第88回高校サッカー選手権栃木大会決勝 栃木県グリーンスタジアム 11月14日
白楊 0−1 矢板中央
得点:中田充樹(後38分)

■不運な決勝ゴール
後半38分、矢板中央に生まれたゴールは、白楊にとって不運とも事故的ともいえる失点だった。
白楊守備陣が自陣ゴール前でクリアする瞬間、矢板中央10番・中田充樹の振り抜いた左足の軌道にボールが重なった。白楊・GK中田亮の不意を突くタイミングで、緩やかな軌道を描いたボールは、そのまま白楊ゴールの左隅に吸い込まれた。
矢板中央の攻撃は、長身ポストプレーヤー10番・中田充樹が中心。後半頭から長身の25番・石井涼斗を投入し、前線をツインタワーに変えてボールの収まりどころを二つに増やした。それでも白楊のDFラインは主将4番・小菅佑紀を中心に落ち着いた対応を見せていた。
堅い守備から速攻。それが今年の白楊のスタイル。
スピードスター9番・関敏史は前半から執拗なマークと中盤とのサンドイッチに苦しめられ、思うように前線での仕事を果たせずにいた。だが後半、矢板中央が攻撃の圧力を高めたことに加え、時間の経過とともにできた中盤のスペースをうまく利用し、徐々に白楊のカウンター攻撃の中心として機能し始めていた。左サイドの8番・臼倉翔太がオーバーラップする機会が増え、10番・渡邊陽太や11番・小田切南斗が流動的に自由に動き始めたことで攻撃が活性化。フィニッシュの精度さえあれば先制ゴールを奪える展開まで試合を持ち直していた。
「決めるべきところで決めなければこうなる。失点シーンは、クリアボールが相手の10番に当たって入ったんだと思う。不運な面はあったと思うが、でも、それも含めてゲームだから」(白楊・只木章広監督)
「ポストプレーだけでなく、前線からのチェイシングも意識していた」(矢板中央10番・中田充樹)
「あいつは最後の最後に点をとってくる。目に見えない力がある選手」(矢板中央・高橋健二監督)
白楊にとってはプラン通りのゲーム展開だった。前半30分に与えたペナルティーも「準々決勝の真岡戦のPK合戦でも止めていた。自信があったと思う」と只木監督が言うように、GK中田亮が相手キックを読み切り、冷静なセーブで最大のピンチを切り抜けていた。後半は堅い守備から速攻。本来の白楊サッカーを披露していただけに、後半38分の矢板中央の決勝ゴールは、思いもよらない不運な失点だった感が否めない。
「力は十分に出した。悔いはない。勝負は勝負」と只木監督は前を向いたが、目は少しだけ赤く、目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。
今年のチームは、真岡にも矢板中央にも勝っていなかった。昨季王者ではなく、挑戦者の意識が強かった。それでも、
「選手権という舞台は別物。うちの選手も去年経験しているし、勝たせてあげられなかったのは、本当に生徒に申し訳なく思う。あの舞台を踏むのか、踏まないかでは生徒の将来にとって全然違うから」
勝てば2年連続5度目の優勝。そして再び全国の舞台へ――。その夢は、昨年の決勝と同じ相手、矢板中央に雪辱され、ついえた。
ロッカールームから出てきた主将・小菅佑紀は、それでも、晴れ晴れとした表情で、
「失点は不運なところもあったと思うし、力は出し切ったから、悔いはありません」と話したが、「ただ……」とこう付け加えた。
「監督はすごく熱い人。練習も厳しいだけじゃない、気持ちが伝わってくるし、みんなその気持ちを受け止めていた。何を考えているか、みんながわかっていました。だから、監督をまた全国の舞台に連れて行ってあげたかった」
小菅が1年のとき、ミスター栃木SCと呼ばれ、アマチュアトップ選手だった只木章広は、栃木SCから離れた。2007年シーズン終了後、クラブが将来のJ入りを見据えて、すべての選手のプロ化に踏み切ったからだ。白楊高校保健体育科教諭の只木や、その他のアマチュア選手はチームを去らざるを得なかった。只木は同級の堀田利明らとともに県内のクラブチーム・ヴェルフェ高原那須に選手登録をした。だが、試合出場は果たしていない。
その時から只木は、それまで栃木SCとの兼務で全力を注げなかった白楊高校サッカー部の監督業に、そして、グラウンドを度々留守にしていたにもかかわらず、ずっと慕ってくれる教え子たちの育成に心血を注ごうと決心していたのかもしれない。小菅に今の只木監督の印象を聞くと、
「僕たちのことをすごく良く考えてくれているのがわかるし、何だか監督という感じがしないんです。もっと温かくて、近い存在というか…」
実質的に選手を引退し、生徒たちの指導に専念している只木監督にその話を向けると「今は生徒にすべてを注いでいます」と少しだけ笑みを覗かせた。
「僕がやれることは選手を引っ張って来ることではなく、選手を育てること。どの選手にも可能性はいくらでもあります。国体に選ばれていないとか、どこに選抜されていないとか、そんな事は関係ない。うちにはそういう選手はいないけど、今日の決勝でも十分にやれるレベルまで上げられている。いくらでもやれるんです。だからこそ、選手権の舞台を踏ませてあげたかった」
教育者、只木章広――。
