澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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2015年09月

 
 前回のブログの中の言葉をいくつか、解説しようと思います。前回は事実を書き並べただけで終わりましたが、今回は、分娩をより深く理解していただくための解説です。

「カンガルーケア」
 もともとは、1978年(昭和53年)に、南米コロンビアの首都ボゴタの病院で、劣悪な新生児医療環境への対策として、出生時体重1500g以下の低出生体重児を対象に始められたものです。
 二つの目的が有りました。ひとつは、早期の母子分離によって母子の愛着形成ができず養育遺棄の頻度が高かったことへの対策です。もうひとつは、保育器が不足していたので、低出生体重児を酸素吸入が不要になる段階まで保育器に収容し、その後は、ハダカの赤ちゃんをママの胸に直接抱かせ、保育器代わりに授乳と保温・保護をして育てるという目的です。ママが赤ちゃんを胸ふところに入れて抱いている格好がカンガルーに似ているので、カンガルーケアと呼ばれるようになりました。
 この方法で、ボゴタの病院の低出生体重児の死亡率が低下し、養育遺棄が減少しました。その効果を見て、WHOが途上国の低出生体重児を対象にカンガルーケアを推奨するようになりました。
 2000年以後になると、カンガルーケアの目的、方法が変わってきて、正常出産母子の出生直後の母子の触れあいを主な目的とする現在の形になりました。日本にも取り入れられて、ヤナセクリニックでも、新しい形のカンガルーケアが行われています。
 カンガルーケアの歴史を振り返ってみると、日本を含む先進国では低出生体重児の救命という目的は薄れ、母子の早期接触による母子関係の強化、確立を目標とするように変わっていることがわかります。
 
 カンガルーケアが普及するにつれて、カンガルーケアは用心深くしないと、赤ちゃんに危険をもたらすという指摘が見られるようになりました。
 スタッフの見守りが行き届かない分娩室での、不慣れなママに任せっぱなしのカンガルーケアは、赤ちゃんが呼吸困難になっているのに気付かず大事に至るとか、赤ちゃんの体温が下がって、体温を上げるために赤ちゃんが子宮内で備蓄した糖質を消費してしまい、より危険な新生児低血糖を起こすという可能性があるのです。
 
 カンガルーケアはそれをしなければ赤ちゃんの将来に影響するというほど、必須のものではありません。正常分娩で生まれた、身体的に問題のない、健康な赤ちゃんを対象に、パパママ・家族の希望がある場合に行われるようになりました。

 アタシ的には、「カンガルーケアなんてもったいつけなくても、日本では昔から、同じようなことやってたじゃないか」と考えてしまいます。家庭分娩が普通だった時代、日本では、産婆さんが取り上げて、産湯を使わせてもらった後、赤ちゃんは、出産を終えてホッとしているお母さんの傍にオクルミに包まれて連れてこられました。お母さんは、赤ちゃんを抱きよせて、ほっぺたに触ったり抱きしめたり、自然に赤ちゃんに触ってました。私も母にそうされたに違いないと思います。私が生まれたのは12月24日でしたから、クリスマスイブなんて発想のない時代、父と兄が、産褥の母に言葉で教わりながら、正月のおせち料理を作ったそうです。父が「塩か、タマリか」と聞いたら、半分眠りながら母が「塩塩、おタマリ」としか言わず、「往生したぜ」と、成長した後、兄が話してくれたことを、今も覚えています。大切なのは、このような家族全体の赤ちゃんへの愛情、思いやりで、現在のカンガルーケアも、この基本を忘れずに、やってほしいなと思います。危険のないようにスタッフがしっかり見守ることが大切なのはもちろんです。

 誕生を待ちわびていた赤ちゃんを、一刻も早く胸に抱きたい、オッパイを飲ませたいと考えるママには、カンガルーケアは意味が深いでしょう。また、ママが望んでいなかった赤ちゃんの場合には、ママに赤ちゃんへの愛情を持ってもらうためにカンガルーケアを勧めることも意味があるでしょう。
 しかし、危険を冒してまで実施しなければならないと考える必要は無いと思います。


