ヤメ判弁護士 喜多村勝徳の 企業法務のススメ

ヤメ判とは、判事=裁判官 をやめた弁護士のことを指します。 定年後、ヤメ判になる人は多いのですが、働き盛りのヤメ判必ずしも多くありません。 裁判官だったということで、裁判が有利になるかどうかはわかりませんが、裁判官だったらこう考えるだろうな、ということはかつての同僚だから良くわかります。 企業法務担当者に法務力をつけてもらうことを使命だと思っています。

証人尋問の技術に関する講演の映像DVD

「このたび株式会社レガシイから証人尋問の技術に関する講演の映像DVDを出しました。前回出版した「要件事実の作法」も、実は同じ会社から講演の音声CDを出し ています。併せてよろしくお願いします。
 
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要件事実の作法

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三冊目の本を出版します。
発売日は2月9日です。 

以前出版した「企業法務判例クイックサーチ300」と同じレクシスネクシス・ジャパンから出ます。
同書の姉妹編として、同書に掲載した判例を題材にして要件事実を論じています。

要件事実の決まり事を基礎から説明しています。
若手の弁護士や裁判官が想定読者ですが、学生や企業法務担当者にも是非読んでいただきたい本です。



出版のお知らせ

このたび勁草書房から「契約の法務」という本を出版しました。
名著「ダットサン民法」を出版している会社です。

実務家として興味を惹く点を中心に「契約」にまつわるあれこれを分かりやすく説明したつもりです。

若手法律実務家や学生諸君、それに法務担当社員の方々に読んで欲しい本です。

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契約書の文例・合弁契約(重要事項に関する事前の合意、資金調達、合弁会社との契約、解除)

8 重要事項に関する事前の合意

 合弁会社に関する以下の事項については、両当事者の事前の書面による合意がなければ行うことができない。
① 定款変更
② 資本金の減少
③ 合併、会社分割、株式移転・株式交換、事業の全部又は重要な一部の譲渡
④ 募集株式の発行、社債の発行
⑤ ◯◯◯円を超える金銭の借入又は第三者の債務の保証若しくは担保の提供
⑥ ◯◯◯円を超える金銭の貸付
⑦ 株式の引受
⑧  その他合弁会社の経営に重大な影響を与える事項

合弁会社は、当事者間の信頼関係が基盤にあります。それゆえ、重要事項については、当事者の合意を得たうえで行うことが適当です。 文例はそのための規定です。

このうち①から④は取締役会及び株主総会の決議で行わなければならない事項ですが、 文例では、それらの決議に加えて株主間の合意が必要だと定めています (事前の合意に基づいて議決権を行使しなければならないという趣旨で、これを「議決権拘束契約」ということがあります)。既に述べたとおり、このような定めをおいたとしても、書面による合意がないのに一方当事者が株主総会等の多数決で押し切ってこれらの事項を行った場合、他方当事者は、合弁契約違反を理由にそのような行為を差し止めることはできません。この場合、反対当事者は契約違反(債務不履行)を主張することができるのみです。

もっとも、この点については、合弁会社の決議を制限する当事者間の合意は、それに反することが単に合弁契約の債務不履行となるに留まらず、株主総会決議の取消原因になるとする考え方もあります。東京大学名誉教授の江頭憲治郎先生は、次のように述べておられます(「株式会社法(第5版)」335頁)。

議決権拘束契約の効力は当事者間の債権的なものにとどまり、対会社関係では効力を主張できないとの主張は、契約外の株主がいる場合には妥当しよう。しかし、株主全員が契約当事者である場合には、その論理を形式的にあてはめる必要はない(中略)。また、損害賠償請求は契約中に賠償額の予定(中略)の定めがない限り実効性が乏しく、とりわけ定款上の処理が難しい事項については、議決権拘束契約の効力を強く認める必要性が高い。

傾聴すべき見解ですが、これを支持する判例はまだないようです。

文例の⑤から⑧の事項は、会社法上はただちに株主総会の決議事項になるものではありませんが、これを定款によって株主総会の決議事項とすること(さらに、前回説明した文例5のように少数株主に拒否権を与えること)により、重要事項を一方当事者が勝手に進めることができなくなるという効果があります。

9 資金調達

 合弁会社が追加資金を必要とする場合、両当事者は、各自の出資比率に応じて、合弁会社に対し、金銭の貸付、募集株式の引受、第三者からの借入の保証を行う。ただし、事前の書面による合意に基づかなければならない。

合弁会社が資金を必要とする場合、各当事者に出資比率に応じた資金提供(保証)義務を課すための規定です。合弁会社に対する発言権と経済的負担を比例させるものであり、合理的なものといえます。

