澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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2014年08月

  視覚器は、外界の情報を脳に取り込むために、大きな働きをします。全身の感覚細胞(触覚、嗅覚、味覚、視覚聴覚を感じ取る細胞)の70%は光受容細胞(視覚に関わる細胞)が占めています。視覚は五感の中でも特に重要であることを此の数字が示しています。
 
  胎生26週には光を当てると目瞬きをします。30週には対光反射(瞳孔を広げたり縮めたりして目に入る光の量を調節する反射)が見られます。32週には眼球の奥の視神経が網膜からの情報を脳に伝える能力を備えてきますがまだ大脳にまでは届きません。37週になると、視神経を通って送られてくる情報を、外側膝状体を経て、大脳の視覚中枢(一次視覚野)に届ける配線作業が始まりますが完成するのは生後7ヶ月頃です。光情報を明暗、色として取り入れ仕分けする網膜の働きは胎生8ヶ月頃には、ほぼ完成します。40週で生まれた赤ちゃんの見る能力は、このようにほぼ完成しているのですが、網膜にとらえられた光の情報を、脳の神経細胞が像として認識できる形に翻訳して脳に送ることはまだできません。簡単に言えば、新生児の目は、光学カメラで言えばフィルムが入ってないカメラ、デジカメなら映像処理するデジタル化機能を持たないカメラ、レンズと絞りと、シャッターだけの状態です。
 
  新生児の視力は0.03~0.05、6ヶ月で0.2、3歳で1.0程度で、生後間もない赤ちゃんは、焦点が合う範囲も限られていて、哺乳のためにママに抱き上げられてオッパイを口にふくんだ状態での、赤ちゃんとママの目と目の距離にしか焦点が合いません。これはとても大切なことで、母乳を与えることは赤ちゃんの眼にママの黒い瞳を見つめさせることになりますし、人工栄養で哺乳瓶をくわえさせることでは、赤ちゃんにママの瞳を見せてあげることができないのです。1ヶ月くらいの赤ちゃんの両目の向きが左右ばらばらで寄り目になるのは、まだ左右の眼が共同して両眼視できないからです。2ヶ月過ぎると両方の眼が共同して焦点を合わせること(両眼視)ができるようになり始めます。両眼視が完成するのは3歳頃です。
 
  見たものを認識できるようになるには、目だけでなく,「大脳や中脳の視覚野」と、最終的に大脳に記憶が定着するまでの記憶場所である「海馬」が機能するようになるまで待たねばなりません。
 
  生まれたばかりの赤ちゃんの眼は、外界の光をとらえることはできるけれど、それを翻訳し認識する脳の働きはほとんどゼロ、「目だけに限れば」見えてるんだけど、「脳を含めて考えれば」まだ見えていないという状態です。

  感覚器は何かを感じているけれど、脳が未熟なために、それが何か分からないのが生まれたての赤ちゃん。その赤ちゃんが、目、耳、鼻、舌、全身の皮膚や手足を通して感じる刺激は、脳の神経細胞の活性化をうながし、脳の活性化にしたがって脳に感じ、脳に記憶され、五感の感覚は単独、ばらばらではなく、幾とおりにも組み合わされて発達し複雑になって成人の感じる力となります。
  生まれたての赤ちゃんに、さしあたり必要なのは、脳の神経細胞を活性化するための刺激が、繰り返し、繰り返し、脳に送られることです。赤ちゃんはそれを求めて泣くといっても良いでしょう。抱き上げられておっぱいを含ませて貰うことが、赤ちゃんにとって、最高、最適の刺激です。
  授乳によって、一日10回以上、1回数十分繰り返し繰り返し同じことが繰り返され、その度に、赤ちゃんは、ママの瞳を見つめ、声を聞き、ママの匂いを感じ、オッパイを味わい、抱きしめられ、揺すられる。赤ちゃんにとって、これほど自然で豊かな刺激はありません。

  先日、読売新聞に「着脱や前かがみ時にー抱っこひも落下116件」という記事が載っていました。抱っこひもから赤ちゃんが落下して怪我をする事故が、2009年から今年までの間に、東京都内で116件あったそうです。抱っこひもには、「抱っこベルト」、「スリング」も含まれています。」ヤナセクリニックの乳児検診でも、街角でも、抱っこひもの母子をよく見かけるようになりました。使い勝手のよい製品が何種類もあって、赤ちゃんも嫌がらないし、便利に使われているようです。
  
  でも、製品そのものは安全に作られていても、使う側が間違った使い方をしたり、予想外の出来事(例えば、ママがつまづいたり、ステップを踏み外したり、地震や雷に驚いたり)にであうと、事故に繋がることがあります。
  マニュアルに、ベルトの長さは面倒がらずに調節して、ママと赤ちゃんの間がぴったりするようにして欲しいと書いてあるのにベルトの調節をせずにいたり、ママが薄着になったのに厚着のときのままのベルトの長さでいて、ママがうつむいた時に赤ちゃんが飛び出して落下、緩んだベルトの隙間から赤ちゃんがずり落ちる、スリングのひもが何かに引っかかって外そうとしている間に赤ちゃんが落下などの事例が記事に挙げられていました。

