ライター安宿緑のブログ/기자 안숙록의 불로그

ライター安宿緑(やす やどろく)。 2000年から現在までの北朝鮮一般市民との交流記録と、最近の仕事や諸々を書いています。 ご連絡はyasgreen21(アットマーク)gmail.comまでお気軽に。





⭐️更新履歴⭐️
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●12月9日(土)、高円寺パンディットで「アラブで最も有名な日本人」鷹鳥屋明さんとのコラボイベントを開催します!

●訪問者(UU)数35万人突破しました。ありがとうございます!(2017.11.1)

●BSスカパー!「BAZOOKA!」に出演しました。(2017.9.24)
●ニコ生「ニポポのニコ論壇時評」に出演しました(2017.9.21〜9.28)
●ネイキッドロフト「緊急開催!もっと知りたい“偉大なる北朝鮮”の裏側inニポロック」に出演しました。(2017.6.12)
●ネイキッドロフト「ゲンバシュギ!! 第10回〜韓国VS北朝鮮のゲンバ!!」に出演しました。(2017.6.8)
●訪問者(UU)数25万人突破しました。ありがとうございます!(2015.2.1)
●BSスカパー!「ダラケ!」シーズン5第一回に出演しました。(2015.1)

●「日刊サイゾー」様で連載開始しました。
「根無し草ライター・安宿緑の『平壌でムーンウォーク』」http://wk.tk/BRCEko
どうぞよろしくお願いいたします。

●65万PV突破&総訪問者数20万人突破しました。(2014.7.12)

●プロフィールを掲載しました。記事一覧の最初に設置してあります(2014.6.12)

●1月30日放送のテレビ東京「解禁!暴露ナイト」に出演しました。番組公式ページから出演時の動画が若干見られます【言うの遅せーよ】(2014.2.3)

●開設70日時点で、30万PV突破&総訪問者数10万人突破しました。御礼申し上げます。2013.11.23

●ロケットニュース様に紹介されました!(http://rocketnews24.com/2013/09/21/371170/
2013.9.21

●初めての方はhttp://blog.livedoor.jp/yasgreen/archives/15501.htmlをお読み下さい。

北朝鮮文学

北朝鮮書籍・文芸5分翻訳④ーー風刺ポエムというジャンル

 北朝鮮の文芸などから変わったものをチョイスしているこのシリーズ。今回は「風刺詩」というジャンルを紹介します。

 日頃、朝鮮中央通信の社説の言葉づかいが苛烈なことで有名ですので、ある程度予期しつつ開いたら案の定でした。李明博元大統領をモチーフにしたポエムです。

 もう引退したから許してやれよ……と思うのですがまあまあ面白かったので。
 割と粘着質なチョソンの伝統的ディスり芸のエッセンスがふんだんに散りばめられております。




誰が狂ったのか?

                                    モ・ウォンドク

もともと美食家といって
甘いものばかり選んで食べいていた明博が
米国産牛肉を食べろと
上様から賜った宴の卓に
頭を下げてたいそう喜んだ

悪評高い狂牛病の肉だが
米国だといえば股の付け根の匂いすら喜ぶ明博は
両目を丸くして
クチャクチャと噛んで食べるのであるが……

隣に座った女房は
心配で静かにささやいた
ーーあなた、狂ったんじゃない?
狂った牛の肉じゃないわよね…
そういって食べてはまた食べるのね

カメラの前でも
誇らしげにクチャクチャ食べ続ける明博が
ーー米国大統領の別荘に
1日泊まれた恩恵だけでも有り余るのに
狂った牛の肉くらい……

唖然とした女房は
口が開いたままボソボソと
ーーああ、ということは
ひと晩分の宿泊費を払おうってこと?
あなた本当に狂ってるわ

その言葉に本当に狂ってしまった雄牛のごとく
両目をギョロつかせながら
明博がプルプルした唇から吐き捨てた言葉
ーーちくしょう、俺と我々の政治が
米国に狂ったんだ!