ただし、募集株式の発行は取締役会の決議事項ですが、資金の借入については、必ずしも取締役会の決議を経る必要はなく、代表取締役の一存でできる場合があります。そのような場合でも、反対当事者が貸付や保証を強制されることのないよう、書面による合意という制限を設けています。

10 合弁会社との契約
1 合弁会社は、Xとの間で別紙Bと同一の契約を締結し、Yとの間で別紙Cと同一の契約を締結する。
2 両当事者は、前項の契約が 適法有効に締結されるために必要な一切の行為をなすものとする。

合弁会社と当事者との間で契約を締結することがあります。例えば、製造業者と販売業者が合弁会社を設立したうえで、合弁会社が製造業者から特許とノウハウの実施許諾を受けて製造し、販売業者に製造した商品の販売を委託する場合などが考えられます。合弁会社を設立するのは、出資者である各当事者の事業の拡大が目的であって、当事者の事業とは全く関係のない会社であることの方が珍しいといえるでしょう。

文例では、その場合に締結されるべき契約内容についても具体的に定めることが予定されています。合弁会社を設立してから契約内容を詰めていたのでは、事業開始が遅れるうえ、契約交渉が頓挫すると、合弁会社を設立した意味がなくなるからです。

なお、合弁契約の時点ではまだ合弁会社は成立しておらず、合弁会社は契約当事者でないので、このように定めても、合弁会社にそのような契約を締結する義務を負わせることはできません。この場合、厳密に言えば、合弁会社が契約を締結するという表現は適当ではなく、正しくは「XとYは、合弁会社との間で別紙のとおりの契約が成立するよう取りはからう」とすべきでしょうが、文例のような表現をするのが普通です。

第2項でいう 「前項の契約が適法有効に締結されるために必要な一切の行為」 とは、それらの契約を締結するのに必要な取締役会決議や株主総会決議を得るために、自社の派遣した取締役あるいは株主総会に出席する代理人に対し、当該契約の承認決議に賛成するよう指示することをいいます。 合弁会社と契約を締結したとしても、定款で必要とされる機関決定を得ていない場合、契約は無効とされる可能性があるからです。

11 解除
 
1 いずれの当事者も、他の当事者に以下の事由が発生した場合、何ら催告を要することなく、本契約を解除することができる。
① 本契約の条項に違反し、相手方から相当な期間を定めた是正の催告を受けたにもかかわらず、当該期間内に是正されなかった場合。
② 破産、特別精算、民事再生、会社更生の申立があった場合。
③ 解散した場合。
④ 合併、事業の全部又は重要な一部の譲渡、株主構成の大幅な変更等による会社支配の変更があった場合。
2 いずれの当事者も、合弁会社の経営につき、両当事者間に意見の対立があり、協議によって解決することが不可能となった場合にも、本契約を解除することができる。
3 前二項によって本契約が解除された場合、解除した当事者は、相手方が保有する合弁会社の株式を買い取ることができ、当該当事者から買取請求があったときは、相手方はそれに応じるものとする。 この場合の買取価格は、合弁会社の直近の貸借対照表の純資産額を発行済み株式数で除した額とする。
4 前項による買取請求がない場合、両当事者は合弁会社を解散する。

合弁契約も契約である以上、当事者の債務不履行等によって解除されることは他の契約と異なるところはありません。文例の第1項は、いかなる契約においても見られる解除事由です。

第2項は、合弁契約に特有な解除事由といえます。合弁契約は当事者が協力して共同事業を遂行しようというものであり、当事者間の信頼関係が基礎にありますから、それがなくなれば解除して合弁事業を解消することを認めるべきだという考え方です。既に説明したデッドロックがこれに当たります。

合弁契約によって合弁会社が設立されているので、合弁契約を解除しただけで話しは終わりません。合弁契約を解除したのに、両方の当事者が引き続き合弁会社の株主で有り続けるということは考えられません。そこで、文例のように、解除した当事者が他方当事者の株式を買い取る(第3項)か、それができなければ合弁会社を解散する(第4項)ことを定める場合があります。

(合弁契約に関する説明は今回で終了します)

契約書の文例・合弁契約(株主総会、取締役及び取締役会、監査役)

5 株主総会

1 株主総会の決議は、両当事者が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成をもって決定される。
 
2 両当事者は、本契約の定めを履行することができるように、その議決権を行使しなければならない。

株主総会に関する事項については、はもちろん会社法に定めがあります(会社法295条~325条)が、定款に定めることによって会社法とは異なる取扱ができる場合があります(そのような定款規定を「相対的記載事項」と呼ぶことは既に述べたとおりです)。

