10年ほど前には、赤ちゃんは胎盤を通してママの免疫を貰っているから、生後6ヶ月間くらいは風邪をひかないという迷信がありました。最近は、この迷信を本気で信じているママはほとんど無いように思います。

 かつては、生活環境の中に感染症の病原体がたくさんあって、いろいろな感染症に罹ることが通過儀礼のように考えられていました。麻疹生ワクチンの誕生までは、自然感染による麻疹の免疫は終生ママの血液中に残ってて、それが胎盤を通して赤ちゃんの血液中に移行し、生後4ヶ月くらいは赤ちゃんは麻疹に罹りませんでした。限られた病気については、麻疹のように経胎盤免疫(母子免疫)が赤ちゃんを守ってくれていました。それが拡大解釈されて、6ヶ月までの赤ちゃんは風邪をひかないという迷信が生まれたのだと思います。

 実際は、どの月齢でも、もちろん生まれたての赤ちゃんでも、ほとんどの感染症に罹りますから気をつけてください。

 ママが罹る風邪や感染症は、すべて赤ちゃんも罹ります。

 ママ自身が予防接種で予防していても、その病気が環境から無くなってしまったた現在では、自然感染によって免疫を強化する機会がなく、予防接種の免疫が減る一方ですから、外国から入ってくる百日咳や麻疹にパパママ世代が罹っています。当然、赤ちゃんにパパやママが病気を感染させる」可能性が高くなっています。パパママが自身の免疫を調べ、弱くなっていたらワクチンの追加接種をすることが必要な必要な時代になりました。

 胎盤を通じて赤ちゃんに移行する免疫グロブリンは分子量が小さなIgGという免疫グロブリンに限られており、感冒やインフルエンザは母子免疫の効果が無く、免疫グロブリンでは感染を予防できない水痘、ヘルペス口内炎も母子免疫の有無に関わらず生まれたての赤ちゃんに感染します。
 風疹は、ママが妊娠前に生ワクチン接種を済ましていれば、母子免疫で赤ちゃんが守られます。
 麻疹は、最近は予防接種から時間が経って免疫が少なくなったママ世代に自然感染者の発生が見られていますから、母子免疫の効果はなくなっていると考えるべきでしょう。おたふくかぜも、ワクチン接種をせず自然感染も無かったままの場合は母子免疫は働きません。

 こう考えると、母子免疫によって6ヶ月までの赤ちゃんは感染症に罹らないはずという古い迷信は、もはや通用しません。

 母乳(初乳も含めて)に含まれる免疫グロブリン(胎盤を通過できない分子量の多いIgAが大部分です)も同じです。現状では、麻疹や百日咳、インフルエンザなど、身近で赤ちゃんにとっては危険な感染症に対しては、母乳中の免疫グロブリンの働きは期待できません。母乳中のIgAは、ひとつの感染症の病原体に対してそれに対応する免疫グロブリンが一対一の対応をしているので、何万種類もの抗原に対して何万種類もの抗体の免疫グロブリンの集合体なのです。母乳中の免疫グロブリンは一種類だけで、それがすべての病原体に対抗しているのではありません。たとえば、麻疹の抗体を持たないママの母乳・初乳中には麻疹ウイルスに対する免疫グロブリンは存在しないのです。

 もちろん、初乳を飲むことで赤ちゃんの腸粘膜の表面が免疫グロブリンに覆われて、アレルギーの抗原を無力化する事は出来ます。ママが血液中に持っている抗体に対応する細菌やウイルスを無力化する事は出来ます。でも、初乳中の免疫グロブリン量が多くても、本来最も気がかりな感染症を予防する働きは薄れてきていますから、以前ほど初乳に子だわる必要はありません。このあたりは、感染予防という観点では、母乳・初乳の常識を書き換えなければなりません。

 でも、免疫グロブリンの効果は期待できなくても、母乳中には、リゾチームとか、ラクトフェリンなど抗菌作用のある物質が含まれていますから、それらの物質が赤ちゃんを感染症から守ってくれます。
 
 また、母乳中には、間接的に赤ちゃんの善玉腸内細菌を増やす働きを持った物質(オリゴ糖など)が含まれていますから、母乳を与えることで赤ちゃんの腸内に善玉ビフィズス菌を増やすことが出来ます。善玉ビフィズス菌が多いと、先日ニュースに流れた蜂蜜の危険性、蜂蜜に入り込んで赤ちゃんを死に追いやったボトリヌス菌の芽胞の活性化を抑えることが出来ます。蜂蜜を赤ちゃんに与えないことはもちろん大切ですが、母乳も赤ちゃんの力強い味方であることを理解してください。

 母乳授乳後、鼻の奥がグジュグジュ音を立てたり、咽喉がゼロゼロ・ゴロゴロ音を立ててママを心配させるかもしれませんが、これは母乳が鼻の奥や咽喉に入り込むせいです。母乳によって鼻から侵入する細菌やウイルスをブロックする大切な働きと考えられます。鼻から侵入する細菌による中耳炎は、人工栄養児に比べると母乳栄養児でははるかに少ないのです。母乳の効用です。鼻の奥のグジュグジュは、赤ちゃんが乳首をくわえて離さず、鼻呼吸ができるているのなら、鼻づまりではありません。母乳が鼻を護っているんだと考えてください。

 母子免疫も、母乳・初乳中の免疫グロブリンも、赤ちゃんの感染予防の主役と言えなくなった現在ですが、それ以外の母乳の栄養、安全性などの長所は絶対的です。どんなに人工栄養のミルクが進歩しても母乳を超えることはできません。ぜひ、母乳で赤ちゃんを感染症から守ってあげてください。

 
 日常生活では、赤ちゃんを感染症から守る方法はただ一つです。風邪であれ、インフルエンザであれ、罹っている人、罹っていそうな人を、赤ちゃんに近づけないことです。
 
 どんなに大切な来客でも、上のお子さんのお友達でも、発熱、鼻水、咳がある人から赤ちゃんを隔離してください。ママが風邪をひいてしまったり、唇にヘルペスの症状が出たりしたら、手洗い、マスク着用を忘れないでください。人ごみに赤ちゃんを連れださないようにしてください。6ヶ月まで、それが無理なら3ヶ月までの赤ちゃんは、特に、病人から遠ざけることで感染症を防いでくださいね。