柳瀬幸子の「地球(ここ)に生まれて」

三重県津市にあるヤナセクリニックの院長・柳瀬幸子のブログです。 ヤナセクリニックの基本理念: 私たちは、患者様の思いを尊重し、患者様に寄り添った医療やケアを目指します。 ヤナセクリニックの基本方針: 1.安全、安心なお産を提供し、出産の喜びと子育ての楽しさを感じられるような支援を行います。 2.女性の健康増進のために地域から信頼される医療を提供します。 3.子どもを大切にする街作りを応援します。 ヤナセクリニックのモットー:良いお産、楽しく子育て!!

三重県津市にあるヤナセクリニックの院長・柳瀬幸子のブログです。

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<ヤナセクリニックの基本理念>
私たちは、患者様の思いを尊重し、患者様に寄り添った医療やケアを目指します。
<ヤナセクリニックの基本方針>
1.安全、安心なお産を提供し、出産の喜びと子育ての楽しさを感じられるような支援を行います。
2.女性の健康増進のために地域から信頼される医療を提供します。
3.子どもを大切にする街作りを応援します。
<ヤナセクリニックのモットー> 
良いお産、楽しく子育て!!
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私とバスケットボール

日本男子バスケットボールが、次回のパリオリンピック出場を決めました。バスケットがテレビで放映されることはあまりないので、今回のバスケット中継を、テレビに釘付けで見ていました。

私は、中学校、高校、大学とバスケット部に所属していました。学生時代の思い出は、バスケットの部活なくしては語れないくらい、部活と一緒に歩みました。
バスケットは、5人対5人の選手が、狭いコートの中を、走る・飛ぶ・投げるを繰り返して、シュートを決めていくスポーツです。本当にしんどくて、体力的にはとてもきつかったですが、シュートが入ると楽しくて、ほぼ10年間バスケットをやっていました。
バスケット(スポーツ)をやっていたことが、私にとっては、社会に出てからの力になっています。
スポーツをしている親子さんに向けてのフリーペーパー『レッツ』に次のような投稿をしました。

部活(バスケット)をしていてよかったこと。
1. 体力がついた:仕事をする、子育てをする、遊ぶ、どれをとっても体力があった方がいいし、頑張りがききます。若い時に基礎体力をつけておくと、その後の人生をよりよく充実して送れます。

2. 精神的に頑張りがきく:辛いな、しんどいな、もう逃げ出したいなと思う時に、部活での、「ファイト―!元気―!頑張ろうー!ファイトー!」という掛け声が聞こえてきます。あともう一息、あきらめずに頑張ることが、勝利に繋がる。それが、身体にしみついています。

3. チームプレーである:コートの中では5人の役割がありますが、私はガードをしていました。自分が活躍することだけでなく、チームで勝利することが大切です。チームのなかで、その日は誰の調子がよく、相手チームとの関係で誰を使っていくのがよいのか、自分が攻めていった方がよいのか、人を使った方がよいのか、瞬時に判断しなければいけません。みんなで点をとり、みんなで守る。社会に出て組織で働くようになると、チームワークはとても大切で、働きやすい職場の条件になります。

4. 補欠も大切である:チーム全員が試合に出られるわけではありません。主力選手以外のメンバーもとても大切です。練習中の試合形式になれば、補欠メンバーが強ければ練習も白熱します。補欠メンバーの実力があがれば、試合中誰が出ても戦力が落ちません。一緒に頑張って練習した補欠メンバーの姿が、スタメン選手の心の支えになります。

5. 裏方も大切である:下級生やマネージャーは、道具の準備、体育館の掃除、水分補給の準備など、選手を支える存在です。目配り、気配り、心配りが養われます。社会に出てからは、人の為に、今自分が何を準備し、行動し、相手に気持ちよく過ごしてもらうためにはどのようにしたらよいかを考える能力が必要で、仕事ができる人に結びつきます。

6. 戦略を考える:相手を知って、それに対する対策の練習をしていくことが大切です。様々な対応策を日々練習することで、試合で本領発揮することができます。色々な対応策を常に用意していくことは、困難な壁にぶち当たった時の対応能力になります。

7. 耐える力:怪我をしたり、不調だったり、上手な後輩がはいってきたり、いつもトップを独走できるわけではありません。どんな辛い時にも、気持ちを前向きに、努力し続ける力が必要です。でも、どんなに頑張っても、最終的にはうまくいかないこともあります。自分の納得できるところまで頑張ったら、負けた涙のあとには、自分にとってかけがえのない思い出と成長が残ります。

8. 上には上がいる:勝ったことにあぐらをかいていると、すぐに人に抜かれ、他のチームに負けます。周囲をみてみると、上には上がいます。自分が天狗になった時点で、成長はストップします。いつも謙虚な気持ちで、自分の足らないことをみつめ、上を目指し続けましょう。

9. 平常心:試合中は、緊張のため自分のパフォーマンスが発揮できないことがあります。緊張した状況でも、平常心で冷静に対応できる。私の職場である医療現場でも、求められる能力です。

10. 良いコーチにめぐり合う:素晴らしい監督やコーチがいると、そのチームは強くなります。社会人になっても、素晴らしい上司のもとで仕事ができると、能力はあがります。自分が上司になった時も、後輩をいかに育てていくかが、その職場の能力アップにつながります。

最近は、部活の存続も難しく、部活に入らない子ども達も多いようです。私は、ずっと学生時代バスケットボールをしていたことが、今自分が頑張れる原動力になっています。スポーツから学ぶことは、本当に多いです。子ども達が、スポーツに打ち込める環境が続いてほしいと思います。

産後ケア

2023年9月3日三重県小児保健協会学術集会に参加してきました。テーマは「産後ケアを考える」です。ヤナセクリニック田村まり看護師が、「産婦人科クリニックにおける産後ケアの現状と課題」一般演題で発表しました。
基調講演は「産後ケア 優しさが循環する社会へ」東京医療保健大学大学院 特任教授 福島富士子先生でした。産後ケアのパイオニアの先生で、今、なぜ産後ケアが必要なのか、熱い思いの講演でした。