  私の経験ですが、1980年頃、通産省の外郭団体である製品安全協会の委員を依頼されて、育児用品の安全基準策定委員会に関わっていたことがあります。歩行器の転倒事故、おしゃぶりによる窒息事故、ベビーベッドの作の隙間に頭を挟まれる事故などがあって、それらの器具の安全基準を作る話し合いに出席し小児科医としての意見を述べるのが私の役割でした。
  その時感じたことですが、「どんな使い方をしても100%安全な育児用品」を作ることは不可能だと思いました。歩行器の転倒を避けるためには足を長くして重心を下げればいい。しかしそうするとタカアシガニのような大きくて不恰好(ブカッコウ)なものになってしまう。製造コストも上がる。どこかで妥協せざるを得ない。難しいものだと、つくづく思いました。おしゃぶりを赤ちゃんの口の中に吸い込むのを避けるには、吸い込みを防ぐ鍔(ツバ)をつければいいのですが、赤ちゃんの口より大きなツバをつけたおしゃぶりは、かさばって、不恰好で、これまた商品になりにくいのです

  育児用品に限らず、すべての家庭用品について安全基準が検討され、現在ではよほど特殊な使い方をしなければ、誰がどのような使い方をしてもほぼ安全と言える家庭用品が市販されています。それでも、使い方によっては事故も起きるし、100%安全とはいえません。

  おしゃぶりに関しては、おしゃぶりの使い過ぎで歯並びが悪くなったと、ママが育児用品会社を相手取り裁判を起こした例が思い出されます。ママの言い分は、使い過ぎると歯並びが悪くなるという注意がマニュアルに記載されていなかったからというものでした。おしゃぶりは赤ちゃんがママのおっぱいに似たものをくわえて吸っていると、泣かないでいてくれるという、いわばママの「赤ちゃんだまし」です。ほどほどに使うことはやむをえないないし、便利な育児用品とは思いますが、「赤ちゃんだまし」はほどほどにしないといけないのではないでしょうか。歯並びが悪くなるほどおしゃぶりを使い続けたママのほうに非があるんじゃないかと思いました。

  100%安全とはいえない育児用品を、100%安全に使うために絶対欠かせないのは、赤ちゃんを見守るママの目です。赤ちゃんの立場で考え、どんな時でも、視野のどこかに赤ちゃんをとらえているという心遣いが赤ちゃんの事故を防ぐのだと考えます。

  人体に備わっている、外界の刺激を感じて体内に取り込む器官を感覚器といいます。
  すべての刺激は感覚器が感じ取り、その刺激は神経を介して最終的には大脳に送られて記憶されます。その記憶を基にして、新しい状況にであった時、それに対処するのですが、そのために必要な過去の視聴嗅味触などの記憶は、再生されるとまず大脳の前頭葉に集められ、前頭葉が新しい情報と、過去の記憶をまとめてどう対処するかを判断し、命令を出して、末梢の身体各部の思考・運動が開始されることになります。
  分かりやすく例え話にしてみますと、眼から入った刺激は、眼から入った情報を集める引き出しがたくさんある大きな収納棚(大脳の視覚中枢)に送られ、分類されて小さな引き出しに整理して保存されます。同じような収納棚が聴覚、触覚、味覚、嗅覚など感覚中枢ごとに存在して、それぞれに小引き出しがあります。新しい刺激が前頭葉に届いて記憶と照合が必要になると、眼の記憶棚だけでなく、触、聴、味などいろいろな感覚記憶棚の小引き出しからも必要な記憶が取り出され、集められた情報が整理されて手足その他の末梢器官に必要な命令が送られます。実際の仕組みはもっと複雑で、たくさんの経路を経て情報が前頭葉に届き、命令が伝達される経路も何箇所か中継されながら末梢に届くのですが。

  さしあたり今回は、赤ちゃんが光を見たり音を聞いたりする入り口である感覚器官についての知識をお届けします。

  胎内では、触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚の順で赤ちゃんの感覚器が作られ働き始めます。妊娠20週目には、赤ちゃんは指しゃぶりを始めています。指をしゃぶって指の感覚を覚え、同時に指が触る場所の感覚も覚えていきます。
  羊水を飲んだり吐いたりして味覚・嗅覚を働かすようになります。羊水にはママの飲んだり食べたりしたものの匂いや味が移っていますから、赤ちゃんは生まれてからママの好きな食品に興味を示したりするのだと言うお話は、以前にこのブログに書いた記憶があります。
  出生時には、哺乳に必要な原始反射が完成しており、赤ちゃんが哺乳によって泣き止み、静かになることは、平衡感覚、味覚、嗅覚、触覚がすでに働いている証です。
  

  聴覚に関しては、鼓膜が空気の振動をとらえ、鼓膜の振動が耳小骨を通して内耳に届くという耳の構造は、出生時には完成しています。胎内で赤ちゃんは音を聴いていることは早くから知られていて、話しかけたり音楽を聴かせたりする胎教が流行したことがありますが、音は聞こえても、それを記憶し大脳の聴覚中枢に届ける神経回路は未完成ですから、音胎教は赤ちゃんに対してはあまり意味がないでしょう。出生後は、ママが積極的に話しかけてあげてくださいね。こちらは、赤ちゃんの聴覚の機能を作るためには絶対必要な働きかけですから。

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