お、おう。という感じ。
もう「明博」呼ばわりですよ。親しげだな。

「ひと晩分の宿泊費を払おうってこと?」の部分、原文は그 하루밤 숙박비를 물자는거예요?」です。
文章の流れからすると「ひと晩分の宿泊費の元を取ろうってこと?」のほうが適切なような気がして、いまいち釈然としません……。

北朝鮮書籍・文学10分翻訳③ーー北朝鮮のギャグその2 わかんねーなこりゃ……

台風で暇なので突然始めた爆速翻訳シリーズ第三弾。
前回に続いてお次は子供向けカテゴリからの作品です。個人的には子供向け作品のほうが割と自然体で好きです。


不公平な罰

 先生は規律を守らない二人の学生に、勉強が終わった後自分の名前を100回書いて帰れと言った。
 一人の学生は書き終えて帰ったが、もう一人はまだ書いていた。
 先生がなぜかと聞くと、彼は泣きながら答えた。

 「先生、こんな罰は不公平です。彼はハンス・ブランクなのに僕の名前はモハメド・アリ・ジャリディン・ビンハジ・イブラシモアルフォル・ジリートじゃないですか」

 これはまあわかる。ちょっと面白い。

キリンの首

 先生:キリンの首はなぜあんなに長いのでしょう?
 学生:それはキリンの頭が体からあまりにも遠く離れているからです

 ……………(頭を抱える)
 そのまんまである点が笑いどころなのか、それとももっと深淵なところにツボがあるのか。一般人民の笑いどころともちょっと違うような……


 チョソンのギャグセンを制した者がチョソンと交渉できると割と本気で思っていますが。

北朝鮮書籍・文学10分翻訳②ーー北朝鮮のギャグ6連発

 引き続き10分翻訳、お次は「北朝鮮のユーモア」です。

 北朝鮮のギャグセンについては大学時代に卒論にしようと散々資料を探しましたが、結局文書化された資料が乏しく、せいぜい向こうの演劇雑誌の巻末に時々ショートショートが掲載されているだけ。
 それも、一体どこで笑えばいいのかわからない難解なものがほとんどでした。
 結局、時間も限られているため断念した記憶があります。

 そんな北朝鮮ギャグが「我が民族同士」ウェブサイトで「ユーモア」として数例掲載されていました。当時とノリがまったく変わっていません。

 文字だと北朝鮮のギャグセンがほとんど再現されず、理解するのが非常に難しいと思います。
 「え、これの何が面白いの?」という点が逆に面白いというか……
 濃い人民との直接対話のほうがよほどギャグセンに触れられると思います。
 とはいえ、笑いのツボがなんとなく伝わるかもしれないので紹介しておきます。



推理

「昨日の朝、あなたの家に医者が出たり入ったりするのを見たんだけど、誰か具合が悪いのか?」
「もしあなたの家に軍隊が出たり入ったりすると、あなたの家で戦争が起きたと言うかい?」

文章校正

 先生「兄が学校に行く」を未来形に変えなさい
 学生「兄の息子が学校に行く」

個人と集団

 ある集会でマヤコフスキーが新しく作った詩を朗読した。
 このとき、壇下から質問メモが上がってきた。

「あなたは自分を集団主義者と言いながら詩には『私は』『私の』『私を』などと、個人について強調するがそれをどう解釈すれば良いのか?」

 マヤコフスキーはメモの内容を群衆に向けて読んだ後、このように答えた。

「皇帝ニコライ2世も事あるごとに『私は』『私の』『私を』と言うが、それでは彼が集団主義者だというのか?」

疲れたから休んでいるんだ

 ある若者が、一日中ソファーに寝そべってコーヒーを飲みながらダラダラと時間を過ごしていた。
 そんなある日、友人が彼を訪ねてきた。

「お前のザマは本当に理解できない」
 友人はそう言った。

「何が理解できないというんだ?」

「お前は四六時中何もせずに時を過ごしているが、そうやっていて疲れないのか?」
若者は長くため息をつき、「だからだよ。疲れるからこうして休んでいるんだ」と言った。

着想と愚かさ

 とある詩作が好きな青年が、机に座って書くことは書くのだが、地に足をつけておらず良い詩が浮かばなかった。
 そして、その愚かな青年は自分には良い着想が浮かばないともがいてばかりいた。

 ある日道端で詩人のマヤコフスキーと会ったとき、彼はあまりに喜び、飛び込んで挨拶もせずこう聞いた。

「詩人先生! 聞くところによるとあなたは実に豊富な着想をお持ちだと言いますが、私にはどうして着想が浮かばないのでしょうか?」

 以前から彼を知るマヤコフスキーは目をぱちくりさせながら答えた。

「おお、そうか? たぶん着想は机上の愚か者を友にしたくないようだ! 私の経験によると、現実に足をつけてこそ着想という『モノ』が頭の中で脈打つのだ。親しくなろうとしてな!」

