澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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 1ヶ月健診のとき、フィリピンや南米の赤ちゃんは、ミトンをしている子が多いようです。手の触感をジャマするから、ミトンはしないほうがいいよと話してきましたが、何か理由がありそうだと気付きました。パパが日本人でママがフィリピン人のご夫婦が健診に来られた時、聞いて見ました。その答えは、最初に爪を切るときまで、爪を伸ばしっぱなしにしておくのだという答えでした。爪の保護のためのミトンだったのですね。

 フィリピンでは、最初に摘んだ爪と、最初にカットした産毛を、小さな袋に入れて遺しておくのだそうです。フィリッピン全土そうするわけではなく、しない人もあり、部族、地方によっても違うようですが。

 疑問が解けたので、それ以来、ミトンは止めなさいとは言わないことにしました。

 日本にも、臍の緒を残しておく風習があります。臍の緒だけでなく、生後1週間くらいで頭の産毛を剃る習慣があり、剃った産毛も臍の緒と一緒に残す地方がありました。臍の緒は、生きるか死ぬかの大病をした時、煎じて飲むと生き延びられるという言い伝えはかなり広い範囲の地域にあるようです。
無事生まれた赤ちゃんの臍の緒は、産神の力が残っていると考えられたのでしょう。

 私の臍の緒もまだ無くさずにしまってあります。
 先日、取り出してみました。3×8cm位の桐の箱に、和紙で包まれて入っています。箱の表には、「御臍の緒」と書いてあり、箱の裏側には、私の生年月日(昭和6年12月24日)、出生時間(午後5時だったようです)、父と母の名前と年齢、出生場所(自宅の住所です)、産婆さんの住所姓名が書かれています。
 私の名前と生年月日、両親の名前と年齢は、父の楷書の字できちんと書かれています。四角張った楷書は、見たことが無いほど丁寧にきちんと毛筆でしるされています。
 和紙に包まれた臍の緒は、赤黒く干からびて、一回り半の細長い輪になっていますが、伸ばせば10cmくらいの長さです。
 産毛は入っていません。昭和6年頃の三重県では、臍の緒だけを残す習慣だったのでしょう。

 父の楷書を見て、言いようの無い感動が湧きました。私は兄弟が多く、八番目のこども、七男ですが、父の字はとても丁寧に書かれていて、その文字から父の愛情を強く感じました。
 ミルクを飲ませたり、オムツ替えしたりするはずが無い父ですが、子にとっての父は、その父が育メンでなくても、ちょっとしたことでも強く感じるものなんですね。

 そういえば、12月24日生まれの私ですから、母は産褥、父と長兄が正月のお節作りをしたのだと兄に聞かされたことがあります。母は産後の疲れで眠っていることが多く、母に砂糖はどれくらい、味付けは塩かタマリ醤油かと聞いても、母は夢うつつで、シオシオオタマリと言うだけだったそうです。その年のお節はどんな味だったのでしょうか。この話、今思い出しても目が熱くなります。

 母子健康手帳の前半の方に、「乳幼児期の成長と育児のポイント」というページがあります。3-4ヶ月児については「表情も豊かになりにっこり声を立てて笑うことも、音のするほうを向いたり、物を目で追ったり、動きが増えてきます。」とかかれています。主な成長の目安は「首のすわり」でしょうか。

 アカネちゃんの成長記録を基に、もう少しきめ細かく見てみましょう。
 
 赤ちゃんは2ヶ月頃から人の顔を見てニコニコ笑うようになりますが、咽喉の構造が未発達なので、声を出して笑うことはできません。はっきりと、嬉しい、楽しい、面白いなど、感情表現として笑い声を立てるようになるのは、3ヶ月半ば頃からです。

 おもちゃに手を伸ばして、自分で握るようにもなります。おもちゃに興味を持つほどに大脳が発達した証です。

 足のキックが強くなったのは、大脳皮質→小脳→脊髄の順に下降してきた脳脊髄の神経支配下に、赤ちゃんの下肢が入ったからです。4ヶ月に入ったアカネちゃんが、両足を挙げてドーンと下ろすことを繰り返しているのは、早速、下肢を使って、寝返り・お座りに繋がるからだの動きのトレーニングをしているのです。

 22時に寝て3-5時まで続けて眠るようになったのは、一日の生活の中で昼と夜が分かれ始めたことを示しています。地球上のすべての動植物は、皆、生きていくために夜と昼が必要です。ヒトの場合も、昼と夜では、大脳も、脳幹部に中枢を持つ自律神経も働き方が異なります。ホルモンの分泌、神経刺激物質の種類が夜と昼では違います。眠っている間に記憶が固定されるとか、成長ホルモンは夜間睡眠中に多く分泌されるとか、聞かれたことがあるでしょう? 3-4か月の赤ちゃんは、昼夜の区別がつき始める大切な時期を迎えています。単に「夜まとめて寝てくれるようになって楽になったなあ」というママの気持以上に大きな意味があるんです。

