澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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2015年10月

 新生児の体温維持はどうして、それほど大切なのでしょうか。
 
 高体温対策も大切ですが、低体温の方がもっと気をつけなければなりません。特に、35週以前の低出生体重児や、胎内での発育がゆっくりな赤ちゃん(ママの喫煙が胎児の発育に影響することは知られていますが、その他にも、理由がわからない子宮内発育遅滞の赤ちゃんがあります)の場合は、低体温が起こりやすいので気が抜けません。

 赤ちゃんは体重の割りに皮膚の表面積が大きく、温まりやすいし冷えやすいのです。それが、新生児の低体温の原因のひとつです。
 
 次に、妊娠末期の3ヶ月間の赤ちゃんは、すでに体の構造はほとんど完成していて、出産に備えて皮下脂肪をどんどん蓄積しています。在胎40週で子宮内で順調に成長した赤ちゃんは、出生後の低体温になりにくく、ママの母乳の分泌が良くなってくる最初の数日間は、皮下脂肪をエネルギーに替えて、不充分な栄養摂取や水分摂取に耐えることができます。

 このことを、昭和40年代に群馬大学医学部小児科で、アレルギーと母乳を研究されていた大先輩の松村龍雄教授が、赤ちゃんは、「三日分の弁当と水筒」を持って生まれてくると表現されていました。教授のお嬢さんが出産された時、お孫さんのベッドの枕元に「母乳以外の水分とミルクを与えないでください」と張り紙をされていたという逸話が有ります。松村教授は、アレルギー疾患の発症予防には赤ちゃんに母乳以外与えないことと常におっしゃってました。

 「三日分の弁当と水筒」は、正常な満期産で生まれ、胎内で異常のなかった赤ちゃんについては正しい考え方です。しかし、未熟児・早産児には当てはまりません。ここのところは、充分理解しておかなければなりません。胎内で皮下脂肪の蓄積が不充分だった赤ちゃんは、出生後低体温を起こしやすく、うまく人工的に環境温度を調節しないと、赤ちゃんは冷えた体を温めるために、なけなしの体脂肪を消費しつくして、低酸素、低血糖という生命に関わる状態になってしまう心配があるのです。
 
 なるべく、妊娠中から気をつけていてくださいね。母体が栄養不足になったり、赤ちゃんの発育をジャマするような生活習慣を続け、その上に早産してしまうことになると、赤ちゃんもママも不幸です。なるべく完全な成熟児を出産できるよう、ママに気をつけていただきたいと思います。
 
 人類は、他の哺乳類にない大きな脳を持っています。脳を正常に保つには、とてもたくさんのエネルギーが必要です。成人でも、摂取エネルギーの20~30%を脳は消費しています。乳児の脳は、全体のエネルギーの50%に相当するエネルギーを必要とします。それをまかなうためにも、新生児期に充分な皮下脂肪が必要なのです。赤ちゃんの体脂肪率は約15%、妊娠末期の3ヶ月間に脂肪貯蔵量はそれ以前の100倍にもなるのだそうです。早産であれば、その分、皮下脂肪が少なくなります。
 
 低体温を防ぐためにも、赤ちゃんの脳の成長を損なわないためにも、ママも栄養不足にならないよう食事に気をつけて、早産をなるべく避ける努力をしていただきたいと思います。

 赤ちゃんのケアは、分娩室から始まります。
 
 かつては赤ちゃんが生まれたら、先ず、お湯で赤ちゃんの体をきれいにすることから始まりました。昔は、母体、赤ちゃんは、神に対して穢れた存在と考えられていましたから、先ず汚れ、穢れを落とすことから始めたのです。
 
 最近では、出生後すぐには沐浴をせず、体温を下げないように、手早く赤ちゃんをバスタオルで拭きます。羊水の蒸発で赤ちゃんから気化熱が奪われないように、保温を第一に考えます。赤ちゃんの体温低下は、酸素欠乏や低血糖を起こしやすくしますので、まず体温維持が大切なのです。

