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 朝鮮で5年ぶりに「アリラン」が再開されるようです。

 初回は2002年の日韓ワールドカップの年で(W杯に対抗してやるぜ!的なノリもあったのかなかったのか)、そこから再開と中止を繰り返しながら断続的に行われてきました。同僚も「アリラン奉仕隊」として朝鮮に数ヶ月飛ばされるなどしていましたね。

 私もアリラン公演を普通席で2回、VIP席で1回見たことがあります。生で見るのと映像はやはり違いますね。特にあの一糸乱れぬマスゲームを目の当たりにすると、言葉を失うでしょう。

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                 (手書きの「一等席」案内)

 
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                  (ここが貴賓席です)
 
 さらにこのアリランには超レアな「将軍様ご登場回」というものがあります。

 以前、訪朝した際の話です。

 その日の朝、訪朝団のリーダーが「えー、突然ですが今日はアリラン公演を参観します」と述べました。
 そして男子はスーツ、女子はチマチョゴリかスカートの正装で来るようにと命じられたのであります。

 公演を見るだけなら正装じゃなくても良いはず。
 特に女子は「絶対ズボンを履くなよ」と念を押されたため、もしかして金正日総書記が来るのではないかという話で持ちきりになりました。
(当時、首領関係の行事においては女性がズボンを履くのは失礼であるという社会通念が根強かったのです)

 しかし、そこでいつもタイミングが悪い私。
 前日にスカートを汚しホテルの洗濯に出していたので、ズボンしか持っていなかったのです。チマチョゴリも、最初から持って来ていません。

 仕方なく、しれっと一人だけズボンを履き、髪の毛も当時はショートカットだったので「まあ男に見えてごまかせるんじゃね?」と希望的観測をもって観光バスに乗り込みました。

 しかし、会場となる「5.1競技場」(メーデースタジアム)に着いてバスを降りると案の定、案内員が慌てふためいた様子で歩み寄ってきました。

「ちょ、なんでズボン履いてるの? 着替えて来い!」

 もう会場着いちゃってるのに何言ってんだこの人は……こうなったときの、朝鮮人民はもう止めることができません。

私「いやいやスカートはホテルの洗濯に出しちゃってて」
案内員「だったら今から買って来い」
私「わかりましたけど、どこに売ってるんですか」
案内員「知らんけど買って来い」

 無理があるとわかっていながらも、意地になったのか強硬に主張を崩さない案内員。こちらがズボンを脱いでパンツ一丁で参加するか、案内員がどうにかしてあと数十分以内にスカート売り場に私を連れていくか、究極の選択が迫られたのであります。
 ちなみにこういうエピソードから現地人の性格を少しでも読み取って頂けると今後の日朝関係のためになるかな……とも思いますね。もちろん、全員に当てはまるわけではないですが。
 結局、パンツ一丁で参加させるわけにはいかないのか、案内員が折れて入場することができました。
 まあ、さぞかし厄介な在日来たなあと思われたことでしょうな……

 5.1競技場は15万人収容ですが、客席を半分マスゲームに使っているので、観客はおよそ数万人といったところでしょうか。
 
 開演まではまだ2時間ほどあったため、我々は、向かいのマスゲーム側の練習を眺めて時間を潰すことにしました。
 開演前にマスゲームが練習する様子も、結構面白いものです。指導者がマイクで一声かけると、数万枚のパネルが魔法のように移り変わっていき、遠くてよく聞こえませんが何やらマイクで叱咤激励している様子も窺えます。

 そんな光景をぼーっと眺めていると、突如「一号歓迎曲」が鳴り響きました。
 
 北朝鮮には最高指導者が公式行事に登場する際にかける音楽があり、そのうちの一つが「一号歓迎曲」です。



 つまり、これが流れる=「総書記が登場した」ということなのです。

 もちろん我々は総書記を生で見たことがありませんし、何だかんだで世界的有名人ご登場ということでもテンションは爆上げでした。単なるミーハーですね。

 「やっぱ総書記ご登場回だったんやないかい!」

 数万人が総立ちになり、一斉に叫ぶ様子は圧巻です。我々も人民たちに倣い、客席から立ち上がりました。

「マンセイエエイェェエエッイッ!!!!!!!!!」

 しかしいくら叫び続けても、一向に総書記は現れず1分が過ぎ、2分が過ぎ……この状態での数分は非常に長く感じられました。
 喉も痛み始め、もうこれだけいるんだったら私一人くらいエアでもいいんじゃないか。すると、司会者が会場に向けて信じられない一言を発しました。

「ハイ、練習おわり」

 どよめく客席。そりゃそうだろ。
 まあ、将軍様が登場するまでのウォーミングアップという意味合いなのでしょう。体を慣れさせておくのは大事だね。

 しかしそれ以降、およそ15分おきに不意打ちで1号歓迎曲が鳴り響いてはウォーミングアップマンセーをさせられ、最後に司会者が一言おちょくるというループが延々と続いたのであります。
 なんとその数6回!

3回目
司会者「練習だと思って手抜きするなよ」

5回目
司会者「また練習だと思っただろ? 練習でーす」

 この司会者の口調は実話です(意訳だけど)。
 この段階で、もはや人民も「マンッ……はいはい(即座る)」とダレた様子を隠そうともしなくなっており、むしろ逆効果なのでは……? そう思い始めた頃、また性懲りもなく歓迎曲が鳴り響きました。
 再び、しぶしぶと腰をあげると……

 遠くに総書記の姿が!
 7回目にして、ようやく本人が登場されたのであります。

 が、しかしその頃にはもう私の喉は機能しておらず……
 ふと、振り向くと後ろには留学同という在日の高学歴エリート学生集団がいたのですが、さすがエリート、思うところが多かったのか全身を打ち震わせながら号泣しマンセー連呼しておりました。
 一方の我々ガテン系クラスタはひたすらデジカメに収めようとする(※撮影禁止)、「本物、すげー、すげー」と連呼するといった一般人丸出しの反応しかできませんでした。
 
 そして不思議なことに、7回もリハーサルさせられると無感動になるかと思いきや逆に興奮度が上がるようです。あくまで自分の場合ですが。
 度重なるフェイントで諦念と疲弊が頂点に達したときに、本人登場することで「ようやく来て下さった、ありがてえありがてえ」といった謎の感謝?と高揚感に包まれるのであります。
 いや〜、なぜですかね……誰か分析してくれ? 

 ともかくアリラン公演、訪朝するなら冷麺の次にオススメ致します。冷麺食べながらアリラン鑑賞できれば一番いいんですけどね。
 訪朝する人などごくわずかだと思いますが、念のため。