澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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2015年08月

 私の小学生時代は、暑さに対しても冷房などは皆無、せいぜい扇風機でしたが、我が家には扇風機もありませんでした。暑い日盛りにランニングシャツとパンツだけで、汗まみれで、蝉捕りや川遊びをして走り回っていました。遠足以外に、水筒を持って遊びに出た記憶はありません。日射病という言葉はありましたが、熱中症という言葉は無し。静脈点滴という治療法も知らずじまいでしたが、暑さ負けで寝込んだり、入院したりしたことはありませんでした。思い返して、その当時の子どもの体力が今より優れていたとは思いません。
 
 夏は暑いまま、冬は寒いままに、自然の四季の移り変わりに逆らわず毎日の生活を送っていたことが、知らず知らずのうちに寒暑に適応できる体を作っていたのだと、今になって思います。83歳の今も、特に暑さ対策はしていません。眠るときは29度にセットしたエアコンをつけてはいますが。
 夏と冬では汗の塩分濃度が変わります。基礎代謝も、内分泌も季節の変化に合わせて自然に変化するものなのです。体はその経験に基ずく感覚を、ずっと持ち続けますが、経験したことのない状況には対応のしようがありません。
 
 さて、今年は暑い日が続いています。連日、熱中症による死亡、病院搬送のニュースを聞かない日はありません。高齢者の熱中症は加齢による体力低下が原因になっているでしょうから、エアコンが必需品になるのは已むをえません。生後一年以内の赤ちゃんも猛暑にさらすことを避ける必要があります。しかし、若者、壮年の熱中症には、文明の利器によるマイナス効果を考えないわけにはいきません。
 
 自然環境の中で来る年も次の年も過ごすことで、知らず知らずのうちに、体は四季に応じて微妙に変化していました。これがエアコンと自動車普及以前の人の暮らしでした。現在では、子どもから大人まで、歩くことが少なくなり、汗をかく機会が減り、自然に逆らったエアコン環境で暮らすのが当然のようになってしまって、夏暑く冬寒い環境に順応できなくなり、若い世代まで寒暑に弱くなってしまいました。
 
 これに対する処方は、極力自然な環境の中に身を置く努力をすることしかないでしょう。
 
 地球温暖化は、無対策のまま、ますます進行するでしょう。今年の猛暑、集中豪雨は、日本が亜熱帯化している証拠でしょうから、これからは、年毎に気温は上昇し、天候は不順になるでしょう。電力を主にしたエネルギーの供給が今のように潤沢であり続けることは疑問です。こういった近未来の地球環境を考慮に入れて、幼児期から寒暑に耐えうる体作りをしないと、熱中症の悲劇は増えるばかりと思います。
 単に能動汗腺の数を増やすだけではなく、エアコン・自動車に頼らず、環境に逆らわず、自然環境に馴れる鍛錬を、今すぐ始めないといけないのではないでしょうか。子どもだけでなく、人工環境に馴れてしまったおとなも、生活の在り方を考え直す時代が来ていると思います。

 今回の記事は、今年の暑さへの対策には役に立ちません。しかし、子どもたちがおとなになったとき、きっと役に立つと信じています。

 今年7月31日付の日刊ゲンダイ紙に「猛暑続く夏”暑さに弱い人”がチェックするべき3つのこと」という記事が載りました。その記事の中に、私のブログ「赤ちゃんの夏対策(2)(2014:5)」から、「能動汗腺の数は2,3歳までの環境で決まる」という部分が引用されていました。
 
 動物の体は精密な化学工場です。遺伝子は設計図、多種類の酵素は部品製造器具に相当し、蛋白質始めいろいろな物質が体内で作られ、それぞれの物質がそれぞれの担当場所で、生命の維持、継続の働きを続けています。ヒトも例外ではなく、酵素の働きに最適な体温を保つように、脳の視床下部にある体温調節中枢の指令を受けながら、体温の昇降を制御しています。生きていられる体温の限界は、摂氏20度から42度の範囲内、最適体温は37度前後の狭い範囲です。ヒトは恒温動物ですから、この範囲内に体温を保持できる環境にいなければ生命の維持ができません。外気温で言えば、零度から40度の範囲でしょうか。
 
 能動汗腺の数が2,3歳までに決まってしまうということは、、別の見方をすれば、「なるべく早く体温調節能力を完成させよう。そのために役割が大きい汗腺の数を、環境温度に見あう目一杯の数完成させよう」という生命維持プログラムがあるからでしょう。
 
 さて、汗腺が体温調節に関して、どのように働くかは「赤ちゃんの夏対策」を読み返していただければありがたいのですが、簡単に復習すると、汗という水分で皮膚の表面を濡らし、風、温度差など外部の助けを借りて、気化熱によって皮膚表面から熱を奪い体温を下げるという仕組みです。水をかぶって風に吹かれて涼むのと同じです。
 
 汗腺以外にも、人体には体温調節のために、もっといろいろな機能が備わっています。
 
 暑さではなく、寒さに適応する仕組みはどうなっているのでしょうか。厚着をする、マスクをする、暖房をする、熱い食物や飲料を摂取する。これらは、もともと人体に備わったものではない補助手段です。補助手段が使えなければ、積極的に皮膚・粘膜を鍛えて寒さに耐えうる体作りをします。体作りはすぐ完成するものではありませんから、普段から、何年もかけて繰り返し鍛錬を続けなければなりません。最近誰も彼もが大好きなマスクも、寒さへの馴れを妨げるものと思います。

 私の小学生時代は太平洋戦争中でした。冬でも手袋無し、靴下なし、マスク無し。体育の時間は、真冬でも上半身裸で、冷水摩擦、乾布摩擦をしました。手足や耳たぶに霜焼けができ、朝の登校には、手に白い息を吐きかけて温めながら10分強の道を歩きました。
 そのおかげで、口腔・上気道の粘膜はすばやく寒さに適応して粘膜の温度を下げないよう反応することができたと思います。皮膚も、寒さに露出することで皮膚から熱を逃さない反応がすばやくできるよう鍛えられたと思います。もちろん、教室に冷暖房はありません。生徒はそれが当然と思っていましたが、先生たちにはきつかったでしょうね。(つづく) 

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