 3-4か月には、咽喉の構造が変わってきます。咽喉が頚椎1個分くらい長くなります。生後1-2ヶ月は、顎の下はすぐ胸だったのが、3ヶ月過ぎると首が姿を見せ始めます。オッパイを誤飲しないように気道の入り口すれすれまで伸びていたノドチンコが短くなります。この変化は、強弱高低いろんな種類の声を出すことができるようになることを示していますし、もうひとつ、オッパイ以外の半固形、固形の食物を食道に送りこめるようになってきた証でもあります。

 この変化によって、声の種類が増えます。生まれてまもなくはドレミのラの音しかでなかった泣き声が、いろんな声、いろんな泣きで、おなかが空いた、眠い、気持が悪いなどの感情、感覚を表現できるようになります。
泣き方や発声でママと対話しているんです。アカネちゃんのいろいろな声の記録を読み返してみてくださいね。

 もうひとつ、食物を飲み込むための咽喉の変化に加えて、舌の動きも、押し出す働きから、食物を咽喉の奥に送り込む動きに変わってきます。オッパイだけを飲んでいる時期には、赤ちゃんの舌の動きはママの乳首を強く押す動作が主です。アカネちゃんも、3ヶ月半ばでは口に入れたご飯粒を舌で押し出していますが、数週間後にはもぐもぐして飲み込んでますね。舌が圧す働きをしている時期に離乳食を食べさせようとしても、舌でベーッと押し出してきます。押し出さなくなったら、離乳食を食べる準備完了です。

 4ヶ月後半のアカネちゃんは、朝から晩まで「ブルル、ブルル」と唇を使って声を出す遊びにひとしきり凝っています。いろんな声を出す練習のひとつです。寝返りをしようと何度もトライしていたアカネちゃんが突然寝返りに挑戦することをやめてしまいます。そのかわり、仰向けで首を持ち上げたり、ブリッジをしています。そしてある日、突然寝返りに成功します。
 
 赤ちゃんは、滑らかに順序を追って発達するのではなく、細かい動作をばらばらに練習して、ある日練習成果を総合して寝返りに成功するんです。この過程を知って、私はとても感動しました。横断的調査では分からないことを、時間を追って縦断的にアカネちゃんに教えてもらって、小児科医になって60年目にやっと、赤ちゃんの発達の実像を知ることができたんですから。

 アカネちゃんは4ヶ月健診で軽い股関節脱臼があると健診医に言われ、整形外科を受診して異常無しでした。
 4ヶ月健診は、赤ちゃんの股関節の異常の有無をチェックする上で、とても大切な節目です。4ヶ月健診で股関節脱臼が疑われれば、それ以前と違い確実な診断をつける必要があります。もし股関節の異常が見つかれば、それ以前のように抱き方に気をつけるだけでは済まず、強制装具を使ったり、場合によっては手術が必要になることもあります。股関節脱臼だけでなく、4ヶ月はいろいろな点で、大きな節目です。
4ヶ月健診は必ず受診してくださいね。




 赤ちゃんの成長を評価する調査方法は2種類あります。
 前回のブログで取り上げた、母子健康手帳の乳幼児発育曲線のように、赤ちゃんの月齢1か月ごとに男女500大変な人づつ、12カ月で12,000人の赤ちゃんを全国から無作為に選び出し、各月齢別、男女別に身体計測値を統計処理し、平均値、標準偏差値を求めてグラフ化する調査方法は、横断的調査といいます。短期間に一気に数字が得られ、結果が出ますから、ほとんどの統計調査は横断的調査です。
 それに対して、ひとりの赤ちゃんの成長を時間を追って観察する方法は、縦断的調査といわれます。縦断的調査は、長い時間が必要で、情報を得るには、赤ちゃんの場合、いつも赤ちゃんの傍で赤ちゃんの成長を見ているママに情報提供をお願いせねばなりません。縦断的調査ができれば、赤ちゃんの横断的調査と違い、個人差、環境の影響を含めて、赤ちゃんの実態に即した成果が得られるのですが、実施が困難です。

 これから、このブログでは、3か月以後の赤ちゃんの成長について、縦断的調査に協力をお願いした一組の母と子の、ママによる赤ちゃんの成長観察記録を基に、満1歳のお誕生日までの成長を追っていきます。
無味乾燥な横断的調査の数字、グラフと違った、血の通ったレポートをお読みください。

