなく柔軟で厳しくも優しい性格、と非の打ち所のない皇帝としてこれ以上無い人物であり、それを支えるグラーシカ王妃はドーンと同じぐらい優秀であり、また人間としての包容力と魅力に溢れ、夫であるドーンと深い信頼と理解を交わしている。さらに、脇には性格は曲がってて怪しいものの真摯に国の発展を思い、有能さとしたたかさを併せ持った宰相補佐のロイが控え、貴族の頂点である四公の筆頭西公の実質的な長に収まりつつあるミュカこと成長したミューカレウスも協力してくれているのに関わらず、国は傾く一方。最初の二巻でどれほどの期待を受けてドーン兄が皇帝に即位したかの過程をちゃんと見せられ、そしてグラーシカがどんな思いで輿入れしてきたかも見せられているだけに、本当に見ていて辛い。
 なんども言いますけど、普通こんなこれ以上望めない人材揃えたら、国政に虫喰う連中を排して改革に成功し、国の状態も素晴らしくよくなって皇帝陛下万歳、って書きたくなりますよ。『十二国記』の華胥の幽夢みたいに理想だけを追いかけて現実に対処する能力が無かったかというと、そんな事は無く。本編でも触れているように、不運が重なったとしか言いようがないんですよね。
 エティカヤ側の描写が眩しいくらいの明るさに包まれているだけに、ルトヴィア側の息の詰まるような重苦しさは読むのも苦しい。しかも、さらに追い討ちをかけるんだものなあ。グラーシカとの間に子供が生まれないものだから、側室候補としてロイがドーンの皇子時代の恋人を連れてくるのです。市井の酒場の女給をしていた彼女――サラ。素朴で姉御肌の彼女とはお互い好きあっていたものの、立場の違いもあって泣く泣く別れたんですが、ドーンはそれ以来頑なに側室を作らず、相手は王妃のグラーシカだけとしてたのです。勿論、サラの件が頭にあったに違いない。
 その彼女がロイの尽力で側室に慣れるだけの地位を経て現れた。しかもグラーシカはそういう事には頓着しない性格&自分は政治上の相棒だ、という意識が強いので手放しでOK。それでも頑固なドーンは一旦連れそう相手はグラーシカ独りだけと決めていた為に側室にすることをずっと躊躇していたんですが(この時の放置されたサラの哀しい心境は身に詰まりました)、そこは弟分のミュカの熱い説得でようやく翻意し、ついに愛する二人は結ばれたのでした。
 これ一つで感動的な美談になりそうな話が良かった良かっためでたしめでたし、で終わらないのが流血女神伝!!
 これでもかっこれでもかっこれでもかーーっ! と須賀先生が巨大なハンマー振り回して原稿どついてる幻を見ました(w

 ルトヴィア側にばかり言及していますけど、本来の主人公であるカリエの人生も相変わらず波乱万丈。前巻の終わり方もあって、絶対にエドと二人で旅に出てたと思いきや、あっさりバイアンの奥さんに収まって結婚しちゃったし。エティカヤの正妃になっちゃったし。
 いや、結婚するならいいんですが、相手は砂漠の王様で、すなわちハーレム抱えてるんすよ。当然の如く二人きりでラブラブなんて事には行かずに、他に奥さんが一杯いるわけです。おまけに王妃は後宮から女性を選んで王様に宛がったりしないといけないのです。
 ここらへん、電撃などの男向けのレーベルでは絶対書けんわなあ。遠征王シリーズでも思ったんですが、女性の作家さんが女性を主人公にした場合、男が書く場合より遥かに主人公に対して容赦なくなりません? いやもうすげーなーそこまでやるか、と圧倒されるばかりです。
 それとも、須賀先生と遠征王シリーズが特別なのか。さすがに少女系レーベルは沢山読んでるとは言えないので、明言できないです。そういえば十二国記の陽子も一巻では酷い目に……(w

 さて、結婚したとはいえ二人きりになれば前とそんなに変わらないやり取りのカリエとバイアン。ほんとにめげない彼女の前向きで明るい雰囲気に和まされはするのですが、前途はようようとはまかり間違ってもならない流血女神伝。正妃になっても相変わらず行き先不明のジェットコースターに乗せられたようにいきなし故国ヨギナの新総督にさせられるわ、懐妊してしまうわ。それだけなら何も悪い事は無いのですが、なにか表に出ないところで着々と総てが悪いほうへと傾いているような、そんな予感が全体につかず離れず付きまとっております。
 はっきり言って、主人公はじめどの登場人物も好感が持てて魅力もある人たちです。その誰一人として幸せになれないんじゃないかと予感させられるこの恐怖。それなのに続きを読まずにはいられないこの面白さ。
 一般的にライトノベルに分類されるレーベルから発刊されてる本の中で、小野不由美の『十二国記』と異世界モノとして真っ向から四つ組めるのはこの『流血女神伝』くらいじゃないかな、と思います、はい。
 とはいえ、世界観こそが基盤の十二国記と人物の歴史が基盤の「流血女神伝」ではベクトル違うので並べるのは間違ってるでしょうけれど。