「秋の気配」きのこの和菓子。

きのこ

親のその又前の代から菓子屋をしているので、道具は揃っている。
製造の機器は使うことによって経年劣化とかがあるのだけれど、
道具を使い切るというのはあんまりないような気がする。
それでも、落雁に使った「木型」は冗談ではなく500組くらいあった。
戦後間もない頃は、甘いものが不足していて落雁も飛ぶように売れたという。
二三十㌢もある大きな木型がダンボール箱にぎっしり詰めて倉庫に置いてあった。
父親はもう二十年以上前に他界したし、わたしに和菓子を教えてくれた叔父さんも退職した。
「こんな大きな木型はもう使うこともないだろう」。
と、ざくざくと処分した。
残りはそれでも100組くらいはあるだろうか?
見栄えのいいものは店頭で飾った。実用で毎年使うのはせいぜい20~30くらいかな。
「抜き型」もたくさんある。
こちらは、金属製で小さいから一つも処分することなくそのままある。
これまた、数も数えたことはないけれど100個以上はある。
ほかにも、様々な製菓道具があり、自分で買わなくてすんだのは恵まれた環境といえるだろう。
次の季節のデザインを考えるとき、これらの道具を取り出して眺める。
「…おお、こんな型があったのか!」。
自分で選んで購入したものではないので発見がある。
こころはすでに秋にあり、頭の中はそのことでいっぱいだ。
道具箱の中を見ていたら「きのこ」の抜き型を見つけた。
いままでに、一度も使ったことのないものだ。
「よし、これで秋の和菓子をつくろう」。
きんとんで「秋の気配」とでもしようか。
注目してほしいのはきのこの色合いだ。
色が微妙に変化している。何度も重ねて単一でない彩にした。
手間暇かけて、作りました。梅雨が明けて、お盆が過ぎたころに販売をはじめようか。

「銀河」星の和菓子。


別るるや夢一筋の天の川    漱 石 


銀河

「銀河」「天の川」「星河」「銀漢」。
これらは秋の季語になる。
地平線と水平になって天頂に来るのでとくに目立つ。
冬のように澄んだ空ではなくとも、光害(ひかりがい)のない郊外に行けば晴れていればいつでもみえる。
体調が悪かったのだろう、酒を飲まなかった真夜中。
一人スクーターで小川村のプラネタリウム館を訪ねた。
「満天の星」。
しばらくは夜空を眺め、持参した双眼鏡を覗く。
「人は死ぬと星になる。あの星のなかに探す人の星が必ずある」。
たぶん、山本周五郎の「正雪記」の中にあった言葉だと思う。
星降る、山の中ひたすら天空を見上げた。
わたしにはテレパシーなどの精神観応能力がないのだろう。
亡き妻の星は見つけられなかった。涙で星が見えない。
やがて、明けの明星が姿を現し始めた。

その時の天の星空の夜空の星星と大地のあいだにいた、幾時間かの感動を和菓子で表現してみたい。
毎年、天の川の季語の季節になると、その夜のことを思い出す。
だから、という訳で、毎年のように「天の川」という菓銘の和菓子をつくっている。
大納言の小豆は夜空だ。
よくは見えないがうす青い錦玉羹を川のように載せてある。
いつもは、氷餅だけでやめてしまうのだが、今回は4種類も載せてみた。
どうだろう、昨年のものとは全然違う。
大納言小豆でつくった、鹿の子菓子「銀河」八月より販売します。




「蝶になる」叔父さんの小説。

IMG_8030

2016年7月20日発行の連作小説集ともいうのでしょうか。
『蝶になる』 教壇を去って創った小説 五編
が、郵送されてきました。
著者の山本秀行は、わたしの叔父さんです。
初の著作「ひとつぶのあめ玉」から二十年ぶりとのこと。
一番最初の読者になろうと、読み始めました。
「幼女の悲鳴」
「次女の選択」
「蝶になる」
「壱番館の夜」
「これから」
の五編の小説が収められています。

長野市に住む村松家の家族の物語。
高校生「恵」のBildungsromanつまりは教養小説にも読め、
祖母「雪江」の認知症での社会小説にも読める。
「大作」「次郎」親子が教師であることからの、或る意味学園小説とも。
重層的な家族を的確に描き分けているのは、これはさすがというのもおこがましいばかりです。
「恵」が演劇に開眼する描写には、唸りました。
でも、ただ感動体験をしたというだけではない心の動きまで描いたことに深さを感じました。
人物もそれぞれがくっきりと描かれ、おのおのの持つ出自から性格まで過不足なくわかります。
ただ、わからないのは高校生の心理を、かように活写できたのは不思議でなりません。
わたしの子供ももうとっくに学生時代は過ぎて、今はその時代のことを思い出そうにも思い出せない。
わたしより20歳上の叔父さんが、なぜ女子高校生の心を読むことができるのか?
それと、全部の小説の終わりかたがきれいで、残像が目に焼き付きました。
この小説が多くの人の目に触れることを願っています。




livedoor プロフィール
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