 協力していただいた赤ちゃんはアカネちゃん、平成27年8月生まれ、母乳育ち。ママは20歳代後半、アカネちゃんは初産です。アカネちゃんは、在胎38週6日で生まれ、出生時身長47.5cm、体重3118gでした。
 観察と記録はママにとって大きな負担だったことと思います。アカネちゃんレポートを始めるにあたって、心から、ありがとうと申し上げます。

 早速、始めることにします。」

 3か月半ば:面白いことがあると、「ウゲー」と声を出して笑う。
 おもちゃを、ママが握らせなくても、
 自分で手を伸ばしてつかむようになった。
 足のキックが強くなった。
 22時に寝て、3-5時まで眠る。

 4カ月:床の座布団の高低差を利用して、偶然に、寝返りができた。もう少しで、平らな床でも寝返りができそう。
 ご飯粒をつぶして口に入れてみたら、舌で押し出してきた。
 仰向けに寝た状態で、両足を挙げて、かなり激しく、ドーンと下す。寝返りを試みて、できないとくやしそうな顔をする。泣き顔、得意げな顔、表情が豊かになった。

 4カ月半ば:「ブーブー」と言う。キャーと奇声。
 ご飯粒をつぶして口に入れたら、いつの間にか口から無くなって、ヨダレがたくさん。
 眠い時は目をこする。あくびをする。高めの声で「ンー」とぐずる。体や頭が熱くなる。
 うれしい時は、ニコニコ顔で声を出している。抱っこしていないときは、体を支えていると、ピョンピョンして飛び跳ねる。
 おむつがぬれた時は、低い声で「ンー」と言って、足を挙げる。泣く。
 お腹がすくと、「ンーン」と言いながら、体をのけぞらせる。オッパイを飲むときの口付きをし、舌を出して「クチュクチュ」する。しっかり飲む時間は5-10分、遊び飲みはする時としない時とある。寝る前は、寝付くまで遊び飲みしている。5-10分くらい。
 授乳回数は1日8回くらい。入浴直後にオッパイ、1時間後くらいにもう一度続けて欲しがる。
 睡眠時間は、5-6時間続けて眠る。
 4カ月健診は近所の小児科で受けた。軽い股関節脱臼があると言われたが、整形外科を受診し、レントゲン写真を撮り、異常なしと言われた。

 4カ月後半:朝から晩まで「ブルル、ブルル」と唇を使って声を出している。おもちゃをしっかり持って振り回し、おもちゃがすっぽ抜けて飛んでしまうほど。
 寝返り練習をパッタリ止めてしまった。仰向けで頭をグーッと上げてくる。腹筋運動のように。
 声は、アー、ウー、ウンガー、キャーなど。

 5カ月になる前日に寝返りができた。

 アカネちゃんの動作などの意味については、次回のブログで。

 赤ちゃんの成長を理解するには、母子健康手帳の巻末の方にある、乳幼児身体発育曲線のグラフが役に立ちます。母子健康手帳ならどの赤ちゃんにも交付されて、ママの手元にあって、いつでも見ることができるでしょう。

 このグラフは、厚生労働省が10年ごとに実施する「乳幼児発育調査」の結果をグラフ化したものです。現在交付されている母子健康手帳には平成22年度に実施された「乳幼児発育調査」の数字が使われています。
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第1図
 
 この表(第1図)は、女の子の0~12カ月のグラフです。ピンクに色付けされた帯状のグラフがありますね。赤ちゃんの体重・身長をこのグラフの中に点で書き込むと、その赤ちゃんの体重や身長が、100人の赤ちゃんの何番目くらいにあたるかが、おおよそわかります。帯の中には、大きい方から4番目から94番目までが入ります。帯から外れていても気にすることはありません。

 体重に関してこのグラフでわかることは、出生後3か月間に3kg程度体重が増え、次の4か月間に2kg、次の5カ月間に1kg増加することです。最初の3か月間は空腹・満腹を感じることができず、くたびれるまでおっぱいを飲んで体重を増やす期間、次の4カ月は赤ちゃんが自分で飲む量を加減する、残りのお誕生日までの5カ月間は離乳食とおっぱい併用期間で体重増加が緩やかになる期間で3kgで生まれた赤ちゃんはお誕生日ころ9kgになると考えればいいでしょう。

 このグラフには、下の方に首すわり・寝返り・一人すわり・はいはい・つかまり立ちができるようになる時期が横棒で書かれています。横棒の左端が約半数の子ができるようになる時期、右端が9割の子ができるようになる時期の目安を表しています。(第2図)
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第2図
 
