澤田啓司の「ブラーヴォ! 赤ちゃん!!」

小児科医・澤田啓司(三重県津市乙部ヤナセクリニック)のブログ

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2016年11月

 1ヶ月健診のとき、フィリピンや南米の赤ちゃんは、ミトンをしている子が多いようです。手の触感をジャマするから、ミトンはしないほうがいいよと話してきましたが、何か理由がありそうだと気付きました。パパが日本人でママがフィリピン人のご夫婦が健診に来られた時、聞いて見ました。その答えは、最初に爪を切るときまで、爪を伸ばしっぱなしにしておくのだという答えでした。爪の保護のためのミトンだったのですね。

 フィリピンでは、最初に摘んだ爪と、最初にカットした産毛を、小さな袋に入れて遺しておくのだそうです。フィリッピン全土そうするわけではなく、しない人もあり、部族、地方によっても違うようですが。

 疑問が解けたので、それ以来、ミトンは止めなさいとは言わないことにしました。

 日本にも、臍の緒を残しておく風習があります。臍の緒だけでなく、生後1週間くらいで頭の産毛を剃る習慣があり、剃った産毛も臍の緒と一緒に残す地方がありました。臍の緒は、生きるか死ぬかの大病をした時、煎じて飲むと生き延びられるという言い伝えはかなり広い範囲の地域にあるようです。
無事生まれた赤ちゃんの臍の緒は、産神の力が残っていると考えられたのでしょう。

 私の臍の緒もまだ無くさずにしまってあります。
 先日、取り出してみました。3×8cm位の桐の箱に、和紙で包まれて入っています。箱の表には、「御臍の緒」と書いてあり、箱の裏側には、私の生年月日(昭和6年12月24日)、出生時間(午後5時だったようです)、父と母の名前と年齢、出生場所(自宅の住所です)、産婆さんの住所姓名が書かれています。
 私の名前と生年月日、両親の名前と年齢は、父の楷書の字できちんと書かれています。四角張った楷書は、見たことが無いほど丁寧にきちんと毛筆でしるされています。
 和紙に包まれた臍の緒は、赤黒く干からびて、一回り半の細長い輪になっていますが、伸ばせば10cmくらいの長さです。
 産毛は入っていません。昭和6年頃の三重県では、臍の緒だけを残す習慣だったのでしょう。

 父の楷書を見て、言いようの無い感動が湧きました。私は兄弟が多く、八番目のこども、七男ですが、父の字はとても丁寧に書かれていて、その文字から父の愛情を強く感じました。
 ミルクを飲ませたり、オムツ替えしたりするはずが無い父ですが、子にとっての父は、その父が育メンでなくても、ちょっとしたことでも強く感じるものなんですね。

 そういえば、12月24日生まれの私ですから、母は産褥、父と長兄が正月のお節作りをしたのだと兄に聞かされたことがあります。母は産後の疲れで眠っていることが多く、母に砂糖はどれくらい、味付けは塩かタマリ醤油かと聞いても、母は夢うつつで、シオシオオタマリと言うだけだったそうです。その年のお節はどんな味だったのでしょうか。この話、今思い出しても目が熱くなります。

 母子健康手帳の前半の方に、「乳幼児期の成長と育児のポイント」というページがあります。3-4ヶ月児については「表情も豊かになりにっこり声を立てて笑うことも、音のするほうを向いたり、物を目で追ったり、動きが増えてきます。」とかかれています。主な成長の目安は「首のすわり」でしょうか。

 アカネちゃんの成長記録を基に、もう少しきめ細かく見てみましょう。
 
 赤ちゃんは2ヶ月頃から人の顔を見てニコニコ笑うようになりますが、咽喉の構造が未発達なので、声を出して笑うことはできません。はっきりと、嬉しい、楽しい、面白いなど、感情表現として笑い声を立てるようになるのは、3ヶ月半ば頃からです。