内容が健全な本

 資本主義国のとある書店で、客が店員にこう言った。

「本を一冊買いたいのです。科学技術図書でもなく、ええと内容が健全でなければならないのですが、言うなれば妙齢の女性もおらず億万長者もおらず、殺人や強奪、愛と嫉妬のない、そんな本です。ありますか?」

「なくはありません」
 店員はサラリとそういって棚から本を一冊取り出した。
 それは「全国列車運行時間」だった。

北朝鮮書籍・文学10分翻訳ーー児童文学「タダの味」

 何だか史上最強の台風が来るらしく、家でオンライン取材等をしながら引きこもってます。

 暇なんで、政府公式ウェブサイト「我が民族同士」とかで公開中の北朝鮮の文学作品で短めのやつを今後、翻訳して紹介したいと思います。
 第一弾は児童文学「タダの味」。子供向けのショートストーリーではありますが、ばっちりとチョソンの思想を押さえているところがポイント。
 チョソンが国際関係、殊に対米関係において長年維持してきた「タダより怖いもんはない」、いやもっと正確に言うと「タダで貰えるもんはもちろん貰っとくけど怪しいものが紛れてないか調べる、もし紛れてたらお前を殺しちゃうかもしれない」という立場が描かれていますね。
 作者は「朝鮮作家同盟中央委員会 労働者」のキム・クムチョルさん。
 
 10分くらいで翻訳したんで誤字脱字などあるかもしれませんが概ね正確かと思います。意訳も含んでます。


「タダの味」

 タヌキは日が昇ってすぐに釣竿を背負って池のほとりに向かいました。

(今日も昨日みたいにタダで蜜壺をもらえるといいな)
 
 昨日、釣りをしていたら持ち主のわからない蜜壺を見つけてゲットしたタヌキは、今日も何かいいものはないかと周囲を見回しました。

 そんなタヌキの目に、大きなカゴが入ってきました。

(おお、こりゃ本当にたまげたな。今度はなんだろう……)

 カゴの蓋を開けたタヌキはあまりにもうれしくて、ピョコピョコ飛び跳ねました。その大きなカゴの中には、乾いた魚がぎっしり詰まっていたのです。

「これなら数日間は腹が減らない。でも、誰がこんなものを置いておいたのだろう?」

 辺りを見回してみましたが、誰もいませんでした。

「先に手に入れた奴が持ち主なのさ」
 
 タヌキがカゴを肩にかけようとすると、あまりに重くてビクともしませんでした。飛ぶように家に走っていったタヌキは手押し車を持ってまたそこに向かいました。

 タヌキは拳のような汗をボトボト垂らしながら、お隣の目を避けて魚の入ったカゴを家に運びました。

 その日の夜、乾いた魚で腹を満たしたタヌキは満足し、うたた寝をするとどこからともなく慌てた叫び声が聞こえました。

 「狼だ! お山に狼のやつが出たぞ」
 「なんだって? 狼だって?」
 
 タヌキは布団を被ってブルブルと震えました。
 
 その間に、アナグマや鹿、犬たちが狼を捕まえてタヌキの家のほうに向かっていました。狼は舌を噛んで伸びたままズルズル引きずられていました。

「やあ、こいつがどうやって罠をくぐり抜けてうちの山に入ってきたんだ?」
「そうだな……こりゃおかしなことだ」

 山の獣たちは互いに顔を見合わせながら首を傾げました。その時、誰かが叫びました。

「待て、ここに狼の足跡があるぞ」

 狼の足跡をついていった獣たちはとても驚きました。

 狼の足跡はタヌキの家の庭に続いていたのです。布団を被って震えていたタヌキはその声を聞いて飛び出てきました。

「な、なんだって? 我が家に狼が?…いや、そんなわけがない」

 しかし、それは事実でした。

 狼の足跡を辿って倉庫に入ったタヌキは再度驚きました。狼の足跡はタヌキが持ってきた魚のカゴから始まっていたのです。

 「ということは狼が魚のカゴの下に?…それで僕が山に狼を引っ張り込んだというわけか…」

 タヌキは拳のような涙をポトポトとこぼしました。

 「タダでもらった魚カゴだと思って喜んでいたら、その中に狼が潜んでいただなんて」

 事情を知った山の獣たちは一言ずつ言いました。

 「ほら見ろ。世の中に対価のないタダなんてないんだ。自分が味をしめたタダがどんな大事に繋がったか。山の幸せと引き換えになるところだったじゃないか」

 「いずれにせよ、タダの味にハマればハマるほど、さらに恐ろしい罠に落ちるものなのだ」

ーfinー