 第1図に戻って、身長の増加は、体重に合わせて表現すると、最初の3か月間に10cm、次の4カ月に7cm強、お誕生までの5か月間に8cm増加して、出生時身長50cmの赤ちゃんが誕生日に75cmになります。
どの数字も増加の勾配も,個人差がありますから、帯の勾配に赤ちゃんの成長が合うように育てようとは考えないでください。帯の真ん中を努力目標にしないでくださいね。運動機能の発達も同様に、遅い早いに一喜一憂する必要はありません。赤ちゃんは、ひとりひとり、成長・発達のパターンは違いますから。

 もう一つ大切なのは、頭囲の増加です。頭囲は、脳の発達に合わせて増加するものですから、知恵付きの様子を間接的に知ることができます。
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第3図
 
 第3図には1歳までの乳児期の頭囲の増加曲線が上の帯に、1歳から6歳までの幼児期の頭囲の増加は下の帯グラフに表示されています。
 
 乳児期前半に急速に頭囲が増加しているのがわかります。目には見えなくても、赤ちゃんの脳では、神経細胞(ニューロン)と神経細胞が神経細胞をつなぐ線(シナップス)で縦横に連絡網を作っている状態が頭囲の増加でわかります。3歳以後頭囲の増加曲線の勾配が緩やかになって6歳になるとほぼ大人のサイズに近くなります。6歳以後も頭囲はゆっくり増加しますが、10歳になれば大人の帽子がかぶれるようになります。パパ・ママとお子さんが帽子を共有できるというわけです。

 今回載せたグラフの外にも、太り具合を示すグラフや頭囲の成長が止まった後も伸び続ける身長、それに伴う体重の増加曲線が母子手帳には載っていますからご利用ください。
数字の羅列より、グラフの方がわかりやすいと思い、グラフから読み取れる情報を解説してみました。

 2か月に入った赤ちゃんは、ウンチの回数が激減します。空気まじりの母乳を飲んでいた赤ちゃんは、おなかに充満した空気をオナラとして追い出す必要があり、そのために「胃直腸反射」という原始反射が赤ちゃんには備わっていて、おっぱいを飲むと反射的にウンチとオナラをします。
 
 しかし1カ月過ぎると胃腸の働きや消化酵素の分泌が多くなり、ウンチの回数が減って、その代わり、1か月時代の頻繁なウンチの回数を1回にまとめて大量に排泄することができるようになります。赤ちゃんによってウンチの回数はまちまちですが、2か月の終わりころには、1日1回どころか、3日に1回とか5日に1回の排便回数になることが少なくありません。ただし、母乳を飲む赤ちゃんのウンチは、コロコロの出にくいウンチになることはありません。よく消化された白い粒粒の混じらないウンチになっているでしょう。

 私が小児科医になったころの育児書には、母乳不足のサインとしてウンチの回数が減ると書かれていました。ひいおばあちゃんの中には、ウンチの回数が減ること即母乳が足らない、だからミルクを足さないといけないと考える方があるかもしれません。そうではありません。

 生後数週から出てきている乳児湿疹(新生児にきび)は2か月の半ばには消えます。アトピー性皮膚炎の傾向があるご家族の場合は、乳児湿疹に入れ替わって、アトピー性皮膚炎ができてくるかもしれません。

 母乳黄疸は2か月頃には消えるでしょう。黄疸の消え方は、まず白目の黄色みがとれて、手のひら、足の裏から、体の端っこから中心にかけて黄疸は消えていきます。

 目に見えない変化も大きいと思います。モロー反射は残っていますが、体の動きが増え、首を回せるようになります。泣き方にも変化が見られ、激しい泣きが減り、授乳後も起きている時間が増え、静かに眠る時間も長くなってきます。しかし、2か月では、うつぶせで首を挙げることは難しいようです。人の顔を見て笑いかけるのも2か月頃、でもまだ声をあげて笑うことはありません。
 
 前回にも書きましたが、3か月になると、赤ちゃんは空腹感、満腹感を自分の脳で感じるようになります。おなかがすくと、口の動きやママの胸に顔をすり寄せてくる動作でなどで、おっぱい飲みたいサインをママに送るようになります。授乳回数は1-2か月より減り、飲む時間も短く、遊び飲みして、いつか眠ってしまっているように変わります。

 ママのおっぱいの張りもほとんど感じなくなる方が多いようです。おっぱい足りているのかなと、ふと、ママが不安を感じられる時期かもしれませんが、心配いりません。その証拠に、体重の増え方はそれ以前より少し少なくなりますが、確実に増えているはず。