 出生第一日の赤ちゃんの皮膚は、拭くだけで終わりです。これをドライテクニックといっています。
 
 ドライテクニックは1974年アメリカの小児科学会が提唱して始まり、日本に定着するのにかなり時間がかかりましたが、今では、産院の多くがドライテクニックを採用しています。赤ちゃんの体温を下げないように、高温の沐浴で赤ちゃんの体力を消耗させないように、胎脂の皮膚保護作用を残すように考えられた方法です。

 カンガルーケアも赤ちゃんをハダカのままで、母子接触をしてもらうのではなく、ちゃんとタオルでくるんで保温をします。何しろ、胎内の赤ちゃんの環境温度は38度C, 分娩室は22度~26度ですから、その温度差は大きいのです。環境温度が低いことが呼吸開始をうながすという考え方もあるようですが、逆に、出生後すぐに35度くらいに温めた保育器に収容するという方法を勧める産科医もいられます。
 
 出産直後に肛門検温で体温を測定します。37度から38度であれば正常です。1時間後と2時間後の体温も、分娩記録に記録します。36~37度を維持できなければ、温罨法といって、湯たんぽを赤ちゃんの足元と体の片側に置きます。それでも足りなければ、もう1個の湯たんぽを体の反対側に入れます。キャップをかぶせます。それほどに、出生後の赤ちゃんの体温には注意を払います。

 アプガースコアが9~10点で問題のない赤ちゃんは、分娩室を出て、とりあえず新生児室に入ります。そこで、クリパスに従って、抗菌剤の点眼、ビタミンKシロップの投薬が行われます。体温は、入院中問題がなければ1日3回検温、37度を超える高体温の場合はもっと頻回に体温を測り、高い環境温度、着せすぎなどによる高体温か、脱水症か、感染症による発熱かを、血液検査を含めて慎重に調べます。
 呼吸数、心拍数も計測してクリパスに記録します。異常のない赤ちゃんについての記録、観察、ケアはこんなところです。クリパスの他の項目も記録対象です。排尿便の回数。与えられた母乳、ミルク、糖水の量、与えられた時間など細かくクリパスに書き込まれます。
 

育児は気遣いが多いですね。
ホッとする時間を作って、
ママの気持ちを和らげて、
赤ちゃんと楽しんでください。
こんなLINE投稿がありました。
ママに許していただいて、
ブログに転載します。

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 今、私の前に、A3サイズ横置きの、罫線がたくさん入った用紙があります。数多い記録用紙の一枚です。
 
 新生児クリティカルパス(略してクリパス)という用紙です。クリティカルパスとは、工業生産などの工程表なのですが、医療施設でも医学管理・治療効果判定にこの考え方が使われるようになりました。新生児の場合は、成人の場合と違って、主に、出生後退院までのスケジュールとスケジュール達成結果の記録です。
 
 この用紙の左端には、上から下へ、記録項目が印刷されています。一番上には、体重の日々の増減、毎分の呼吸数・脈拍数、体温を色分けして線グラフの形で記入するようになっています。病院で看護師さんたちがバイタルと略して言っているバイタルサインの欄です。体温37度Cの部分の罫は太い赤線です。成人では血圧の記録がバイタルサインの必要項目ですが、新生児では省略されます。
 
 その下に、体重(生下時比)という欄があります。赤ちゃんの体重が、生下時体重に比べて10%以上減少するときは、健康状態・栄養摂取量に問題ありと考える目安になります。

 次の欄には、新生児黄疸による皮膚の黄染度、お臍の状態、チアノーゼ、心雑音、活動性(赤ちゃんが活発に動き、大きな声で泣くかどうか)、哺乳力、嘔気・嘔吐、母乳直接授乳の回数、搾乳量、ミルクの補足量、排尿排便回数を記録する欄が並び、数欄分の看護記録、処置の欄、記入者のサイン、診断名まで、記入欄が設けられています。

 横軸は左から右へ、0日を起点に、暦日と、出生後何日目かが7日まで区分けされており、ママの手による授乳、赤ちゃんの排尿便の記録はじめ、複数のスタッフが、いろいろな書式用紙に記録した赤ちゃんの状態を、このシートに簡潔に移し替えて記録し、このシート一枚で赤ちゃんが健康か、何を検査する必要があるか、どのように処置するか判断できるようになっています。