出産後の母親は、ホルモンの劇的な低下がおこります。どの母親でも心身の疲労があり、育児に対する不安があります。子育てが上手くできず、みじめな気持ち、気力がでない、涙が止まらない、眠れない、イライラする、自分を傷つけたい気持ちになるなど。心身ともに周囲のサポートが必要です。
子ども側にとっては、人生の心理的健康を決定しうる重要な時期であり、愛着を形成する上で最も大事な時期です。良好な親子の愛着形成を促進するように支援することは、個人の長期的で社会的・心理的健康を本質的に決定づけるものです。そして、児童虐待や育児放棄の早期予防、発見、治療の役割を果たすことになります。

母親の子育てをするためのエネルギーを満たすためには、家族の温かいサポート(愛、保護、サポート、理解)、専門家のケア(関心、配慮、支持、ケアの提供、尊敬、理解)、地域の人々とのつながり(近隣、NPO,母子保健推進員、愛パパ活動など)を親に注ぐことが必要です。周囲からの十分なサポートが注がれることによって、母親のエネルギーが満ち溢れ、それが子どものケアをする源となります。
しかし、現状は、子育てに対するストレスが多く、孤独と不安のなかで子育てをしている母親が沢山います。妊娠・出産・産後の時期、継続したケアを安心して受けられる環境が必要です。

そこで、2014年にフィンランドのネウボラを参考にして、妊娠・出産包括支援モデル事業が開始されました。
1. 母子保健相談支援事業:妊産婦等からの支援ニーズに応じて、母子保健や子育てに関する様々な悩みへの相談対応や、支援を実施している関係機関につなぐ
2. 産前・産後サポート事業:妊産婦等の孤立感や育児不安の解消を図るため、助産師等による専門的な相談援助や、地域の子育て経験者やシニア世代等に話し相手になっていただく等
3. 産後ケア事業:出産直後に休養やケアが必要な産婦に対し、心身のケアや育児のサポート等のきめ細かい支援や休養の機会を提供する
その後、2017年「子育て世代包括支援センター事業」、2019年には「産後ケア事業」が市区町村の努力義務で開始となりました。

産後ケア事業の目的は、
・助産師等の看護職が中心となり、母子に対して、母親の身体的回復と心理的な安定を促進
・母親自身がセルフケア能力を育む
・母子の愛着形成を促し母子とその家族が、健やかな育児ができるよう支援する
・市町村は、妊娠中から出産後に至る支援を切れ目なく行う観点から、子育て世代包括支援センターその他の関係機関との必要な連絡調整、他の母子保健、児童福祉に関する事業等との連携を図ることにより、母子とその家族に対する支援を一体的に実施する

私たちは、出産後、2週間健診、1ヶ月健診時にママのメンタルチェックをしていますが、心身ともにサポートしていく必要なママがいます。ヤナセクリニックでは、津市と松阪市との委託契約を結び、産後ケアを積極的に受け入れています。
産後ケアの目的を達成するため、ヤナセクリニックスタッフは、利用者のニーズや保健師の依頼に合わせて、スタッフで話し合いながらケアを行っています。産後ケアの重要性は、現場でも非常に感じています。数日間のサポートであっても、母親の子育てをするエネルギーの手助けになっていると思って日々頑張っています。

来年度からは、「こども家庭センター」の設置が市区町村にすすめられていきます。今までの「子育て世代包括支援センター」(妊産婦や乳幼児の保護者を支援)と「子ども家庭総合支援拠点」(虐待や貧困など問題を抱えた子ども、保護者を支援)の連携が不十分であるということから、全ての妊産婦、子育て世帯、子どもへ一体的に総合支援を行う機能を有する機関の設置がすすめられていきます。そして、民間資源、地域資源と一体となった支援体制の構築がすすめられ、様々な地域資源による支援メニューにつなぐイメージが示されています。

今、日本では、少子化が急激にすすんでいます。周囲には子どもと触れ合ったことがない大人が増えてきます。こどもや子育てに興味のない人たちが増えてきます。地域の出産を扱う産婦人科クリニックがどんどん減っています。地元で、患者さんと医師やスタッフとが、顔のみえる関係で、気軽に相談ができる産婦人科が減っています。そのような中で、人生のスタートとなる出産、子育てをどのように守っていくのか。真剣に取り組んでいかなければなりません。まったなしの課題です。地域で出産を担う施設として、子育て支援者として、行政や地域の施設と連携して、何とか地域の親子を守っていきたいと思います。

唐松岳登山

2023年8月11日山の日に北アルプスの唐松岳に登ってきました。
前日の仕事が終わってから21時に自宅を出発し、車で仮眠をとる予定でしたが、1時間しか寝ることができず、黒菱平駐車場へ到着。お盆のご来光特別企画で、リフトが4時半から開始していたので、すぐにリフトにのり、黒菱平へ到着しました。そこで、素晴らしい景色をみることができました。少しずつ明るく空が変わってきて、美しいご来光をながめました。反対側では山並みが赤く染まります。なんと、美しいのでしょう。自然からの最高のご褒美をいただきました。

この日は快晴。清々しい空気を吸いながら、歩いて八方池山荘に到着しました。かわいい高山植物のお花、周りの山々の風景を楽しみながら、木道を登っていきます。白馬三山の絶景を横にみながら、歩いていくと 息ケルン、八方ケルンに到着します。遠くに富士山もみえます。そして、今回の行きたかった場所の一つの八方池に到着しました。八方池に鏡のようにうつる山々は、快晴でないとみられません。空と山と池と、素晴らしいコントラストです。いつまでも眺めていたい景色ですが、少し休憩したら、唐松岳に向かって、本格的登山の開始です。今日は祝日で、老若男女沢山の登山者です。

樹林帯あり、岩々の登りあり、登山初心者の私には、距離が長く、大変ですが、マイペースで一歩一歩前へと進みます。登山のよいところは、私のような遅いペースの人を後ろからイライラしてあおってくる人はいないことです。少し広いところに出たら、追い抜いてもらいます。時間はかかりますが、あせって歩いて事故をしたら元も子もありません。みんなに「がんばってください。」と声をかけてもらいながら、追い抜いてもらい、道を譲ってもらいます。こういった気持ちのいい関係性があるから、高齢者の方、子ども連れの家族の方、山を愛する全ての人が楽しく山に登れます。