 脂肪が多い肉類やスイーツは食べてもいいのかなとメールしていただいたママもありました。気にせず、好きなものを食べて、楽しい育児をしてください。

 私が小児科医として勤務している産科ヤナセクリニックでは、月1回、いちごママクラスという集まりを開いています。

 生後2-3ヶ月の赤ちゃんとママに来ていただいて、ママ同士のお話やら、スタッフが企画した写真撮影やらをして、育児に奮闘中のママに楽しいひと時を過ごしていただく集まりです。私も出席して、2-3ヶ月以後の赤ちゃんの成長や育児上の注意などをお話しています。

 いちごママクラスの雰囲気は、1ヵ月健診でのママの緊張が無くなって、とても和やかです。私のこころも暖かくなります。

 小児科医を長年続けてきた私ですが、病気でない健康な2-3ヶ月の赤ちゃんを観察する機会はほとんど無かったと思います。いちごママクラスで見る赤ちゃんは、病児のお相手をしてきた小児科医には、驚きと発見の連続です。2-3ヶ月で赤ちゃんがこんなに成長するのかと感心してしまいます。

 2ヶ月の赤ちゃんは、かなり体の動きが増えています。泣く回数が減り、激しい泣き方が治まってきています。授乳後に泣かずに起きている時間、、静かに眠る時間が長くなっています。首を回すこと、肩や腕を動かすことが活発になっています。しかし未だ、うつ伏せで首を挙げることはできません。ママの顔を見て笑いかけますが、声を出して笑うことはありません。

 3ヶ月の赤ちゃんは、だれかれの見極めなく、私の顔を見ても、笑ってくれます。笑い声も出始めます。うつぶせにすると、まだ鼻の頭がマットから離れませんが、懸命に首を挙げようとします。寝返り準備らしく、体をねじり横を向くことはしますが、腕が抜けません。

 授乳の回数が減ってきて、3ヶ月過ぎには、口の動きや表情でオッパイを催促するようになってきます。哺乳時間は短くなって、5-6分しっかり飲んで、遊び飲みをして、そのまましばらく起きていたり、眠ったりしています。

  3カ月頃には、赤ちゃんは空腹、満腹を自覚するようになります。おっぱいが欲しい時の赤ちゃんからママへのサインも、ママに聞くことにしています。赤ちゃんの頬をママの胸元にすり寄せてくるとか、唇をちゅっちゅ吸って見せるとか、赤ちゃんによっていろいろですが、ママにはそのサインがちゃんと通じるようです。赤ちゃんをいつも見ているママには、赤ちゃんの変化がよくわかるのでしょうし、赤ちゃんもちゃんと意思表示をするのですね。それまで意味もなく泣いていた赤ちゃんが、わずか2カ月くらいで、自分でママに意志を伝えるようになるってすごいことだと思いませんか。人間として絶対必要な社会性の芽生えは、こんなに早く始まるのですね。

 1ヶ月健診前の赤ちゃんは、それほど目だった成長が無いようですが、大脳の発達は急速に進んでいます。
例として、視聴覚の発達を考えてみましょう。

 生まれてすぐの赤ちゃんの眼球はほぼ完成しています。光や色や物の形はちゃんと網膜に投影されています。レンズの焦点はまだ調節ができず、ほぼ40cm弱、ママに抱かれた時ママと赤ちゃんの眼のきょりとほぼ同じです。 だから生まれてすぐの赤ちゃんは、ママに抱かれると、ママの眼をじっと見つめます。光は感じますから、明るい光源をジッと見る事もできます。
 しかし、眼球と大脳の視覚中枢の神経細胞との間はまだ繋がっていませんし、視覚神経の神経線維の髄鞘化(配電工事で言えば、被覆電線で電気の通る道を繋ぐこと)もできていません。左右の眼球は共同して動くことは無く、ばらばらに勝手なほうを見ていますから、寄り目になったり、どこを見ているのか分からないぼんやりした目の表情を見せたりしています。

 1ヶ月過ぎると、左右の眼が共同してひとつのものを見、形や色を脳の視覚中枢で感じるようになり、遠近のものを区別できるようになります。具体的にいうと、1ヵ月過ぎると寄り目はなくなります。授乳中にジッとママの顔を見つめるようになります。
 
 2ヶ月過ぎると、眼球のレンズ焦点距離の幅が広がり、見える範囲が遠近左右とも広がってきます。2ヶ月頃の赤ちゃんは、目の前にいる人の顔を認識するようになり、人の顔を見るとなぜかむやみに笑いかけるようになります。何故、人の顔を見ると泣かずに笑うのか、理由は分かりません。いろいろ調べてみましたが、答えは見つかりませんでした。しかし、4ヶ月になると見慣れた顔と見慣れない顔の区別ができるようになり、見慣れない人の顔を見ると、笑わずに表情がこわばる様になります。人見知りの始まりと考えられます。

