ある会社の社長さんから次のような質問を受けました。

 

私は売上高1億もいかない中小企業の経営者なので、顧問弁護士の契約をするゆとりがありません。ゆとりがないというとちょっとウソになります。月5万円も払って、それに見合うんだろうかという疑問があって、知人からは「大丈夫?」と言われるけれど、なんとかなっています。税理士の先生に、記帳から税務申告まで全部やってもらって年間60万円位払っているのは、惜しくないのですが、こと、弁護士に関しては、これまで創業8年、一度も裁判沙汰になったことがありません。もし、創業以来、月額5万円を払ってきたと仮定すると、480万円です。顧問弁護士のメリットというのがピンとこないんです。顧問弁護士のメリットって何でしょうか。

まずはお金の話から。

 

顧問弁護士の顧問料が月額5万円というのは、廃止された弁護士会の報酬規程に書いてあった金額です。現在でも事業者の場合は月額5万円以上というのが相場なのでしょう。ただ、最近は弁護士業界でも価格破壊が進んでおり、顧問料数千円で結構という弁護士もいるようです。といっても、顧問料数千円の場合、相談料は別途申し受けるのでしょうから、顧問料5万円で個々の相談は無料とするのと、どちらが得かは一概には言えないと思います。要は、顧問弁護士の能力、識見に対する評価、依頼者の企業規模、依頼する業務の量と質、紛争が生じる蓋然性その他一切の事情を勘案し、顧問料とどうバランスさせるかということだと思います。いずれにせよ、顧問料を含めた顧問契約の内容は、弁護士と協議していかようにも決めることができます。

 

次に、顧問弁護士を持つメリットですが、次のようなものがあると思います。

 

創業以来裁判沙汰がなかったといっても、これからもないとは限りません。個人の権利意識の高まりやメディアの影響で、良くも悪しくも、世の中全体が裁判を厭わない風潮になっています。また、近年弁護士が急増していますが、それだけ事件が掘り起こされる可能性を秘めているということもできます。ちなみに、司法統計によると、地方裁判所における民事・行政事件に関する訴訟の新受件数は、平成12年は18万4246件、平成21年は25万9309件です。

 

会社を経営する以上、取引先、顧客、従業員、近隣住民、税務署などとの関係で紛争が生じる可能性は大いにあります。もちろん、訴えられる場合もあれば、訴える側に回ることもあり得るでしょう。会社経営者として、正当な権利主張をしないことは会社に対する任務違反ではないかと思います。いざというときに慌てないよう準備しておくことも必要ではないでしょうか。そんな時、顧問弁護士がいれば、日常的なつきあいを通じて、会社は弁護士の能力、識見を十分に把握しており、弁護士は会社のことをよく知っているので、安心して事件の解決を任せることができます。

 

これは何も会社としての事件に限らず、社長、役員、社員の個人的な問題についても相談を持ちかけることができるということも含まれます。企業法務とは無関係の事件(離婚、相続、刑事事件等)であっても、できる範囲で対応してくれますし、必要とあれば知り合いの弁護士を紹介してくれるはずです。

 

もちろん、顧問弁護士の役割は裁判に限られません。というより、裁判以外の仕事の方が多いといった方が適当です。会社にまつわる法律問題全般にわたって相談を受けてアドバイスをすることが中心ですが、取引先とのトラブル、社内の人事労務問題、顧客からのクレームなど、その対象は多岐にわたります。そのほかにも、契約書の作成、法律関係調査、書面による鑑定などについても、簡易なものは顧問料の範囲内で行うのが通常です。このような活動を通じて、顧問弁護士は、紛争を未然に予防し、裁判を避けるという役割を果たすことにもなります。

 

さらに、顧問弁護士に対する相談と回答を通じて、法務担当者の法律知識、法的センスを高めることができます。法務担当者といっても法律を専門に勉強した経験のない方が多いと思われますが、そのような場合でも、顧問弁護士とのやりとりを通じて、法律に照らして何が正しく、何が正しくないかという一応の判断基準を身につけることができます。オン・ザ・ジョブ・トレーニングです。それによって、社長、役員、営業社員などの独走にブレーキをかけることが期待されます。コンプライアンス(法令遵守)重視が叫ばれるなか、違法行為による会社のレピュテーション・リスクは高まっています。法務担当者と顧問弁護士が協力することで会社を守ることができるのです。

 

取引先と契約の交渉をする際、「顧問弁護士の意見を聞きたい」というと、相手もやたらなことは主張しにくいでしょう。未払金などを弁護士の名前で請求すると、裁判を起こされてはかなわないと考え、相手が真摯に対応してくる可能性もあります。こういうのもメリットといえるのではないでしょうか。

 

最後に、顧問弁護士がいるというのは一種のステータスになるのではないでしょうか。顧問弁護士を持つ余裕がないと考える経営者が多いということは、顧問弁護士を持っている会社はそれだけ余裕をもって経営をしているという印象を与えるものと思われます。


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弁護士 喜多村 勝徳

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