【クラスメイトが使い魔になりまして】 鶴城 東/なたーしゃ ガガガ文庫

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「その貧乳で使い魔は無理だろ」「死ね!」

クラスの美少女を侍らせてみたい。

誰もが一度くらいは考えるんじゃなかろうか。でもまあ、正直オススメしない。
落ちこぼれ魔術師の俺、芦屋想太には藤原千影という使い魔がいる。彼女は魔術師の名門出身で、ついでに誰もが憧れる学年一の美少女だ。
え、羨ましい? まじか、じゃあ譲ってやるよ。
まず、こいつはご主人様に求める理想が高い。負けん気が強く、中々反抗的で、絶望的に貧乳だ。
それでもいいならぜひ引き取って……あ、うそ! 許して、藤原さ―――

この物語は主従関係からはじまる、ふたりの恋(?)のヒストリー……らしい。
ストーリー展開にも世界観にも特筆スべき部分がなく概ねオーソドックスにも関わらず、ついつい没頭してしまう面白さというのは、やっぱり語り口の上手さということになるんでしょうね。どれだけお話が面白いネタであっても、それを伝える喋りが下手ならその面白さなんてものはさっぱり伝わらない。いやこれ、なんでこんなに面白いんだろう、と思わず首をひねってしまう作品は大概これなんですよねえ。
主人公は控え目に言ってもろくでなし。やる気のないクズ。実は熱い心を秘めていて情にも厚く義理堅い、というわけでもない。とはいえ、正真正銘のクズ野郎でも悪人でもゲスの類でもないんだけど。そこまで悪くはないんだけど、という中途半端さは実に一般人らしい範疇である。こういうのを、意識が低いというのか。
対してヒロインにして事故で使い魔になってしまった藤原千影は自分にも他人にも厳しい意識高い系。そりゃ相性悪いよね、という所なんだけれど事情が明らかになってくると千影の想太への当たりの強さは彼女の意識の高さとは関係ない、いや極めて強い関連性はあるんだけれど、想太の向上心の無さ実力の無さが自分の美意識と合わない、許せない、という類の苛立ちとは種類が異なっていたことがわかってくる。
これ、最初想太の使い魔になってしまったこと、千影は本気で絶望して錯乱して嫌がっていたのだと思っていたのだけれど、わりとさっさと諦観に飲まれてしまったというか想太の使い魔として一生仕えなければならない、という悪夢を白目剥いて虚ろになりながらも現実のものとして受け入れてしまっていたんですよね。それを不思議には思わなかったのですけれど、考えてみるともっと現実逃避したり、もっと必死になって使い魔の楔を解く方法を探し回ったり、想太に対して敵愾心を剥き出しにしてもおかしくはなかったんですよね。いや、もう想太とバチバチ文句言い合って暴れて罵倒しまくって、としていたからあんまり違和感感じていなかったのだけれど。
でも、最後まで読んで想太と千影の過去を垣間見てしまうと……千影さん、実は渡りに船だったのじゃないのか、これ。嫌がらせで、このままならアンタを婿入させて名家の当主に仕立て上げて権力闘争の渦中に放り込んで一生苦しめてやる、死なばもろともだー、とかほざいてたのも、いやわりと的確に想太が本気で嫌がる未来絵図だったので真実嫌がらせだと思ってたんですけど……実はわりとマジだったんじゃないのか?
意識して意図的だったかは怪しいけれど、無意識に望んでいたことをぶちまけていた可能性は十分にある。現場、千影自身の罪悪感や名家の後継者として決して望んではいけなくて叶うはずもなかったことを、周りにも実家にも自分自身にも言い訳できる形で、これは仕方ないことだから仕方ないのだ、と受け入れさせることができるチャンスだったわけですから。
実際の使い魔生活は、実質同棲生活そのもの。お互い距離感を図りながらのそれは、はじめて一緒に暮らし始めてお互いうまくやれる範囲を探り合う、という点で同棲じゃん、としか言えないし、その中で魔力供給のためとはいえ、週一回映画を借りてきて手を握りながら一緒に一本見るのを決まりごとにしている、とか完全にお家デートじゃないですかー。
これでどうにかならない主人公は、それほど徹底した貧乳排外主義なのか。ただ、どうにも過去の呪いの影響で記憶への干渉があるのは確かとしても、それ以外にも何らかのリセットが度々掛けられている可能性はあるんだよなあ。もしくは、自分自身で千影という存在に対してセーブをかけているか。
でも想太、呪いによって記憶だけじゃなくて人格そのものに影響を受けている可能性もあるにしても、やっぱりクズの資質はあると思うんですよね。ソフィアに対してのあのラストの仕打ちは、なかなか出来るもんじゃあないですもんね。
でも、あれはソフィアが悪いしなあ。人の話を端から聞かず、要望も懇願も無視して好き勝手して自分のやってほしいことを無理やり押し付けてくる。嫌だ嫌だといってるのをあれだけスルーされて強要されたら、現実的には弁護士案件の範疇と言えなくもない。縁切りは、相手を慮っていてはキリがないもの。
でも、それを加味した上でもあれは恨まれるよなあ、酷いよなあ、鬼畜カレシよなあという切り捨て方ではありました。浮かれてたんだよ、浮かれきってたんだよソフィアさんは。あれを可哀相、と思ってしまうのは仕方ないよなあ。ソフィアさんといいスケバンといい、感情的に一杯一杯になった時のあの描き方は、テンパってる様子や頭のなか本当にぐちゃぐちゃになってる様子がダイレクトに伝わってきて、特にいいなと思うところでありました。
一連の出来事の引き金をひいたあの召喚事故の本当の黒幕は、結局わからないまま次回へ続くか。あからさまに怪しい人が一人いるけれど、さてそれが本命かそれとも釣り餌か。なにはともあれ、面白かった。