 耳も胎内で音を感知できるのですが、胎内でママの腹壁を越えて赤ちゃんに届く音は、出生後胎外で赤ちゃんの耳に届く音のように多彩ではありません。音やリズムを感じることも、出生直後から始まると考えていいでしょう。胎内でママの心音を聴いているから心臓のリズムを聴かせると赤ちゃんが静まるとか、胎内の赤ちゃんは、おママのおなかの外で聴かせた音楽を出生後も覚えているようだとかいわれていますが、どちらも疑問です。記憶力が未発達で、胎児・新生児の記憶は数分単位で消えるともいわれていますしね。

 しかし出生後は急速に大脳の神経細胞が活性化されますから、授乳の度にママの顔や目を見て、ママの声を聞いて、ママの匂いや抱かれる感じを繰り返し経験しながら赤ちゃんは成長し続け、生後2ヶ月になるとママの顔を見て笑うようになります。出生後数週間の無意識なエンジェルスマイルとは違います。エンジェルスマイルは赤ちゃんは何も考えずに自然にママの心に灯を点すのですが、2ヶ月児の笑いは母と子が分かち合う笑いといってよいでしょう。
 

 1ケ月健診までのママは、特に初めての赤ちゃんの場合、心配しなくていい事まで心配の種になり、頻繁な授乳、赤ちゃんのケア、それに伴う心身のストレスで、気持の休まる時の無い1ケ月でしょう。その負担を少しでも少なくしていただこうと考えて、前回までのブログに最初の1ヶ月間の事を述べてきました。

 今回からは、1ヶ月健診以後初誕生までの赤ちゃんの成長を追ってみたいと思います。

 ヤナセクリニックには、赤ちゃんが2-3ヶ月になられた頃のママと赤ちゃんに集まっていただく「いちごママ・クラス」という企画があります。その時、私も最初の数十分間、赤ちゃんの成長についてお話しをします。
 
 「いちごママ」の雰囲気は、1か月健診の時のママの表情から緊張感が無くなって、和やかな楽しい集まりです。ママも自信ありげ、赤ちゃんも笑ったり、眠ったり、オッパイを飲んだり、直接育児をしているわけではない私にも、ひたすら可愛いく見えます。
 1ヶ月健診の時、ママに「最初の1ヶ月はたいへんだけど、2か月に入ると、だんだん育児が楽になって、楽しいことが出てくるよ」とお話しするのですが、「いちごママ」の時間は、私のお話しが当たりーだと思えます。ママの実感はどうなのでしょうか。

これから、このブログで、月齢を追って赤ちゃんの成長を述べたいと思います。

 まず、赤ちゃんの体のサイズの変化から。

 出生時に身長50cm、体重3kgの標準サイズの赤ちゃんは、満1ヶ月で身長53cm、体重4kg、満2か月で身長57cm、体重5kgくらいに増えます。しかし、授乳のルールやら、人工栄養の補足やら、生活環境やら、赤ちゃんの固有の成長プログラム以外の条件の差で成長は変わりますし、赤ちゃんひとりひとりの個性、個体差がありますから、身長・体重の数字にこだわる必要はありません。また、標準とされている数字を”決して”努力目標にしないでくださいね。うちの子はこれでいいんだと考えてください。

 頭囲は出生時の34cmから、毎月ほぼ2cmくらいづつ増えます。脳の発達並行して頭囲は大きくなり、イギリス風に表現すると、10歳でパパの帽子が被れるようになります。

 大脳の重量は、出生時平均400g、6か月で2倍の800g、3歳で3倍の1000g以上と、子どもの体のどの部分より速く成長します。

 大脳の神経細胞数は出生時ほぼ140億個になっていて、この神経細胞数は生涯を通じて減ることはあっても増えることはないと言われています。海馬という部分の神経細胞数は出生後も増えるということですが例外的です。

 出生後の脳重量の増加は、神経細胞がコードで互いにつながり合って働くように配線工事が進むため、神経同士をつなぐ神経線維の重量が増えるのです。生まれてすぐ意味もなく泣いていた赤ちゃんが、2か月になればママに笑いかけるようになり、4か月になれば泣き声の違いで、してほしいことを表現できるようになり、夜は眠り昼は起きている時間が多くなるなどの成長ののもとは、脳の神経細胞の配線工事の進行に並行しているのです。