扇雪渓という雪が残っている雪渓にでます。地元では見ることができない景色です。みなさん、ここで少し涼みながら休憩されていました。森を超えると森林限界へ。そこでは、雷鳥の親子に会いました。沢山の人が写真をとっていましたが、逃げることもなく、かわいい姿をみせてくれました。
丸山ケルンへ到着。山々がこんな近くでみえるなんて、大パノラマです。実際に足を運んだ人しかみることができない圧倒的な景色に感動しました。私は、足がつったので、しばらくここで休憩。これ以上歩けないかもと思いながらも、唐松山荘までは行こうと、また歩き始めました。登山は自分の限界を知ることも大切と教えられています。一人で下山できてこそ、登山。だれも担いで降りてくれるわけではありません。下山に要する時間や体力を考えて自分の限界を見極めることも必要です。朝早くでたので、時間はまだ十分あります。もう少し頑張りましょう。

少しガスがあがってきて、涼しくなってきました。どんどん高度感が増してきます。さすがアルプス。周囲の山々の迫力が違います。足元は100m切れ落ちた崖。高所恐怖症の私には、下をみる勇気はありませんでしたが、すごく高いところを歩いているという実感はありました。そして、やっと唐松岳山頂がみえるところまで来ました。唐松山荘に到着し、昼ご飯のおにぎりを食べて休憩です。唐松岳山頂はもう少しですが、下山のことを考えると、私の足は限界と考え、登頂はせず下山しました。今度は山荘に1泊する計画で来たいと思います。

私が、登山を始めて良かったこと、学んだこと。体力を維持できるようにしたいと日々少しずつですが、トレーニングするようになりました。競争社会の世の中ですが、山は、人と競争せず、マイペース楽しむことができます。自分自身に甘えることなく、自分と対話しながら限界まで頑張った満足感が得られます。しかし、自分の限界を知ることも大切で、自分の足で下山できるところまでが自分の責任です。自然は厳しく、いつ事故にあうかはわからないので、最悪の時の準備は必ずしておくことが必要、油断は禁物です。天候によって、登山の満足度は全く違うけれど、それは仕方がないとあきらめますが、自然は逃げていかないので、また、チャレンジしたいと思えます。
だからこそ、自然を大切に、いつまでもこの自然を守っていきたいと思います。高齢の方でも、マイペースで山登りを楽しんでみえます。私も、体力が続く限り、日本の美しい山、色々な景色を楽しみたいと思います。

4歳の虐待死

令和5年6月29日三重県津市で4歳三女が母親の虐待で死亡という衝撃的なニュースが入ってきました。自分が住んでいる市内で起こった事件でしたので、大変ショックでした。個人情報があるため、医療関係者でも、ニュースでしか情報を知ることはできません。

令和5年5月22日頃、自宅アパートで三女の背中に右腕を当てて高さ30cmのテーブルからフローリング上に転倒させる暴行を加え、5月25日母親の通報で県内の病院に救急搬送され、5月26日に死亡が確認された。病院の医師から「児童虐待の疑いがある」と通報があり、事件が発覚した。司法解剖の結果、死因は頭部や顔面を床に打ち付けたことによる急性硬膜下血腫とみられ、顔や頭部以外にも複数の皮下出血が確認されたという。日常的な虐待行為があった可能性もあるとみて経緯を調べている。
母親は、経済的な理由などから、女児を生後まもなく熊本市内の「赤ちゃんポスト」に預けていた。母親は、中勢児童相談所に養育の悩みを相談。女児は、一時保護されたうえで、県内の乳児院に入所した。児相はその後、保育所の入所決定や、親族による支援の期待、外泊時の様子などを考慮して、令和3年3月に措置解除と家庭復帰を決定した。
母親は、亡くなった女児が通っていた保育園から令和4年2月中勢児童相談所に「両ほおと両耳にあざがある」として虐待の疑いを通告されたことに不信感を抱き、令和4年年7月から女児を登園させなくなった。以降、園の保育士が月1回、電話をかけて近況などを確認していたという。母親は、「女の子は元気にやっている」「(子どもが)いつか園に戻りたいと思っている」と説明していたという。今年1月に一度、クリスマスプレゼントを渡すために保育士が家庭を訪問した際には、元気に外で遊ぶ女児を確認している。
児相は虐待の疑いの通告を確認するために令和4年2月に家庭訪問をして、女児と面会。年齢などの基本情報に加え、けがの場所や状態などの21項目をAIのシステムに入力した。これにより、過去に起きた同様の事案で一時保護をしていた割合は「39%」と表示され、将来的に女児が再び被害を受ける可能性(再発率)を「13%」と算出した。県の担当者は、「感覚的にもしっくりする評価だった。決して違和感のある数値ではなかった」と振り返る。この結果に加え、あざの原因が虐待だと断定できないことや、母親が児相の指導に応じる姿勢を示したことなどを踏まえ、県は女児の一時保護を見送ることを決定、定期的な見守りで対応することにしていた。
以降、園や親族などを通して3カ月に1度の間接的な近況確認をしながら、市などが参加する実務者会議で情報共有していた。しかし、保育士の訪問情報などは共有されておらず、園側も児相の家庭訪問の状況など、正確な動きを把握していなかった。
児相は緊急度の低い、3カ月に1回の対応が妥当と判断し、当初は直接電話のやりとりも続けていたが、通園状況を確認したため、令和4年3月の通話を最後に、保育園を通じて近況を聞く「園モニター」に対応を移行した。児相は、1年以上にわたって女児を目視しておらず、保育園に通わなくなっても、一時保護の必要性を再検討しなかった。

幼い命が、虐待で亡くなりました。女児はどんな思いで日常を過ごしていたかと思うと心が痛みます。
当院に通院している妊婦さんの中にも、経済的な理由や社会的な理由で子どもを育てられないかもしれないと相談を受けることがあります。地域の保健師、こども支援課、場合によっては児童相談所と一緒にケースカンファレンスをします。一番に優先することは、「こどもの命を守る」ことです。
母親と相談し、子どもを育てられない環境であれば、児童相談所がはいって、生後直後に乳児院に入所する場合もあります。そのまま母親の元へは戻れず、養護施設で大きくなる子どももいます。母親の状況をみて、母親の元に戻り、自宅で生活していく子どももいます。特別養子縁組を希望される場合もあります。

