澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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2016年01月

 クリパスの解説を続けます。

 「嘔気・嘔吐」の次に空いた2枠には、臨時の記録が書き込まれます。
 SPO2(血液中の酸素飽和度)計測器を装着した場合、センサーを装着した時間を書きます。これを見れば、どの時間帯に、呼吸困難、無呼吸、鼻翼呼吸、呻吟、チアノーゼなどがあったか推測できます。
 脱水気味、低血糖などでブドウ糖液を赤ちゃんに飲ませた場合、血糖値、と上器量が書き込まれます。

 次の4項目、「直母回数」、「哺乳量」、「補足ミルク」、「尿/便」は、赤ちゃんが退院するまでに、どのように経口的に、おっぱいや水分を摂取したかの記録です。

 「直母」とは、母乳を乳房から直接赤ちゃんに飲ませること。搾った母乳を哺乳瓶で飲ませることは含まれません。

 「搾乳量」は、手搾り、搾乳器などで搾った母乳量です。

 「補足ミルク」は、母乳の分泌が良くなり、上手に授乳できるようになるまでの間、低血糖・脱水症の可能性、体重の増減経過、哺乳技術の上達に応じて、哺乳瓶でミルクを補足する際の補足量の記載です。

 「尿/便」は、排尿・排便の回数を回数を記載します。
 胎便・大便の排泄、生後24時間以内の排尿の有無は、赤ちゃんが経口摂取した水分量、おっぱい量を反映するだけでなく、消化管の狭窄・閉鎖の有無、腎臓のきのうが正常か異常かを判断する根拠になります。

 その下の「看護記録」11行分のフリースペースは、通常の記録項目に入っていない特別な看護記録が記載されます。高体温・低体温で頻繁に体温を計測した記録、SPO2の数値、特に目立った母斑(あざ)の場所や色、経過観察の必要がある問題などがメモされます。
 
 生後2-3日に行う「新生児難聴スクリーニングテスト」(赤ちゃんの耳が音をとらえることができるかどうかを調べるテストです)の結果は、クリパスのグラフのスペースの上部に実施したことを記載し、検査結果の詳細は別紙に添付して記録されます。

 クリパスの一番下には、入院中のルーティーン(決められた日に、順を追って行う)作業の記録欄があります。
 出産0日から3日間は、タリビットという抗菌剤の目薬を両眼に点眼します。産道で結膜に細菌感染を起こす可能性があるため、それを予防するためです。
 ビタミンk2シロップは、0日と4日目に飲ませます。

 出生1日後に沐浴をします。スタッフと一緒にママにも沐浴のさせ方を体験していただきます。沐浴時の赤ちゃんお写真撮影と足型をとります。

 通常の退院は第4日(5日目)ですが、この日、赤ちゃんの静脈から検査用の採血をします。紳士時横断の程度を知るための総ビリルビン値、脱水や多血症チェックのためのヘマトクリット値の測定、血液型判定のための血液を採ります。

 こうして、特に異常の無い赤ちゃんは、ご自宅に帰っていただくのですが、帝王切開後は6-7日で退院となります。早く退院を希望される経産婦さんは3日目退院の方もあります。

 新生児黄疸が長引いて光線療法が必要な場合は退院が遅れることがあります。

 いよいよ、ご家庭での赤ちゃんとママとご家族の暮らしの始まりです。

  (次回は、こぼれ松葉で、産褥での母子の生活を、昔と今を比べて書く予定でいます。産院入院から退院までのお話は、今回で終わります。)

 今回も、クリパスの項目を追いながら、赤ちゃんの産院での日々を解説します。

 黄疸の次に、臍の状態という項目があります。
 
 臍帯は出生後2箇所をクランプで挟み、臍帯の血液の流れを止めてからクランプの間で胎盤から切り離されます。赤ちゃん側の臍帯は、数日で乾燥し脱落します。この経過を記載するスペースが、この項目です。
 
 臍帯の切断面から細菌感染を起こすことは、近頃の出産時の管理体制ではまず起こりませんが、私が小児科医になってまもなくの頃(昭和30年代始め)には、日本はまだ貧しく、環境も不潔だったので、ある産院から続けて二人、破傷風の新生児が大学病院に入院したことを覚えています。不潔なぼろ布を介して、臍帯から感染したものでした。
 産院退院後も臍帯が乾燥状態でおなかに付いていることが多いと思います。臍帯が脱落した後、臍肉芽腫が生じることもありますから、水様性の分泌物がおへそから出ている間は消毒を続けていただかねばなりません。