 このタイトルは、7月13日のyahooニュースに載った記事のタイトルです。
 
 ニュージーランドとカナダの研究グループによる、乳幼児期の指しゃぶり、爪かみ習慣と、成長後のアトピーの頻度を調べた研究の紹介です。
 
 アトピー性皮膚炎の増加は石鹸の使用量に正比例すると言われていますが、その逆に、現在では不潔と顔をしかめられそうな、指しゃぶりや爪かみをする子には、アトピー性疾患が少ないという結論です。
 石鹸で皮膚の防御機構を洗い流すと、アトピーの原因になる抗原が皮膚から入りやすくなるというわけです。

 日本でも国立成育医療センターのグループが、新生児に保湿クリームを塗り続けることで皮膚の防御層を守り、アトピー性皮膚炎を防げるという論文を発表しています。保湿クリームそのものが効果があるのではなく、洗いすぎた皮膚を保湿クリームで覆えば、抗原の侵入を減らすことができるという保湿クリームの間接効果の証明です。だから、石鹸で皮膚を洗いすぎなければ、保湿クリームに頼らなくても、自前の皮膚防御物質が抗原の侵入を防いでくれます。

 もう一つは、腸内細菌叢や寄生虫がアレルギー抗体の攻撃目標になっているとアトピーが現れにくいのに、抗生物質の使い過ぎで腸内細菌叢を壊したり、寄生虫駆除を徹底させると、腸内細菌や寄生虫という標的を失ったアレルギー抗体が、かつてはアレルギーの原因にならなかった物質を標的とし、アレルギーを発症しやすくするという研究もあります。

 また、親子のキスは、現代では、歯周病菌を親から子へ移植することになるので避けるべきだと言われるようになりましたが、スウェーデンの調査では、子どもが落としたおしゃぶりを母親が舐めてから子どもに渡すと、腸内細菌叢の多様性が上がるという結果が出ているそうです。

 すっかり清潔志向になった現代社会ですが、清潔・不潔の功罪を改めて考えなければならないようです。

 ヒトの細胞数は60兆個(36兆個という数字もありますが)ですが、ヒトに寄生する細菌数は100兆個、2kgにもなるそうです。腸内だけでなく、鼻咽喉、耳、皮膚、口腔、生殖器にそれぞれ細菌が住み着いています。そして、ヒトに寄生する細菌は、ヒトの生命活動を助けていることがわかってきました。ヒトの生体プラス細菌叢が一つの生態系を作っていて、それをマイクロバイオームと名づけて研究が進められています。

 腸内細菌叢の細菌の種類は、ひとりひとり違っているし、消化しにくい根菜類を多く摂取する民族、乳製品や牧畜動物の肉を食べる民族とで、腸内細菌叢は異なります。腸内細菌は、ヒトの消化管内では消化しきれない食物をヒトが吸収できる形に変えて、細菌も生存し、寄生しているヒトも養ってくれているというわけです。欧米人では、海藻は消化されずに腸を通過するだけの食品とされていますが、日本人で、海岸に住む人たちは、海藻を消化する腸内細菌を持っていて海藻を栄養に変えているのだそうです。

 前回ブログ、遺伝子と文明シリーズで、助産師冨田江里子さんがモルディブで栄養失調になられた話を紹介しましたが、ひょっとすると、日本からモルディブに出張された冨田さんと、現地の人たちとの腸内細菌叢が違っていて、日本人には栄養に変えられない食物を現地の人の腸内細菌が栄養に変えてくれていた、その差が冨田さん栄養失調の背景にあるのかもしれないと考えます。私だけの仮説ですが、案外、正解かもしれません。

 清潔はいいことだと決めてかかって、せっせと石鹸で洗い、皮膚防御物質を除き過ぎることを反省すべきだとも考えますし、何でもかんでも感染症は抗生物質で治療して、せっかくの腸内細菌叢を混乱させることにも一考すべき必要があるように思います。清潔志向は文明社会の象徴ですが、そのために失われたヒトが本来持っている能力を損なっていることに気付かないと、人類の未来が危ぶまれます。

 文明の影響を取り去って、ホモ・サピエンスの遺伝子の設計図に従って誕生し成長した「個人」の能力を考えてみましょう。

 裸の個人の身体能力はとても優れています。
 走るスピード、跳躍力はサバンナにすむ肉食獣、肉食獣に狙われやすい草食動物の方が人類より優れています。しかし人類は長距離走ができます。
 また、人類は手が使えますから、投げる、棍棒を振り回す能力は人類が優れています。
 視覚・嗅覚・聴覚は動物の方が優れているでしょう。 でも、人類は大きな脳を持っていて、記憶力、思考力が抜群です。
 総合的に人類が他の動物より優れているからこそ、現在の人類の繁栄があります。