この時に大切なことは、家庭環境は刻々と変わっていくということです。そのような不安定な家庭は、職がなくなった、離婚した、新しいパートナーができた、頼っていた親族や友人との関係が疎遠になった、他の子ども達の状況等によって、急激に家庭環境が悪くなることがあります。そのストレスの矛先は、一番弱い者に向かっていきます。

三重県の児童相談所はAIを使って虐待対応に活かしているというのは、よく聞いていました。ベテラン職員であれば、長年の経験で判断できるところが、若手では判断が難しく、ある一定の判断の基準を誰でもできるように、AIは有効だと発表されていました。AIで出してくれるのは確率です。39%だから一時保護しなくてよい、リスクの低い家庭と判断できるのでしょうか。多職種の関係者で十分検討されたのでしょうか。
そして、このような家庭は、氷の上を歩いているような状況で、何か状況が変われば、突然滑り落ちるかのように氷の中に落ちてしまうリスクがあります。
家庭環境の変化をすぐに察知できるのは地域の目です。児童民生委員の方からは、個人情報のため、どこに子どもが住んでいるのか、問題のある家庭がどこにいるのか、何も情報をもらえないと嘆いていました。保育園や医療現場など子どもをみる機会のある施設では、虐待疑いがある場合には市町の行政に通報しています。通報された側が適切な対応してもらえなければ、現場はそれ以上動くことができません。地域の保健師は、問題のある家族には自宅訪問したり、電話をかけたりしていますが、面談してもらえないことも多いと嘆いています。
もう少し、地域の住民や地域の各施設と、行政が上手く連携できていれば、虐待死が防げるケースがあると思います。私達現場からも、もっと連携できる体制を訴えていかなければと痛感しています。

「子どもの権利」~乳幼児期 はじめが肝心~

「子どもの権利条約」は、世界中すべての子どもたちがもつ権利を定めた条約です。1989年国連総会において採択されました。条約の基本的な考え方には、次の4つの原則で表されます。
〇差別の禁止(差別のないこと):すべての子どもは、子ども自身や親の人権や国籍、性、意見、障害、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。
〇子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと):子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。
〇生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること):すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。
〇子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること):子どもは自分の関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。

そして、子どもの権利として次のようなことがあります。
1.生きる権利:住む場所や食べ物があり、医療を受けられるなどして、命が守られる
2.育つ権利:勉強したり遊んだりして、もって生まれた能力を十分に伸ばしながら成長できる
3.守られる権利:紛争に巻き込まれず、難民になったら保護され、暴力や搾取、有害な労働から守られる
4.参加する権利:自由に意見を表したり、団体を作ったりできる

乳幼児期の子どもの発達~はじめが肝心~
人は3歳になるまでに脳の8割以上が形成されるといわれています。ユニセフは乳幼児期の脳の発達に必要なことを提言しています。
〇安全と保護:幼い子どもたちを暴力や虐待から守ることは人権を擁護するだけでなく、生まれ持つ潜在的な能力を十分に発揮させ、健康、学習能力や社会への適応能力の基礎となります。
〇保健と栄養:母親の妊娠~生後2年間の間、適切に栄養を摂取することは、正常な脳の発達に欠かせません。その後、大人になるまでの認知や運動、社会性や情動能力を左右する基礎が、この時期に構築されるのです。適切な母乳育児は子どもの健康的な感情と認知の発達を助けます。
〇幼児教育:就学前の幼い子どもたちに対する質の高い幼児教育への投資は、子どもたちの学習能力を高めます。
〇刺激とケア:乳幼児期の刺激と両親や養育者とのふれあいが、子どもの脳の発達と健康を活性化させます。広範な学術研究が、養育、幼い子どもと彼らの両親や養育者とのふれあいが与える刺激は、ポジティブかつ恒久的な学習能力を強化し、生涯を左右する脳機能の発達を起こす可能性があるとしています。


ユニセフから、BabyTips 子育てのヒントが記されています。
新生児:赤ちゃんは、生後数日から微笑みかけられたら微笑み返すことをし始めます。
1~6か月:生後1~3か月の赤ちゃんが最も良く見えるのは、20~30㎝以内にあるもの。3か月たつ頃には、より視界が広がります。
6~9か月:脳の発達を助けるためには、適切な栄養を与え、過度なストレスから保護し、他者とのふれあいや遊びを通して刺激を与えることが大切です。
9~12か月:学ぶ過程で肯定的な反応を返すことが、乳幼児の自尊心と自信を高めます。「違う」「悪い」「良くない」よりも、「そうそう」「良いね」「よくできたね」といった言葉を多く使いましょう。
1~2歳:周りのおとなたちを喜ばせられたとき、子どもにとっても嬉しいものです。
2歳~:悪い行いを𠮟られるよりも、どうすれば良い行いができるかを教えてもらう方が、子どもはより良く理解できます。

乳幼児期に適切な養育をされることが、その人の生涯を通じてとても大切だということを世の中の人に知ってもらうこと。それがとても大切です。そのためには、親や養育者がポジティブに物事を捉え、子どもを保護しながらも安心を与え、子どもをエンパワーメントしていく必要があります。

最近は、大人に対しても前向きな思考になるようなワークやコーチングの講座が盛に行われています。そこで、ポジティブシンキングについて調べてみました。
ポジティブシンキング(積極志向)とは「肯定的な考え方」や「前向きな考え方」、転じて「肯定的・前向きな考え方によって現実を良い方向に変える思考法」を意味する言葉です。
ポジティブシンキングが身についている人の特徴は、行動範囲が広い・周囲と良好な人間関係を築いている・モチベーションが維持できる。自分の子どもが、ポジティブシンキングな大人に育ってほしいものですよね。
ポジティブシンキングの身につけ方として。原因より改善策を考える。達成可能な目標を立てる。物事を前向きにとらえる。周囲へ感謝する。ポジティブな人と過ごす。ネガティブな口調をやめる。自己効力感を高める。適度な運動を習慣にする。楽しかったこと/嬉しかったことを思い出す時間を設ける等が挙げられていました。