文例の第1項は、株主総会の定足数と決議要件について会社法と異なる定めを置くための条項です。もちろん、合弁契約に添付された定款案にはそのように記載されているのでしょうが、契約条項としてもあらためて規定しています。

会社法上、株主総会の決議は、定款に別段の定めのない限り、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うとされています(会社法309条1項)。そこで、定款による別段の定めとして、定足数を株主全員の出席とし、決議要件を3分の2以上の賛成とするための条項です。

本件における合弁会社のように、株主がXとYの二名である場合、当事者の持株比率が3分の1に満たないということは通常ないでしょうから、株主総会の決議要件を3分の2とするということは、各当事者に拒否権を認めているのと同じです。合弁会社は当事者間の信頼関係が基礎となっており、全員一致が原則だから、拒否権は当然認められてしかるべきです。もちろん、株主総会で議案が否決されるような状況になれば、合弁事業自体が遂行不可能であり、合弁の解消(合弁会社の解散)ということにならざるを得ないと思われます。これを「デッドロック」と言いますが、この点については、文例6(取締役及び取締役会)のところで説明します。

文例の第2項は、株主総会の決議を合弁契約に沿って行使することを約束する条項です。当然のことではありますが、念のために規定しています。もちろん、株主総会における議決権行使は、株主総会で実際に投票する者(代表取締役又は議決権行使の委任を受けた代理人)ですから、その者が合弁契約に反して議決権を行使することを差し止めることはできませんし、そのような議決権行使が無効というわけでもありません。ただし、そのような議決権行使が合弁契約違反になり、解除・損害賠償の問題を発生させることも既に述べたとおりです。
 

6 取締役及び取締役会

1 合弁会社には◯名の取締役をおき、Xは◯名の取締役を、Yは◯名の取締役を、それぞれ指名することができる。
 
2 取締役会の決議は、取締役◯名以上が出席し、出席取締役の全員一致によって決定される。
 
3 代表取締役はXが指名する。
 
4 両当事者は、本契約の定めを履行することができるように、指名した取締役にその議決権を行使させなければならない。

合弁契約ですから、各当事者が合弁会社の取締役を派遣して経営に当たらせることになります。いずれの当事者が多くの取締役を出すかは、当事者間の交渉(力関係)によります。代表取締役をどちらが指名するかも同じあり、持株比率についても同じことが言えます。

定款には取締役の員数のみを定めるのが普通なので、それをどちらが何人指名するかは、文例のように合弁契約書に定めます。もちろん、実際に取締役を選任するのは株主総会であり、この契約があればそれで十分というわけにはゆきません。株主総会での取締役選任議案をこの契約に沿って作成し、それに賛成することを互いに約束し合うということに意味がある条項です(それに反する決議がなされれば債務不履行になるということです)。

会社法によれば、取締役会は、取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うとされています(会社法369条1項)。定款でそれと異なる定めを設けることはできますが、定足数・決議要件を強化することはできても、緩和することはできません(同項かっこ書き)。

文例第2項では、決議要件を全員一致に強化しています。これも信頼関係を基礎とする合弁会社に特有のものです。ここでも株主総会と同様に、各当事者に拒否権が与えられているのです。

株主総会や取締役会で決議が成立しない場合、合弁会社における重要な業務を遂行することができません。既に述べたとおり、本件合弁契約では、当事者の一方が反対すれば決議が成立しないように出来ています。これは、当事者間に合弁会社の経営について意見の対立があることから生じる状況であり、文例6で述べたとおり、これを「デッドロック」といいます。

合弁契約にデッドロックを解決する方法(まず協議を行い、それが不調となった場合は株式を買い取るか合弁会社を解散する等)を定める場合もありますが、本件合弁契約では、後で説明するように、デッドロックになった場合に協議しても解決できなければ、合弁契約を解除できるものとしています。その前提条件として、協議のやり方として、以下のような条項を置くことも考えられます。

 いずれの当事者も、合弁会社の経営につき、両当事者間に意見の対立がある場合、以下のような手続により、円満に解決するよう努めなければならない。
 
1 両当事者の代表取締役同士で協議すること
 
2 前項が不調となった場合は○○○○に斡旋を依頼すること


7 監査役

 合弁会社には1名の監査役をおき、Xがこれを指名することができる。

監査役についても、文例6と同趣旨の条項を置きます。

取締役会設置会社については、監査役の設置が義務付けられます(会社法327条2項)。ただし、公開会社でない場合、会計参与を置くことで監査役に代えることができます(同項ただし書き)。

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