 たとえば体温ならば、36.5度以下だったら赤ちゃんを保温しなければなりませんし、37.5度以上の体温が記録されれば、体温の経過を追い、環境温度が高いための高体温か、感染症による発熱かを血液検査を含めて慎重に見極め、入院を続けるか、検査・治療設備の整った病院に搬送するかを考えなければなりません。
 
 私が新生児を診察するときには、このシートの記録内容と、分娩記録を主にチェックし、あらかじめ赤ちゃんの異常の有無、慎重に診察しなければいけない部分の予想を立てます。診察に当たっては、聴診、触診、視診を組み合わせて、すでに記録された異常と、診察によって判った新しい知見を合わせて確認し、問題なく入院を続けてよいか、保育器に収容し、モニターを着け、心電図をとり、酸素吸入まで必要が有るか無いかなどを考えなければなりません。この判断は、小児科医だけでなく、産科医、助産師、看護師すべてのスタッフに共通して求められるものです。思考、観察、判断の幅を広くしていないと、赤ちゃんの将来に影響する様な見落としをしかねません。それは、小児科医として、医療スタッフとして、許されないことですから、ひとりひとりの赤ちゃんに緊張して向き合うよう、私も自分で自分にはっぱをかけています。
 
 次回からもっと具体的に、日々の赤ちゃんへのケアについて記します。

クリティカルパスの写真を載せました。言葉の説明より写真の方が、よくわかっていただけると思います。

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 本題に入る前に、産科ヤナセクリニックの医療スタッフの一人で、小児科医としての私の役割を御紹介しておきたいと思います。

 出生前には、数多いマタニティ・クラスの中の、おっぱい教室とファミリー・クラスの講師を務めています。
 おっぱい教室は、母乳育児を希望されているママに、どうすればトラブル少なく母乳育児に成功できるかを、私の知識をもとにお話しています。
 ファミリークラスは、主に祖母・母(妊婦さん)二世代間の知識、常識のギャップを埋めていただいて、家庭内に母乳その他の育児をめぐって意見の食い違いによるトラブルが生じないように、家庭内が平和で、同じ考え方で赤ちゃんに向かい合っていただけるように、これも私の知識と60年近い小児科医としての経験をもとに、私の考えをお話しています。
 
 出産後入院中には、ほとんどの赤ちゃんの診察をし、大小を問わず異常、問題の有無を把握します。新生児室で診察することもあり、お部屋に伺って御家族と一緒に診察することもありますが、なるべく直接ママに診察結果を報告し、私なりの助言をさせていただいてます。

 赤ちゃんの1ヶ月健診も私の担当です。私だけのデザインの、赤ちゃんの個人カードを作り、妊娠中、陣痛発来から娩出までの時間経過、分娩じ、出産後の記録、兄姉の情報、助産師さんによる母乳外来の記録、1ヶ月健診の記録を1枚のカードで把握できるようにしています。

 1ヶ月健診までに御希望があれば、私の担当で、出生から2週間前後の健診(2週健診)もしています。家庭で育児を始められたのち、疑問、心配ができた時、1か月までに答えが欲しいと思われた時は、2週健診を御利用ください。

 出生後2-3ヶ月たったころ、ママと赤ちゃんの集いがあります。いちごママクラスといいます。ここでも私が、2-3ヶ月以後の育児のポイントをお話して、ママの質問にお答えしています。このクラスは、ママの表情、動作に落ち着きと自信が見え、1ヶ月健診時のお緊張感がなくて、私には心休まる楽しい時間です。2度、3度と繰り返し出席されるママもあり、ママ同士がいちごママ友達になられることもあるようです。

 4か月、10ヶ月健診も、御希望によって受け付けています。しかし、病気の診察や予防接種はしていませんので、4ヶ月健診以前にかかりつけ小児科医をお持ちになるでしょうから、健診数は多くありません。

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