きんつば

和菓子をつくる日々。(きんつば篇)

003

たまには、和菓子のはなしもしてみたい。
毎日散歩のことばかりで、いささか辟易しているかたもいるだろう。
「お店のお菓子でなにが一番のお薦めですか?」。
ときどき、尋ねられることがある。先月まで行われていたご開帳のときも、わずかではあるが長野県外らしいかたもお見えになった。
地元のかたは「石童丸という最中はかるかや山の故事で有名です」。
などと言わなくても、ちゃんと知っている。
でも、これは100%朝日堂製という訳ではない。最中の種というか皮は専門の業者に頼んで作ってもらっている。中につめる「あん」は朝日堂でつくるけれど。
その点、画像の羊羹舟に流してある「きんつば」は、中のあんから皮まですべて手造りだ。
あんを作る作業に三日かかる。
まず、小豆をよく洗い、ごみなどをとりのぞく。
一晩水につけてから、煮始めるのだが、これがまぁ時間もかかり、気のぬけない作業が続く。
小豆の芯を感じないように、しかし全体がふっくらと。
皮は割れずに、つややかに。
文字にすればこんなもんだが、作業は緊張する。
もし、失敗すれば二枚分150個分がパアーだ。
さらに、砂糖を加えもう一晩寝かす。
翌日、適当な大きさに切ってから、皮の生地をつけて6面を焼く。
「きんつば」は通年販売しているので、四季を問わずつくる。
そのときの温度や湿度の変化で微妙に豆の煮かたも変化させる。
言葉では伝えられない、豆の様子を見ながらの製餡作業だ。
自分の思い通りに作業が進むと、素直にうれしい。
失敗すると、その夜まであとを引く。
いずれにしても、小豆を見守っているときが、和菓子屋の仕事を実感する一瞬だ。

ああ、同じ味なのに。「きんつば物語」。

005

今日は早朝から「きんつば」をつくりました。
この前、知人から、
「東京で評判のきんつばなんだ、参考になると思って買ってみたヨ」。
と、いただいたことがある。
さっそく、がぶりと食べた。
「…!…」。
大きさこそ違え、朝日堂のきんつばとほとんど同じ味がした。
中の小豆の塩梅といい、皮の砂糖の配合といい、
全然知らない、東京の菓子屋さんに愛着を感じた。
でも、と、思った。
「東京で評判で随分と売れているきんつばと、ほぼ同じ味なのに、朝日堂のきんつばは、
長野でも、評判でずいぶんと売れているという事実はない」。
この差はなんだろう?
くどくて、申し訳ないが、きんつばは手間のかかる菓子だ。
小豆をよく洗い、一晩寝かせて次の日に寸胴鍋で煮る。
固すぎもしないで、かといって軟らかすぎず、ちょうどいい具合に煮るにはそれなりの技術が必要だ。
砂糖の入った液に煮た小豆を投入して、また一晩寝かす。
寒天とかを入れてまた、練る。羊羹舟に流して冷めるのを待つのにまた一晩。
羊羹舟から取り出し、切り分けてから、一つひとつ、ご覧の一文字鍋の上で六面を焼く。
端をそろえてから、包装する。
豆を洗うところからだと、四日もかかる。
こんなに手間ヒマかけてつくって、しかも、自分ではかなりおいしいと感じているのだが、
現実には、
「売れて売れて、製造が間に合いません」。
ということはない。
うれしい悲鳴をあげてみたい。

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松田 聖次

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