 おもちゃに手を伸ばして、自分で握るようにもなります。おもちゃに興味を持つほどに大脳が発達した証です。

 足のキックが強くなったのは、大脳皮質→小脳→脊髄の順に下降してきた脳脊髄の神経支配下に、赤ちゃんの下肢が入ったからです。4ヶ月に入ったアカネちゃんが、両足を挙げてドーンと下ろすことを繰り返しているのは、早速、下肢を使って、寝返り・お座りに繋がるからだの動きのトレーニングをしているのです。

 22時に寝て3-5時まで続けて眠るようになったのは、一日の生活の中で昼と夜が分かれ始めたことを示しています。地球上のすべての動植物は、皆、生きていくために夜と昼が必要です。ヒトの場合も、昼と夜では、大脳も、脳幹部に中枢を持つ自律神経も働き方が異なります。ホルモンの分泌、神経刺激物質の種類が夜と昼では違います。眠っている間に記憶が固定されるとか、成長ホルモンは夜間睡眠中に多く分泌されるとか、聞かれたことがあるでしょう? 3-4か月の赤ちゃんは、昼夜の区別がつき始める大切な時期を迎えています。単に「夜まとめて寝てくれるようになって楽になったなあ」というママの気持以上に大きな意味があるんです。

 3-4か月には、咽喉の構造が変わってきます。咽喉が頚椎1個分くらい長くなります。生後1-2ヶ月は、顎の下はすぐ胸だったのが、3ヶ月過ぎると首が姿を見せ始めます。オッパイを誤飲しないように気道の入り口すれすれまで伸びていたノドチンコが短くなります。この変化は、強弱高低いろんな種類の声を出すことができるようになることを示していますし、もうひとつ、オッパイ以外の半固形、固形の食物を食道に送りこめるようになってきた証でもあります。

 この変化によって、声の種類が増えます。生まれてまもなくはドレミのラの音しかでなかった泣き声が、いろんな声、いろんな泣きで、おなかが空いた、眠い、気持が悪いなどの感情、感覚を表現できるようになります。
泣き方や発声でママと対話しているんです。アカネちゃんのいろいろな声の記録を読み返してみてくださいね。

 もうひとつ、食物を飲み込むための咽喉の変化に加えて、舌の動きも、押し出す働きから、食物を咽喉の奥に送り込む動きに変わってきます。オッパイだけを飲んでいる時期には、赤ちゃんの舌の動きはママの乳首を強く押す動作が主です。アカネちゃんも、3ヶ月半ばでは口に入れたご飯粒を舌で押し出していますが、数週間後にはもぐもぐして飲み込んでますね。舌が圧す働きをしている時期に離乳食を食べさせようとしても、舌でベーッと押し出してきます。押し出さなくなったら、離乳食を食べる準備完了です。

 4ヶ月後半のアカネちゃんは、朝から晩まで「ブルル、ブルル」と唇を使って声を出す遊びにひとしきり凝っています。いろんな声を出す練習のひとつです。寝返りをしようと何度もトライしていたアカネちゃんが突然寝返りに挑戦することをやめてしまいます。そのかわり、仰向けで首を持ち上げたり、ブリッジをしています。そしてある日、突然寝返りに成功します。
 
 赤ちゃんは、滑らかに順序を追って発達するのではなく、細かい動作をばらばらに練習して、ある日練習成果を総合して寝返りに成功するんです。この過程を知って、私はとても感動しました。横断的調査では分からないことを、時間を追って縦断的にアカネちゃんに教えてもらって、小児科医になって60年目にやっと、赤ちゃんの発達の実像を知ることができたんですから。

 アカネちゃんは4ヶ月健診で軽い股関節脱臼があると健診医に言われ、整形外科を受診して異常無しでした。
 4ヶ月健診は、赤ちゃんの股関節の異常の有無をチェックする上で、とても大切な節目です。4ヶ月健診で股関節脱臼が疑われれば、それ以前と違い確実な診断をつける必要があります。もし股関節の異常が見つかれば、それ以前のように抱き方に気をつけるだけでは済まず、強制装具を使ったり、場合によっては手術が必要になることもあります。股関節脱臼だけでなく、4ヶ月はいろいろな点で、大きな節目です。
4ヶ月健診は必ず受診してくださいね。




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