これは、子育てについても同様のことだと思います。子どもと一緒に今日あった楽しかったこと、嬉しかったことを聞く時間を設ける。失敗しても、これからどうしたらいいかを一緒に考える。小さな目標を決めて、できたらほめてあげる。親が周囲に「ありがとう」という言葉をきちんと伝える。嫌なことがあっても、親自身も前向きにとらえる。ネガティブなことばかり親から言われたら、子どももネガティブな考え方になってしまいます。親の姿は子どもに映しだされます。だから、親もポジティブシンキングになり幸せでいることが大切だと思います。
そのためには、周囲の応援が必要です。疲れて疲弊しているときには、思考はネガティブになってしまいます。
未来ある子ども達が、ポジティブに生きていけるように、子ども達の周囲を守っていきましょう。親や養育者が「肯定的な考え方」「前向きな考え方」になれるように、子育てをサポートし、一緒に協力し共に考えていきましょう。
妊娠・出産・子育てがポジティブに捉えられるよう、産婦人科医療施設も頑張りたいと思います。



ボンディング障害

2023年5月28日国際ボンディング協会のセミナー『ボンディング障害への対応~生きるための支えは?~』福岡・みずまき母と子の心療所 白川嘉継先生の講演を聴きました。
先生は、NICUに長く勤務され、その時、極小未熟児の赤ちゃんを医療者が頑張って治療して無事に助けたのに、赤ちゃんの退院が決まった時、両親が連れて帰りたくないと言われた経験から、子どもを助けるだけでなく、母のメンタルを支えることも必要と考え、今は母と子のメンタルを中心に精神科診療をされています。

お母さんやお父さんが子どもに対して抱く「愛おしい」「守ってあげたい」「大事にしたい」などの愛情・情緒的なきずなを「ボンディング」と言います。ボンディング障害とは、子どもへの怒り・攻撃、拒否、無関心がみられ、妊娠期から1歳頃までに生じます。周囲からは、子どもの成長が順調であれば気づかれないことも多く、あるいは、母親が子どものせいにしてしまう場合もあります。
母乳育児とskin-to-skin contactがボンディング障害に有効と言われています。NICU入院中にカンガルーケア、母乳育児等の肌と肌の触れ合いを早期に行うことで、退院後の母親の赤ちゃんへの育児行動が積極的になると研究されています。しかし、カンガルーケアでは十分な効果が得られない状況がありました。赤ちゃんを抱っこしていても、母親は別のところに解離している場合があるのです。

複雑性PTSD;児童(性的)虐待など長期反復的トラウマ体験によるPTSDがあると、ボンディング障害になるケースがあります。精神的な病理として、その人の認知行動は、トラウマ的な、もしくは苦痛でいやな人生経験が、不適応的に心の中で書き換えられた、もしくは不完全に処理されたことによるものではないかと仮定されています。そのような場合は、母親へのカウンセリングが必要です。しかし、通常のカウンセリング法ではPTSDを取り除くのに時間がかかりすぎ、親子の関係性の形成に重要な時期に、不適切な養育を修正することができず、虐待を予防することができません。
白川先生は、EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)という手法を使って、トラウマ治療を行っています。EMBRの治療によって、自分自身が不適切な養育を受けていたことや虐待を受けた経験などのトラウマ処理をして、子育てが改善したケースもあります。

しかし、自分が適切な育児を受けていなければ、子どもに対して適切な育児をすることができません。自分が育てられたように育て、子どもは育てたように育ちます。そのようなお母さんは他人に「助けて」が言えません。援助を求めてこなければ、支援者の共感や寄り添いには限界があります。だから、育児の方法を伝え、全てのお母さんが助言やアドバイスを受けられるような場所が必要です。ネウボラのような全ての母親が、地域の支援者とつながり、持続的に関わってもらえる場所です。
世代間連鎖を断ち切る周産期医療が必要です。母親にボンディング障害や不安定愛着がある場合には、母子の関係性障害がおこり、虐待という子どもの逆境性小児期体験がおこります。それが起こらないための、虐待防止対策・小児科や児童精神科の医療的な早期介入が必要です。逆境性小児期体験を受けて育ってきた妊婦に対しては、出産前後から産婦人科や精神科が医療的な介入を行い、母子の関係性が良好になるようにしていきます。良い親子関係の循環がまわっていくように社会が支援していく必要があります。

女性は、妊娠出産前は 関心の優先順位が自分自身や自己実現です。男女の愛情では、性衝動のような子孫を残すために働く動物的本能に関わる脳の視床下部が働きます。出産後は関心の優先順位が子どもとなります。視床下部の働きが低下し、視覚に関わる後頭葉などの活性が高まり、気分の変調は減り、子どもを愛情深く見つめることができるようになります。愛情ホルモンと言われるオキシトシンが分泌され、恐怖や不安をものともせず、子どもを護ろうとします。しかし、授乳中にストレス環境にあるとオキシトシンの分泌が十分でないこともわかっています。母親が安心して子育てできる環境が必要です。

虐待を受けて育った子どもは、ラットの研究では、遺伝子の変化がみられ、親になった時、子どもに無関心となり、虐待は世代間伝達していきます。虐待を受けて育つと、報酬に対する脳の反応が低く、何かのために頑張ろう、他人のために頑張ろうという気持ちがおこらなくなってしまいます。

子どもの心の発達に影響を及ぼす母と子の関係性として
「私の母親は、自分自身が抱きしめられたことがなかったので、自分の赤ちゃんである私をたくさん抱きしめたかった。その行為は母親が抱きしめたいときに抱きしめるだけであって、子どもから見ると、子どもは抱きしめられたテディペアに過ぎない。母親が抱きしめたいときに抱きしめただけであり、子どもが抱きしめてほしい時には抱きしめてもらえない」本質的には子どもへの愛情ではなく、自己中心的な冷淡な親です。しかし、元をたどれば、母親が子どもの頃に抱きしめられたことがなければ、子どもの欲するときに抱きしめてあげることはできないのです。
「親は子供のための存在であり、子どもは親のための存在ではない。」「子どもを誤用する、乱用する、私のために生まれてきてくれてありがとう」にならないように。
そんなお話をしていただきました。