ミスターの情熱は、形を変えて、生き続けている。
鈴木康浩
白楊 0−1 矢板中央
得点:中田充樹(後38分)

■不運な決勝ゴール
後半38分、矢板中央に生まれたゴールは、白楊にとって不運とも事故的ともいえる失点だった。
白楊守備陣が自陣ゴール前でクリアする瞬間、矢板中央10番・中田充樹の振り抜いた左足の軌道にボールが重なった。白楊・GK中田亮の不意を突くタイミングで、緩やかな軌道を描いたボールは、そのまま白楊ゴールの左隅に吸い込まれた。
矢板中央の攻撃は、長身ポストプレーヤー10番・中田充樹が中心。後半頭から長身の25番・石井涼斗を投入し、前線をツインタワーに変えてボールの収まりどころを二つに増やした。それでも白楊のDFラインは主将4番・小菅佑紀を中心に落ち着いた対応を見せていた。
堅い守備から速攻。それが今年の白楊のスタイル。
スピードスター9番・関敏史は前半から執拗なマークと中盤とのサンドイッチに苦しめられ、思うように前線での仕事を果たせずにいた。だが後半、矢板中央が攻撃の圧力を高めたことに加え、時間の経過とともにできた中盤のスペースをうまく利用し、徐々に白楊のカウンター攻撃の中心として機能し始めていた。左サイドの8番・臼倉翔太がオーバーラップする機会が増え、10番・渡邊陽太や11番・小田切南斗が流動的に自由に動き始めたことで攻撃が活性化。フィニッシュの精度さえあれば先制ゴールを奪える展開まで試合を持ち直していた。
「決めるべきところで決めなければこうなる。失点シーンは、クリアボールが相手の10番に当たって入ったんだと思う。不運な面はあったと思うが、でも、それも含めてゲームだから」(白楊・只木章広監督)
「ポストプレーだけでなく、前線からのチェイシングも意識していた」(矢板中央10番・中田充樹)
「あいつは最後の最後に点をとってくる。目に見えない力がある選手」(矢板中央・高橋健二監督)
白楊にとってはプラン通りのゲーム展開だった。前半30分に与えたペナルティーも「準々決勝の真岡戦のPK合戦でも止めていた。自信があったと思う」と只木監督が言うように、GK中田亮が相手キックを読み切り、冷静なセーブで最大のピンチを切り抜けていた。後半は堅い守備から速攻。本来の白楊サッカーを披露していただけに、後半38分の矢板中央の決勝ゴールは、思いもよらない不運な失点だった感が否めない。
「力は十分に出した。悔いはない。勝負は勝負」と只木監督は前を向いたが、目は少しだけ赤く、目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。
今年のチームは、真岡にも矢板中央にも勝っていなかった。昨季王者ではなく、挑戦者の意識が強かった。それでも、
「選手権という舞台は別物。うちの選手も去年経験しているし、勝たせてあげられなかったのは、本当に生徒に申し訳なく思う。あの舞台を踏むのか、踏まないかでは生徒の将来にとって全然違うから」
勝てば2年連続5度目の優勝。そして再び全国の舞台へ――。その夢は、昨年の決勝と同じ相手、矢板中央に雪辱され、ついえた。
ロッカールームから出てきた主将・小菅佑紀は、それでも、晴れ晴れとした表情で、
「失点は不運なところもあったと思うし、力は出し切ったから、悔いはありません」と話したが、「ただ……」とこう付け加えた。
「監督はすごく熱い人。練習も厳しいだけじゃない、気持ちが伝わってくるし、みんなその気持ちを受け止めていた。何を考えているか、みんながわかっていました。だから、監督をまた全国の舞台に連れて行ってあげたかった」
小菅が1年のとき、ミスター栃木SCと呼ばれ、アマチュアトップ選手だった只木章広は、栃木SCから離れた。2007年シーズン終了後、クラブが将来のJ入りを見据えて、すべての選手のプロ化に踏み切ったからだ。白楊高校保健体育科教諭の只木や、その他のアマチュア選手はチームを去らざるを得なかった。只木は同級の堀田利明らとともに県内のクラブチーム・ヴェルフェ高原那須に選手登録をした。だが、試合出場は果たしていない。
その時から只木は、それまで栃木SCとの兼務で全力を注げなかった白楊高校サッカー部の監督業に、そして、グラウンドを度々留守にしていたにもかかわらず、ずっと慕ってくれる教え子たちの育成に心血を注ごうと決心していたのかもしれない。小菅に今の只木監督の印象を聞くと、
「僕たちのことをすごく良く考えてくれているのがわかるし、何だか監督という感じがしないんです。もっと温かくて、近い存在というか…」
実質的に選手を引退し、生徒たちの指導に専念している只木監督にその話を向けると「今は生徒にすべてを注いでいます」と少しだけ笑みを覗かせた。
「僕がやれることは選手を引っ張って来ることではなく、選手を育てること。どの選手にも可能性はいくらでもあります。国体に選ばれていないとか、どこに選抜されていないとか、そんな事は関係ない。うちにはそういう選手はいないけど、今日の決勝でも十分にやれるレベルまで上げられている。いくらでもやれるんです。だからこそ、選手権の舞台を踏ませてあげたかった」
教育者、只木章広――。
ミスターの情熱は、形を変えて、生き続けている。
鈴木康浩



