胎児・新生児に関して、遺伝子の解析、脳科学の進歩によって新しい知識が増えていますが、まだわからない事がたくさんあります。しかし、赤ちゃんについて根拠のある情報は、とても多くなりました。その情報をもとに今言えることは、古い胎児・新生児像は、かなり広範囲で書き直す必要があるということでしょうか。

 嗅覚.味覚.触覚.聴覚.視覚は五感といわれて、その器官は胎内で完成していますが、記憶装置である大脳にはまだ繋がってはいません。

、嗅覚味覚の器官は脳に近い部分にあり、危険な臭いや味に反応する、ヒト以外の動物と共通の役割を持っています。大脳皮質が無くても、間脳で感知機能が働きます。呼吸、循環、消化排泄同様、出生時から働き始め、生命維持の働きをします。ヒトの嗅覚味覚は、他の動物とは少し違いますけどね。大脳にも伝って、聴覚、視覚、触覚とも繋がって、料理を見たらその味、初めて食べた時の感触、料理中の焼ける音などが同時に感じられますよね。

 触覚に関しては、赤ちゃんが体に触ったり指を吸ったり、シャックリしたりしていることは、胎児の映像撮影で捉えられていますが、これらの行動で生じる感触を記憶している証拠はありません。

 聴覚に関しては、胎内で胎児にいろいろな音が届いていることは事実です。体外に比べれば低い周波数で、低いデシベルの体外より弱い音が子宮内で録音されています。胎児の聴覚器はその音を聞き取ってはいるでしょうが、その音を意味の有る音として記憶しているかどうかは不明です、胎内音をもとに赤ちゃん像を推理した書物が出版され、胎児に音楽を聴かせて、出生後も赤ちゃんはその音楽を覚えているようだという推理をし、その推理をもとに出生後に同じ音楽を聴かせるとか、胎内音を録音したものを新生児に聴かせると静かになるとか、それを胎教の手段にするとか、録音した音を販売するなどされていますが、これも科学的に客観的に有効かどうかの根拠はありません。新生児の聴覚テストは、聴覚器の反応を調べるもので、脳波などの大脳皮質の反応を調べているのではありません。

 視覚に関しては、胎内で眼球の機能は備わり、明暗を感じる細胞、色を感じる細胞は胎内から未完成ながら働き始めていると考えられますが、左右の眼球が大脳皮質の視覚野につながり遠近がわかり、見たものを記憶するには生後2ヶ月間かかります。

 胎内記憶、出産時の記憶があるというネット記事は多いのですが、それを客観的に裏付ける証拠はありません。

 生まれたばかりの赤ちゃんが泣くのは不快感の表現と書かれた書物がありますが、実際に赤ちゃんを見ていると、オシリが濡れても、低血糖で死の危険があっても、誤嚥で呼吸困難を起こしていても赤ちゃんが泣いて知らせることはありません。

 「授乳後も泣いている。こぶしを吸っている、口をもぐもぐさせている」のは空腹のサインだと書かれた権威ある本がありますが、「 」内に書かれていることはすべて原始反射です。空腹感は3ヶ月過ぎないと獲得できない高等な感覚で、オッパイを飲ませても泣きやまないのは、赤ちゃんが意識的に発する空腹サインではありません。

 赤ちゃんは、いつでも乳首を含ませればオッパイをごくごく飲み始め、泣き止みます。口の構造も、呼吸も、口のもぐもぐ、チュウチュウも、みなオッパイを飲むための道具立てです。原始反射を空腹のサインと考えれば、赤ちゃんはいつでも空腹なんだ、オッパイが足りないんだ、ミルクを足さなくちゃ、とママを人工栄養に誘導してしまいますが、すべての原始反射も、生まれつき備わった口の構造も、オッパイを飲むためのものだと捉えれば、泣くからミルク補足という短絡思考に陥らずに済むはずです。

 私がヤナセクリニックで出産直後の赤ちゃんを診察し、1ヶ月健診を受け持つようなって10年になります。1年に500人の赤ちゃんが出生されますから、10年間に5000人の赤ちゃんを2回宛診察しています。計1万人の赤ちゃん数です。
 その経験から言えば、、赤ちゃんの専門家とされている人たちによって、いかに間違った情報が垂れ流され、赤ちゃんの実像が捻じ曲げられ、その情報を信じて育児にあたるママたちを苦しめてきていることか。

 ほんとうの赤ちゃんの姿を素直に理解すれば、育児不安で悩むママがうんと少なくなるのに。

 次回も赤ちゃんの実像と、間違った育児情報について、具体的に書きます、(続く)