「アプガースコア、臍帯動脈血pH」
これは、陣痛が始まり出生するまでの間に、赤ちゃんが酸素欠乏になったとき(仮死状態になったとき)、酸欠の程度を知る目安になるものです。陣痛Ⅱ期が長びいたり、微弱陣痛・分娩停止状態になったり、臍帯の異常で臍帯を通って赤ちゃんに血液を送る量が減り、酸素が届かなくなったりすると、赤ちゃんは酸欠状態になり、生まれてきても産声が出ず皮膚が蒼白く、ぐったりした仮死状態になります。
 アプガースコアは、心拍数・呼吸運動・筋緊張・反射運動・皮膚色の5項目について、0・1・2の3段階評価をし、10点満点からの数字が少ないほど酸欠の程度が強いと評価します。出生後1分に5点以下では大急ぎで蘇生術を行わなければなりません。
 臍帯動脈血のpH(酸アルカリ度)は、その数字が、7以下であれば、重症の酸素欠乏です。


 このほか、分娩時に記録する項目はたくさんあります。
 分娩経過: 陣痛Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ期の所要時間。出血量。
 妊娠週日数、分娩の正常・異常の別。
 赤ちゃんの胎位(現在では、骨盤位は原則として帝王切開の適応で、正常分娩には含まれません)
 アプガースコア: 出生後1分と5分と、スコアが10点になるまでに要した時間。
 赤ちゃんの身長・体重・胸囲・頭囲の計測値
 頭部: 産瘤・頭血腫・骨重積の有無、大小泉門の大きさ
 呼吸・循環: 鼻翼呼吸・呻吟・陥没呼吸・肺雑音・心雑音・不整脈。
 外表奇形: アザ・副耳・耳ろう孔・指の異常・外性器の異常など
口腔内異常:口蓋裂の有無 
 開排制限(股関節の開きぐあい)
 体温、呼吸数、血液中の酸素濃度
 臍帯: 長さ・太さ・結節・捻じれ、巻きつき(巻絡)の場所
 羊水: 量の多い少ない(胎盤機能異常、腎奇形、消化管閉鎖、染色体異常などの可能性があります)、  色、濁りの有無、胎便が混じっているかいないかなど。

 これらの記録は、出生直後だけでなく、生後数日間に赤ちゃんの異常が見られたとき、その異常の原因、性質を知る手がかりになります。それぞれに意味のある項目です。

 今回は、分娩室でのドキュメントを、出産を介助するスタッフの目線で見てみましょう。
 
 正常に分娩が進んだ場合は、赤ちゃんが生まれると、赤ちゃんのオヘソの近くと15cmくらい胎盤よりの場所と2か所、臍帯をクリップではさみ、臍帯の血流を止めます。その場所で臍帯を切断して、胎盤と赤ちゃんを切り離すのです。臍帯の長さと異常の有無をざっと観察し、御家族の希望があり赤ちゃんの状態が許せば、ママのバスタオルを掛けたおなかの上に、臍帯が付いたままの赤ちゃんを腹ばいで置いて、4-5分間ママに抱いてもらいます。カンガルーケアです。
 
 出生後1分と5分にアプガースコアを記録します。胎盤娩出までに、臍帯から臍帯動脈血を採血し、pHなどを調べます。どちらも、新生児仮死(酸素が胎児にじゅうぶん供給されていたか不足していたjか)の程度を知るための作業です。
 
 カンガルーケアが終わると、赤ちゃんをママから抱き取って、赤ちゃんの身長、体重、頭囲、胸囲を測ります。胎盤が娩出されると胎盤の形状、サイズなどを記録し、臍帯のねじれ、結節などの異常の有無をチェックします。
 羊水の濁り具合も記録します。臍帯が赤ちゃんの体や頸に巻きついていたか(臍帯巻絡といいます)も記録対象です。

 微弱陣痛で陣痛時間が長すぎたり、陣痛第2期が長かったり、胎児心音が微弱だったり、早産児だったりする場合には、
 
 新生児仮死で呼吸開始が難しかったり、
 赤ちゃんの酸素が足りなくなったり、
 体温が下がったりし、

出生直後の低血糖、酸素不足、呼吸の異常などの好ましくない状態を引きおこしますので、
 
保育器に収容して、酸素を供給したり、
 低体温の赤ちゃんを温めたり、
 モニターで心拍数、呼吸数、血液の酸素飽和度をずっとチェックし続けたり、
 血糖値の測定をして低血糖の疑いがあれば糖液を注射したり飲ませたりと、

必要な処置を組み合わせて、いそいで行います。

 いろいろな言葉の説明は次回に。

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