(前回の回答で書ききれなかったことをその2として書きますので質問を再掲載します)
 

最近、「自炊」といって、書籍を裁断してスキャナーで読み込むことが流行っています。これを代行する業者が作家さんたちに訴えられたと聞いているのですが、自炊代行は著作権法違反なんでしょうか。

では、裁断だけを代行することは著作権法違反にはならないんでしょうか。スキャナーを持っている人はいても裁断機を持っている人はいないと思うので、裁断ビジネスはあり得ると思うんですが、不正スキャンの幇助になりますかね。 

同じようなサービスで複製権が問題となった事案に「ロクラクⅡ」事件があります。これも平成23年1月の最高裁判決でした。

 

これは、「ロクラクⅡ」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダーを使って、放送番組を録画し、インターネットを通じて利用者に提供するというサービスが問題になった事案です。ここでも、「まねきTV」と同様に、サービス提供者の機器と利用者の機器が1対1で対応し、利用者の指示にしたがって録画され、自動的に利用者のもとにのみ送信されるというシステムになっていました。

 

これに対し、放送番組製作者が、複製権侵害を理由に差止と損害賠償を求めてサービス提供者を訴えたものです。

 

原審の知財高裁は、複製(録画)をしているのはあくまで利用者であり、サービス提供者は、利用者による複製(これは私的使用目的による複製ということになります)を容易にするための環境等を提供しているにすぎないとして、番組製作者の請求を棄却しました。

 

しかし、最高裁は、次のとおり判示して、複製権の行使主体はサービス提供者であるとしましました。

 

(中略)複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。

 

カラオケ法理は、著作権の行使主体を物理的、自然的な行為から判断するのではなく、社会的、経済的な観点から判断するという考え方です。この点に関しては、「ロクラクⅡ」事件の最高裁判決において、金築誠志裁判官が次のとおり補足意見を述べておられます。

 

「カラオケ法理」は、物理的、自然的には行為の主体といえない者について、規範的な観点から行為の主体性を認めるものであって、行為に対する管理、支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断するものとされているところ、同法理については、その法的根拠が明らかでなく、要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし、著作権法21条以下に規定された「複製」、「上演」、「展示」、「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては、もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが、単に物理的、自然的に観察するだけで足りるものではなく、社会的、経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって、このことは、著作物の利用が社会的、経済的側面を持つ行為であることからすれば、法的判断として当然のことであると思う。

 

このように「カラオケ法理」は、法概念の規範的解釈として、一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり、これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって、考慮されるべき要素も、行為類型によって変わり得るのであり、行為に対する管理、支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は、社会的、経済的な観点から行為の主体を検討する際に、多くの場合、重要な要素であるというにとどまる。この二要素は、社会的、経済的な観点から行為の主体を検討する際に、多くの場合、重要な要素であるというにとどまる。にもかかわらず、固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば、その点にこそ、「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのではないかと思う。

 

さて、長々と著作権行使の主体に関する判例の説明を続けましたが、ご質問の「自炊代行」に戻りましょう。以上のような判例の考え方を前提としたうえで、「自炊代行」の場合、複製権の行使主体は利用者と代行業者のいずれと解するのが相当かということです。

 

現在行われている「自炊代行」の場合、代行業者は、自社が所有するスキャナーを利用して複製をしますから、行為に対する管理・支配が代行業者にあることは明らかです。そして、代行業者はそれについて料金を徴収しており、行為による利益も代行業者に帰属します。これは、「カラオケ法理」の要件を満たしていると言えるでしょう。

 

金築判事の補足意見に従って、それ以外の要素を検討してみましょう。

 

まず、「自炊代行」において物理的に複製行為をしているのは代行業者です。カラオケ法理は、物理的な行為者の背後にあって行為を支配している者を著作権の行使主体とする考え方ですが、物理的行為者の著作権行使を否定するものではないはずです。

 

しかも、たとえ契約関係にあったとしても、独立当事者間の関係であり、社長と秘書のような指揮命令関係にあるわけではなく、代行業者は独自の判断で複製を行っています(代行業者は自炊の条件を利用者に示しています)。

 

そもそも「自炊代行」は、個人としてはとても手間ひまのかかる書籍の電子化を業者が引き受けて行うものであり、利用価値が高く、需要が見込まれるとして、参入が相次いでいる分野です。これはもはやビジネスの一形態であり、私的使用目的の複製が重なって行われているに過ぎないと見るのは実態に合わないでしょう。

 

代行業者は、スキャナーの利用料金を徴収しているだけで、書籍の複製に対する料金を取っているわけではないという議論があるかも知れません。代行業者が行っているのは、私的複製の環境、条件の整備にとどまり、料金もそれに対するものに過ぎないという理屈です。しかし、自炊は書籍なくしては成り立たないのですから、やはり、書籍の複製に対する対価と見ることができると思います。

 

以上のとおりで、「自炊代行」において複製権を行使しているのは、利用者ではなく代行業者だと認めるのが相当と思われます。だとすると、それは私的使用目的の複製ではありませんから、著作権者の許諾のない限り複製権の侵害となります。

 

ご質問にあるとおり「自炊代行」について裁判が提起されたようですので、その結論が待たれますが、当面「自炊代行」を商売にするのはリスクが高いと思います。

 

最後に、裁断だけを代行する場合はどうかという質問ですが、もともと書籍を裁断するかどうかは所有者の自由であり、著作権者の許諾は要りません。したがって、裁断代行は著作権法違反にはならないと考えます。

 

書籍は著作権を具体化する入れ物に過ぎません。書籍を購入しても、書籍の所有権を取得するだけで、著作権まで取得したことにはなりませんし、書籍を廃棄したからといって著作権が消滅することはありません。書籍の所有者は、所有権の行使として、書籍を自由に裁断することができます。

 

しかし、裁断したものをスキャンするに当たっては、既に述べた私的使用(個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において著作物を使用すること)の目的でなければなりません。

 

したがって、裁断代行自体は著作権法違反にはなりませんが、利用者が私的使用を超えて複製しようとしていることを知って行えば、著作権法違反の幇助となるおそれがあります。裁断を請け負うに当たっては、念のため、裁断したものを私的使用の目的を超えて複製しないことを利用者に誓約をさせるなどの配慮が必要だと思います。

 

最後に結論だけを繰り返しておきましょう。

 

「自炊代行」において、複製をしているのは、利用者ではなく代行業者と考えるべきですから、これは著作権法第30条第1項の私的使用目的の複製とは言えません。したがって、著作権者の許諾なく「自炊代行」をするのは著作権法違反となります。

 

裁断のみを代行することは著作権法違反にはなりません。

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弁護士 喜多村 勝徳

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