 ちょうど今、リオデジャネイロ・オリンピックが開催中です。各種の競技の金メダルの成績が、人類の能力の極限といえるでしょう。マラソン、1万メートル競走などは、二足歩行ができ、体温調節の手段として汗腺を持つ人類の独壇場です。

 トレーニングのため、大気中の酸素濃度の低い高地合宿をすることがありますが、それによって心肺能力を高め、酸素不足を起こさないように血液中の赤血球数を増やすことができます。心臓のポンプ作用を強めるために安静時の心拍数が低く、一回の心拍あたりの血液送り出し量を増やすこともトレーニングで身に付きます。スポーツ心臓と名が付いています。こんなトレーニングが可能な事実は、人類の環境に適応する能力が高いことを示しています。

 食物を摂取消化吸収する能力も、想像以上です。人類は、切歯(噛み切り),犬歯(食いちぎり)、臼歯(すり潰し)など、肉も根菜も穀類も食べることができる歯を揃えています。
 文明社会では、柔らかい食品に慣れてしまっているので歯を極限まで使うことは減っていますが、臼歯の歯根の長さは低開発社会では文明国より長いのだそうです。

 冨田江里子さんは日本の助産師さんですが、現在フィリピンのマンガハンという貧困社会で医療費が支払えない人たちの為の無料産院・診療所を長く続けていられます。見事な女性だと思います。彼女の著書「フィリピンの小さな産院から」に、冨田さんの診療所の周囲のように、食料に乏しい地域、なんでも食べなければならない社会では、臼歯の歯根が長いと書かれています。ついでですが、冨田さんはフィリピンの前に、海外協力隊の一員として、モルディブに2年間滞在されていました。現地人と同じものを食べていたら、現地の人たちは平気なのに、日本から行った冨田さんは、栄養失調になったと書いていらっしゃいます。文明国の栄養学では絶対的に栄養不足と判断される環境でも、そこに続けて住んでいる人たちは栄養失調にならない。人類の適応能力には、学問的にまだ説明できないところがあるんですね。
 同じようなことを、鈴木継美東大教授も「パプアニューギニアの食生活」(中公新書)に書いていられます。ヒトの適応能力の凄さというか、文明社会の学問の未熟さというか、日本人が日本で目にする栄養の話が通用しない生活が世界にはあるのです。

 視力、聴力も、アフリカのマサイ族の人たちは、日本人の見えないものが見え、聴こえない音が聴こえるようです。

 知能、思考、感情などに関しては、今や脳科学全盛で、脳科学を応用して、いかに頭の良い子を育てるかといったノウハウ書籍がウンザリするほど出版されてますからこのブログでは触れません。

 問題は、言語の習得、味覚の習得、暑さ寒さへの適応などを身につけるのに、臨界期、この時期までに修得しないと後々苦労しますよというタイムリミットが小児期にあることです。
 臨界期が無いことに関しても、あまりに保護されて育つために、子ども期に経験すべきことを経験せずに成人することも最近多くなっているようです。その例は、競争心、失敗経験、怪我の経験、刃物や道具の使い方などたくさんあります。

 現在何の疑いもなく過ごしている生活には、それを支える電力や化石燃料が無くなったら、即、破綻する便利さがありすぎるほどあります。

 せっかく遺伝子が用意してくれた能力があるのに、宝の持ち腐れで過ごしていれば、将来苦労することになるでしょう。

 エアコン、自動車の便利さを子どもに与えすぎないようにし、自然の中で文明の恩恵を離れた生活を経験させ、歩き、走る機会をできる限り多くし、子ども同士の喧嘩もさせ、挫折も味わわせる事が子どもには絶対必要です。

 このためには両親が子育ての中心にいなければなりません。保育施設をどれだけ作っても、少人数の保育士が他人の子を世話するのだから、両親と同じようにビシビシ遠慮なく子どもを鍛えることはできないでしょう。遠慮なくビシビシ子どもと向き合えるのは両親だけです。保育施設で育ち、文明の繭に保護されて育った子どもたちがおとなになった時、きっと、子ども時代に必要な経験を経てこなかった事を後悔すると思います。混乱するでしょう。混乱の芽は、今のうちに摘んでおかなければなりません。子育て中の両親に是非考えていただきたいと思います。

 アベノミクスは、現在だけをを見て、30年後50年後の未来志向が欠けています。今育ちつつある子どもたちの未来をどう考えているのか、アベ総理はじめ政治家さんにぜひ聞かせてほしいものです。
 
 日々生まれてくる赤ちゃんを診察し続けている小児科医として、未来を担う子供たちを思って、「遺伝子と文明」シリーズをブログに載せました。私の意とするところをご理解ください。

 

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