 次の2項目、チアノーゼと心雑音は呼吸器と心臓の状態を示す目安になります。

 チアノーゼは、呼吸中枢の未熟による無呼吸発作や、授乳中の呼吸障害、心臓そのものの異常の際に見られます。
 
 心雑音は、胎内では肺を通らない血液の流れが、出生後肺呼吸が始まって肺循環が始まるのですが、その切り替わりの時に、卵円孔やボタロー氏管という胎内では開いている左右の心房や血管が、出生後閉じきらないでいる間だけ、数日間聴こえる心配の無い心雑音と、もっと大きな心臓の先天異常による心雑音とを聴き分けなければなりません。クリパスに心雑音ありと記載されるときには、医師はどの場所に、どういう大きさの、どういう性質の雑音が聴こえるか判断して、正常か異常かの判断をせねばなりません。胎児のエコー検査であらかじめ診断が着いている先天性心奇形が多くなっていますが、生まれてきてから目立ってくる異常もいろいろ有ります。

 活動性の項目は、赤ちゃんお体の動き、泣き声などから、活発とか不活発とか、ぐったりとか記載されます。

 哺乳力の項目は、オッパイの飲み方の観察を記載します。哺乳に必要な反射が活発か、勢いよく飲み続けるか、すぐ飲みやめてしまうかなどを記載しますが、日を追って、変化する哺乳力の記載から、いろいろの判断をしなければなりません。

 嘔気・嘔吐の項目は、吐き気や嘔吐が観察された時にプラス・マイナスを記載します。
 
 生後24時間は羊水を飲み込んでいるせいか吐き気の強い赤ちゃんが少なくありません。赤ちゃんが最初に口するビタミンK2・1ccプラス5%ブドウ糖水10ccは、赤ちゃんにとってよほど美味しくないもののようで、吐き出す子が多いようです。しかし、新生児の出血性疾患(消化管出血や頭蓋内出血)を防ぐために、出生の日と4日目に必ず飲んでもらわなければなりません。ビタミンKは、血液が固まりやすくするためのビタミンで、新生児や母乳栄養で不足しやすいビタミンですから。  

 (もう1回、クリパスの説明を続けます。入院中の通常4日間の赤ちゃんの毎日がよく理解していただけると思いますので。)

 前回、クリティカルパス(クリパス)用紙の線グラフ記入までを述べてきました。
 今回は、用紙左端のグラフ記入部分から下の記載項目について説明します。

 先ず、体重(生下時比)という項目です。これは、毎日の体重計測値と( )内には、出生時からどれだけ体重が増減したかを記入します。この数字を元に、緑線のグラフを描きます。

 次の2項目、ミノルタと黄疸・皮膚色は、出生後入院中にに赤ちゃんの皮膚を黄色くする新生児黄疸について記入する場所です。

 新生児黄疸は、普通は生後3-4日たってから強くなってくるのですが、稀に、生後1-2日頃に出現することもあります。

 早期に出現する黄疸は、胎児溶血性貧血という状態が、母と子の血液型が異なる場合に出現し、赤血球が壊れて大量のビリルビンが血液中に流れ出るために生じる黄疸です。その際、胎児、新生児は高濃度のビリルビンによって脳幹部の神経核が壊され「胎児水種」や「脳性小児麻痺」になることがあります。、神経核を壊す黄疸という意味で「核黄疸」と呼ばれて、過去には血液全体を入れ替える交換輸血以外に治療方法がありませんでした。血液型不適合はRh型不適合が多いのですが、ABO型不適合が原因の場合も稀にあります。現在では、血液型不適合があれば、出生前に診断をし、免疫グロブリンの注射で発症を予防しますので、核黄疸の心配も、交換輸血も、ほとんど必要がなくなりました。

 普通の新生児黄疸は、胎内の低酸素環境で胎児の血管を流れていた赤血球が出生後壊れて、体外の酸素環境に適した赤血球に入れ替わりますので、胎児赤血球が壊れてできるビリルビンという黄色の物質が赤ちゃんの体内に増えるために黄疸が現れます。生後3-5日頃にみられます。