最近、妊婦さんの育児支援者を聞き取ると、自分の母親が嫌い、仲が良くない、頼りたくないという人が増えてきているように思います。
ちょうど私達が親の世代の子ども達が出産年齢になってきています。
私達の親は戦後の高度経済成長の時代に子育てをしていました。核家族化し、専業主婦となり、家電が家の中に入り、家事に時間をとられなくなり、夫は仕事が忙しく、地元から離れ、日本は中流階級化し、母親一人で子育てしいるといった急激に社会が変化していった時代でした。自分の夫の仕事や収入、子どもの学歴や就職先が、母親としての成果として評価され、母親の子どもへの過干渉が増えていた時代でした。そういった影響が私達に影響し、私達の年代の子育てに影響を与えたのかもしれません。そして、今の少子化や育児困難感に繋がっているようにも思います。

これからの時代は、家族だけに子育てを任さるのではなく、社会全体が、子ども・子育て家族を支援していくことが、大切なのだと思います。適切な養育環境で、心身ともに健康に育っていき、大人になることが、幸せな家族を持ちたいという思いに繋がり、良い親子関係に繋がり、子どもがいる社会が幸せだと、みんなが思える社会になっていくと思います。

子どもの笑顔が街に溢れる社会になりますように。



医の倫理

2023年5月20日日本臨床アロマセラピー学会に出席してきました。
『これからの社会と医のあり方について』大分大学医学部医療倫理学講座教授 今井浩光先生の講演は、医療者としての姿勢をもう一度考え直す興味深い内容でした。
人の命を預かる医療者の倫理観は、とても大切なものですが、時代とともに、変化し課題も浮かび上がってくるものです。

医の倫理規範の大きな流れとして、1948年世界医師会総会で採択されたジュネーブ宣言があります。その骨子として
1. 人類への奉仕が医師の使命である
2. 医の目的は患者の健康である
3. プライバシーへの配慮を行う
4. 平等な診療を行う
このように、患者個人に対するものと、社会・集団に対するものとが必要であることがわかります。

ナチス・ドイツにおける非倫理的な人体実験を受けて、臨床研究倫理についての1964年ヘルシンキ宣言があります。命を助ける医者でありながら、人類への奉仕という名目で、非倫理的でヒトとしてありえない人体実験が行われていました。ヒト対象試験の必要性を認めながら、被検者の人権を最大限に保護すべきことを謳い、医学研究の倫理性を確保するための規範を示しています。現在は、臨床研究における倫理審査は絶対となっています。
研究計画書の作成、倫理審査、文書同意、被検者リスクの最小化、社会的弱者への配慮、プラセボ使用の是非などが記載されています。

1979年医療倫理の四原則が、医療実践の指針として提唱されました。
1. 自己決定の尊重(Autonomy)患者自身の意思決定を尊重しましょう
2. 善行(Beneficence)患者の利益のために行為しましょう
3. 無期害(Non-maleficence)患者に害を与えないようにしましょう。
4. 公正(Justice)限りある医療資源を公正に配分しましょう。
しかし、この四原則の何を大事にするかで、葛藤が生じることがあります。
例えば、大きな災害で、沢山の患者が医療現場に運ばれてきた時には、誰を優先的に治療するか、トリアージする必要があります。限りある医療資源を最大限に効率的に提供するためには、誰を重点的に治療するかを決定しなければならず、患者個人の利益のために治療行為を行えないことがあります。
例えば、輸血拒否をする患者がいます。輸血すれば助かる命でも、患者自身の意思決定を尊重すれば、最善の治療をすることができなくなり、命を落とすことになります。
今回のコロナ禍でも、コロナ陽性者を全員病院へ入院させることはできず、自宅療養中に亡くなる人もありました。クラスターになれば、患者の自由を奪い、病室に隔離しなければなりませんでした。死に直面する場面でも家族が面会することもできませんでした。
医療者は、このようなジレンマのなかで、様々な倫理的葛藤に苦しみます。

1981年のリスボン宣言では、「医師、患者、社会一般という3者間の関係は近年著しく変容して来ている。医師は常に自己の良心に従い、患者の最善の利益のために行動すべきであるが、患者の自律と公正な処遇を保障するためにも同等の努力を払うべきである。」とうたわれています。 
患者の権利を明確化し、自発的同意、知る権利、拒否権、苦痛緩和、健康教育などとともに、尊厳のうちに死ぬ権利についても記されるようになりました。癌の告知、ホスピスなど、どのように死を迎えるかについて、本人の意思が尊重されるようになってきました。

最近では、アドバンス・ケア・プランニングという患者・家族が医療・ケアスタッフと相談しながら、医療に関して意思決定していくプロセスが必要となってきています。本人の価値、人生観、死生観、信仰、信念、人生の目的等が共有され、診断と治療の選択肢、予後の情報も共有され、本人の治療計画が共同で作成されます。作成後も相互のやり取りに沿って必要な見直しが行われます。「説明と同意」から「情報共有を経た同意」へと変わってきています。

時代とともに、医の倫理は少しずつ変わってきていても、いつの時代でも、医療(者)に求められるもの、それは、「考え、教える」理性と「感じる、気づく、伝える」感性なのでしょう。
臨床倫理の一つの定義として、地域医療に貢献していた日本の白浜医師は、「日常診療の場において、医療を受ける患者、患者の関係者、医療者間の立場や考えの違いから生じる様々な問題に気が付き、分析して、それぞれの価値観を尊重しながら、関係する者が納得できる最高の解決策を模索していくこと」と述べています。

医療現場だけの問題ではなく、倫理感というのは、とても大切です。地域・社会の中でも、様々な課題に対して、個の「自律」「尊厳」を大切にしながら、関係する者が納得できる最高の解決策を対話しながら模索する。このことができれば、『戦争』という手段で解決することが、世の中からなくなるのではないかと思います。

