前回は、仮死で生まれた赤ちゃんが産声を挙げるまでの、産婆、医師の苦闘ぶりを書いた、有島武郎と、A.J.クローニンの文学作品を紹介しました。
 今回は、最近の新生児仮死蘇生法を紹介して、前回の文学作品の蘇生法を対比してみようと思います。

 1992年に、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)が創立され、2000年以後、ILCORが5年毎に呼吸循環管理国際ガイドラインを作り、新しい知見をもとにして改変・修正を続けながら、世界規模で提供しています。この一部分に、新生児蘇生法が含まれ、それにのっとって世界中同じやり方で新生児の呼吸循環管理が行われています。最新のガイドラインは2010年のもので、日本では「Consensus2010に基づく日本版新生児蘇生法テキスト」として出版されています。もはや、日本とイギリスで違った基準の、違った蘇生法はなされていません。

 かつて考えられていたような、産道を通る間に赤ちゃんが経験する皮膚刺激が産声の引き金になると言う考え方は、帝王切開が多くなって、自然分娩と帝王切開で産声開始に差が見られないことから、今では否定されています。羊水に混じる胎便も気にしないでよいといわれるようになりました。

 約10%の赤ちゃんにみれれる、新生児仮死は、仮死の程度によって異なる蘇生法メニューによって、大急ぎで蘇生術が施されます。

 まず、羊水で濡れた皮膚をタオルでふき取り、背中を摩擦し、足の裏を叩くか指で弾いて皮膚刺激を与えます。ほとんどは、この処置で呼吸が開始されます。

 軽い皮膚刺激で呼吸が始まらなければ、次のステップは、口の中、鼻腔の吸引で、鼻腔の吸引が引き金で呼吸が開始されます。咽喉の奥まで吸引しようとすると心拍が弱くなる(徐脈になる)ので、咽喉の奥までは触りません。

 つぎは、インファント・ウオーマーの上で保温しながら,肩枕をして咽喉を拡げ、純酸素の使用は避けて、普通の空気を、エアバッグで吹き込みます。胸骨を押したり離したりする人工呼吸をします。ほとんどは、この過程で呼吸が始まります。気管内に挿管して強制的に空気を送り込む、酸素を使うなどの蘇生法が必要になるのは新生児の1%程度です。

 有島武郎の作品に書かれている葡萄酒湯に漬ける方法は、どこで、誰が始めtものでしょうね。皮膚や気道に刺激を与える役割りはしたかもしれません。

 クローニンの小説のような、熱湯と冷水に交互に漬ける方法も、皮膚刺激を目的にしたものなのでしょう。
クローニンの場合は、胸骨を押す人工呼吸が、現在でも通用する蘇生法だったのでしょう。

 仮死の赤ちゃんの、足を持ってぶら下げ、背中を叩くことは、昭和30年代にはまだ行われていましたが、もうなくなっています。
 
 最新の蘇生法では、ママの分娩台と同じ部屋で行うことと言う配慮も記されています。