 ビリルビンの値が一定以上に高くなると、新生児黄疸でも「核黄疸」をおこす可能性がありますので、ある波長の紫外線を皮膚に浴びせ、皮下を流れる血液中のビリルビンを壊す治療が行われます。光線療法と呼ばれています。
 保育器の中にハダカの赤ちゃんを収容し、紫外線で網膜を傷害するといけないので光を通さない眼帯をかけて、紫外線照射をし、血液中のビリルビン値を低下させます。1-2日の光線療法で血中ビリルビン値は安全圏に下がるのが普通です。新生児黄疸は一時期だけの問題なので、それ以後問題を生じることは、まず、ありません。光線療法を受けたからといって、産院退院後まで心配を持ち越す必要はありません。

 新生児黄疸は、母乳栄養児の場合、なかなか消えません。6-8週間くらい続きますが心配は要りません。1ヵ月健診時の母乳で育っている赤ちゃんは、黄疸があるのが普通です。母乳黄疸と呼んでいます。
 
 ミノルタとはミノルタ製の黄疸比色計という機械の略称です。オデコにセンサーを当て、皮膚の黄色味の程度を表示します。血中ビリルビン値とほぼ同じ数値を表すよう調整されていますが、ミノルタの数値が高ければ、血液を採って、正確な血中ビリルビンの量を測り、その数値を元に、光線療法が必要かどうかを判断します。
生後4日には、すべての赤ちゃんの採血をして、聡ビリルビン値、Ht(ヘマトクリット)値、血液型を検査します。
その時一緒に、先天性代謝異常の検査もします。                                    

                          (次回のブログも、クリパスの説明を続けます)

 今回は、「新生児クリティカルパス」の内容に従って、産院での赤ちゃんの日々を記してみようと思います。
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 用紙の左端に、クリパスの記入内容の項目が並んでいます。上部の1/3は横向きに横向きに細い罫線がひかれています、体重とバイタルサイン(R:呼吸数、HR:心拍数、T:体温)を線グラフで記入するスぺースです。横向きの罫線の真ん中あたりに赤線がありますが、生理的体重減少がグラフの線ですぐわかるように出生時の体重を、赤線をゼロとして、日々の減少分を緑色の線で記入します。10%以上の減少、体重3kgで生まれた赤ちゃんならマイナス300g以上の減少が無ければ心配要りません。

 「生理的体重減少とは?」: 赤ちゃんは出生後しばらくは哺乳が上手にできず、呼吸や排泄、皮膚からの水分蒸発によって体重が減ります。このことを新生児生理的体重減少といいます。出生時体重から計算して、入院中に10%以上減少する時は、身体異常や水分補給や授乳・ミルク補足など栄養補給を再検討する必要があります。出生後の授乳状況によって、ゼロ点(出生時体重)に戻る時期は個々の赤ちゃんで違いますが、1週間以上2週間までと考えればよいと思います。なるべく早くゼロ点に戻さなきゃと焦る必要はありません。経口水分摂取の様子、外見で推測する脱水症状、血液の液体成分と血球の比率を示すヘマトクリット値の減少、排尿排便の回数などを考慮して、対応します。

 体温は37度Cを基準にして、青い線でクリパスに記入します。出生直後の体温維持の大切さは前回のブログに書ききましたが、最初の2日間は日に4回検温します。体温が赤線以下で低ければ環境を温め、湯たんぽを3つにします。37.5度Cを超える場合は、温めすぎ、部屋が暑すぎなどの物理的条件の問題があるか、脱水症か、感染症かを疑い、感染が疑わしければ、血液中のCRPという物質の定量計測をします。CRPは体内で感染による炎症があると高くなります。CRPと体温の経過を見ながら、呼吸器、神経系の感染が疑われれば、新生児集中管理ができる病院に搬送し入院になります。

 呼吸数は黒い線で記入します。特に未熟児で、肺胞の開きが悪いとか、成熟児では自然気胸とか、心臓循環系の先天異常とかが考えられますので、呼吸数60以上を超えれば慎重に観察せねばなりません。数日で正常化する一過性多呼吸が新生児にはよく有りますが、クベースに収容し酸素を流して様子を見、呼吸数の減少が悪い時は、これも搬送・入院を考慮します。

 心拍数は赤い線で記入します。呼吸器の異常、循環器の異常に伴って増加します。先天性心疾患で、心雑音やチアノーゼを伴って心拍数が多い場合は、搬送・入院の対象です。大きな心臓の奇形は、ほとんどが胎児のうちにエコー検査で発見されますから、出生後に異常が発見されることは稀になりました。

 クリパスの上部には、以上のように、緑、黒、赤、青の4種類の折れ線グラフが描かれて、ひと目で赤ちゃんの状態の正常・異常がおおよそ把握できるようになっています。

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