産婦人科医人生を振り返って

医師になってから、30年以上が過ぎ、産婦人科医としてベテランという年齢になりました。私が、産婦人科を選択したことを振り返ってみました。

私たちが卒業した当時は、今と違って、卒業と同時にどの科の医師になるかを決めて、大学の医局に入って、研修をつんでいくことが一般的でした。
卒業時に産婦人科に進むことを決めたのは、出産という一番幸せなことに立ち会える仕事であること、そして、女医がまだ少なかった時代に、女性の一生に寄り添うのは女性医師でしょ、と思ったからです。一般的な産婦人科臨床を学び、研究をして論文を書き終えた後、もう一度これから自分のやりたいことは、と考えたところ、分娩を取り扱う産婦人科開業医としての道を選ぶことにしました。

人は生きている中に、妊娠・出産があり、思春期・性成熟期・更年期・老年期という身体の変化があり、どの人も生活している中に、自分の身体の不調があり、それに寄り添っていける医療者となりたい、それには、一次診療を担う開業医だと思いました。命を救ったという医師の仕事も重要な仕事だけれど、そうならないための予防や健診、ちょっとした不調の改善、心身ともに健康に過ごせるための治療やアドバイスをしていくことが、私の興味のあるところで、ずっとやっていきたい仕事でした。赤ちゃんが生まれることは、人生のスタート。そのスタートが一番大切だと思っているので、出産という24時間待機の仕事は大変ですが、その現場に関われることに、今でも誇りをもっています。

開業医の院長というのは診療に対する責任が大きく、スタッフをまとめていくこと、経営を考えていかなければいけないこと、少子化という自分自身ではどうにもならない社会情勢など、勤務医と違う心労は多々あります。もし勤務医として仕事を続けていたら、休みもとれて、もっと楽な医師人生を送れたのではと思うこともあります。開業医として、プライベートな時間がほとんどなく、仕事中心の生活で、もっとゆとりをもって長期休暇がとれる人を羨ましく思うこともありますが、今までの人生を後悔はしていません。私には、この道があっていたと思っています。

最近、自分の将来をどのように進んでいけばいいか迷っている若い先生達とお話をすることがあります。医療が専門性に細分化されていくなか、自分はどのような方面に進んでいけばいいのか。医師のなかでもライフワークバランスを重視する人も多くなり、自分の医師としてのモチベーションをどのように維持していくか。妊娠、産休、育休、時短などで思うように仕事ができなくブランクがある状況で年齢相応のキャリアが積めていない不安。医師の働き方改革がこれから進み、自分達の収入の問題。借金をして開業するという院長としての重責を担う仕事はしたくない。楽をしてお金を稼ぐには・・・。若い頃には、色々な心の迷いがあると思います。
4月からは、妊娠・子育てで、思うように働くことができていなかった女医さん2名が女性医療を学びたいとアルバイトに来てくれることになりました。女性の場合、子どもがほしい、子育てもしっかりしたい、子どものための時間も作りたい、夫との仕事の役割分担など・・・。色々悩みながら、自分のキャリアを積んでいく悩みやしんどさが痛いほどよくわかります。先輩医師として、自分の道を模索している状況を少しでも応援できたらと思います。

人生はどんな時期でも、自分の進む道を迷いながら選択して進んでいきます。自分の望んでいた道ではないこともあるでしょう。「もしあの時〇〇だったら、自分の人生はどうなっていたのだろう・・・」と思うこともあると思います。自分の選択を後悔するくらいなら、自分の選択は正しかったと思えるように、自分が努力する。その努力の積み重ねが、若い時に思い描いていた道ではなくても、自分の人生幸せだったと思える未来に繋がっていきます。
今の時代、先がみえない不安で、押しつぶされそうになることも多々あると思いますが、自分のやりたい気持ちを信じて、前へ進んでいきましょう

高校生へのメッセージ

津東高校1年生の課題探求「自分らしくプロジェクト」の授業が終了しました。外部メンターとして参加し、今の高校生と話しをする貴重な経験をさせていただきました。私から伝えたいたい課題探求の方法を、授業の始めに生徒達にお話しすることができ、楽しい時間でした。仕事のため、残念ながら毎回参加することはできませんでした。各クラスから選出された生徒の最終の発表の授業にも参加きませんでしたので、私から生徒の皆さんへメッセージを送りました。

『皆さん、今回の発表、課題探求の授業はいかがでしたか?
2月の最後の授業は参加する予定でしたが、出産の人がいて、参加することができませんでした。とても残念でした。
その授業で、皆さんに伝えたかったことをお話します。クラスで発表者を決める日でしたので、発表することの大切さを伝えたいと思っていました。

人の前で、自分の意見を言うことは、緊張しますし、とても勇気がいります。自分の中でハードルが高いと感じる人も多いと思います。
なぜでしょう?「正しい事を言わないといけない」「間違っていたら恥ずかしい」「みんなと違う考え方だと、変な人だと思われる」「自分の意見なんて価値がない」「自分は話すのが下手だ」など・・・色々なことが頭によぎると思います。
でも、自分の思っていることや意見は、口に出して言わないと、誰もあなたの思いを理解することはできません。世の中には、100%「正しい答え」、「間違った答え」はありません。特に今の時代は、何が正解なのかわからない時代になってきました。多様性の時代で、一人一人違った考えをもっていて良い時代となってきました。一人一人が尊重される時代になってきました。親や先生の言うことは、時代遅れのことが多々あります。だから、自分で考えていくことが大切なのです。自分の考えを口に出していうことが大切なのです。

人前で発表する時は、人に自分の考えを伝えられるように、自分の頭の中で、考えを整理していかなければなりません。発表の資料を作るために、何度も何度も修正を繰り返します。その過程で、自分の考えが深まり、自分に足りないところも見えてきます。新たな課題も浮かび上がってきます。発表の準備のために使った貴重な時間は、きっと、あなたの未来の大きな肥やしになるでしょう。

発表の時には、聴く側の態度も大切です。勇気をもって発表した人に敬意を払いましょう。自分の意見と違っても、まずは、その人の意見を尊重しましょう。しっかり人の意見を聴くことで、自分のヒントになることが沢山あります。沢山学べることがあります。聴く側が、発表者に意見を言う時も、非難したり、批判するのではなく、相手の発言を尊重しながら、自分の意見を述べましょう。日頃から、そのようにお互いの意見を交換することで、そのチームのレベルは格段に上がっていきます。

私自身も、診療をしながら、患者さんの最善の治療をするために日々課題探求をしています。そして、チームとして最高の医療を提供できるように、スタッフと対話し、勉強会をしています。
皆さんが、こらからも たのしく課題探求しながら、充実した高校生活を送られることを願っています。がんばってください。』

人は、常に課題探求をしながら、日々前に進んでいると思います。自分の関心のあること、興味のあること、疑問に思うこと、上手くいかなかったことに対して、調べたり、教えてもらったり、話し合ったり、勉強したり、研究したりして、それを実行しながら、前に進んでいきます。若い人達には、パワーがあります。怖がらずに日々課題探求しながら、成長していってほしいと思います。
そして、大人も様々なことに関心をもち、課題探求をしながら、世の中が良い方向に進むように努力していきたいものです。

パパのベビーマッサージ 2023

2023年3月5日に津市子ども支援課主催のパパのベビーマッサージ教室が開催されました。コロナ禍で中止されていましたが、4年ぶりの久しぶりの開催となりました。

ヤナセクリニックが津市のベビーマッサージ教室の講師をさせていただいてから随分の年月がたちます。赤ちゃんにとっては肌からの刺激、五感を通した親とのコミュニケーションはとても大切だと思い、最初はママ向けへのベビーマッサージ教室を津市の様々な場所で開催しました。参加者が多い時も少ない時もあり、日曜日にわざわざベビーマッサージ教室に参加しなくても、という感じもありました。
その後、つながりひろば事務局の高田短大が主になって親子支援事業が開催されました。これからの時代は、パパも子育てに参加してもらわないと、ということでパパのベビーマッサージ教室が開催されました。パパは、赤ちゃんとベビーマッサージ、ママは、ママ同士で茶話会という形式で数回開催されました。その当時のママは、茶話会に参加せず、買い物に出かけてしまうママもいました。パパはママに遠慮している感じで、パパ同士の座談会では、ママを怒らせないようにしている、ママが細かいことでイライラしているので、なるべく自分はおおらかにしている、ママの手伝いをなるべくできるようにしている、という話しが出ていました。この時のパパ達は、赤ちゃんの扱いに慣れていて、家でも子育てを手伝っているのだろうと思わせる、その当時では優秀なパパ達だったと思います。

今回、コロナ禍を経てのパパのベビーマッサージ教室は、ママもパパも随分変わってきているように思いました。赤ちゃんがママから離れて、パパと一緒に部屋に入ってきても、泣き叫ぶ赤ちゃんはいませんでした。「ぞうきんの歌」でのウォーミングアップでは、パパも一緒に声を出して歌いながら、赤ちゃんと一緒に楽しそうに触れ合っていました。ベビーマッサージでの赤ちゃんの服の脱ぎ着も赤ちゃんを泣かせずにやれています。マッサージの時は、動き回る赤ちゃん、泣く赤ちゃんにも落ち着いてパパは対応していました。
パパ同士の座談会では、ママを手伝っているというより、ママと一緒に子育てを楽しんでいる感じが伝わってきました。自分が仕事をしている間、ママが二人きりで子育てをしてくれていること、ごはんを作ってくれていること、お弁当をつくってくれていることに心から感謝していました。「ありがとう」の言葉をママに伝えていました。赤ちゃんの成長をみることが本当に楽しいと言っていました。
 パパの教室後アンケートから
〇周りのお父さん達の状況を知れて良かった。
〇赤ちゃんと触れ合えて楽しかった、幸せな気持ちになった。
〇普段はお昼寝しにくいけど、マッサージ後はすぐ寝たので、今後もやっていきたい。
〇普段、このような交流や繋がる機会がないので、楽しい時間を過ごせました。
〇2人目ということで、触れ合いが非常に少なくなっているように感じていたので良い機会でした。すごく楽しかったです。他のお父さんの話もおもしろかったです。
〇良い機会でした。自分だけが悩んでいるんじゃないんだなと思えた。
〇ほかの赤ちゃんがいる環境に、子どもが触れさせることができた。
パパにもパパ同士の交流で気づくことは沢山あるなと感じました。

ヤナセクリニック内でのベビーマッサージ教室は、15年以上続けていますが、ずっと人気の教室です。同じような月齢の赤ちゃんをみることで、赤ちゃんの発達がわかったり、子育てを悩んでいるのは自分だけじゃないんだと元気をもらえたり、少し先輩のママさんから子育ての方法を教えてもらったり、保育士さんから色々なアドバイスをもらったり、ママ友ができたり・・・ずっと続いている楽しい教室です。赤ちゃんだけでなく、ママ達にとっても癒しの時間です。

社会は、大きく変わってきました。パパの立会い出産が普通。男性育休を取得するパパが増えてきました。共働きが一般的になってきています。パパとママが協力して子育てをするのが当たり前になってきました。仕事に復帰するまでの育休の間の子育て期間を充分に楽しみたい、仕事は復帰して社会と繋がっていたいというママが多くなりました。
「子育ては大変」「自分のやりたいことができなくなる」という雰囲気から、「子育ては楽しい」「子育ては自分を成長させてくれる」という世の中になってきてほしいと思います。今回のパパのベビーマッサージ教室をみて、希望の光が見えてきたように思います。
「子育ては楽しい!」と思う家族がどんどん増えてきてほしい。子どもは未来を運んできてくれます。子どもが増え、明るい未来がみえる社会になっていくことを願います。


プロフィール

柳瀬幸子(やなせさちこ)
産婦人科医。三重大学医学部卒業後、三重大学大学院医学研究科博士課程修了。
ヤナセクリニック院長として多くの命の誕生に立ち会う中、女性のライフサイクルに応じた幅広い医療の提供、お母さんと赤ちゃんに優しい出産、妊娠中から育児中を通してのサポート、育児支援に力を入れている。著書に「地球(ここ)に生まれて」、共著に「効果テキメン! アロマ大百科」など



電子ブック・柳瀬幸子の
「地球(ここ)に生まれて」 柳瀬幸子の地球に生まれて
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